2016年べストファイト
2016年私的ベストファイトを挙げてみた。試合数が4なのには特に意味がない。
第4位
セルゲイ・コバレフ vs アンドレ・ウォード
(20161119 WBO/IBF/WBA世界L.ヘビー級タイトルマッチ)
実力者同士の無敗対決の緊張感が最高度に感じられた一戦。序盤にいきなりコバレフがダウンを奪う展開。ウォードがコバレスの予想以上の速さに戦い方を変えたその対応力。接戦は判定にもちこまれ、結果は物議を醸しているが、試合内容は極めて上質なのもの。敗けがつくことが切ない一戦だった。
第3位
ジョナタン・グスマンvs小國以載
(20161231 IBF世界Sバンタム級タイトルマッチ)
世界チャンピオンになるためには世界チャンピオンの体をつくる必要がある。
小國選手の体を見て、その細身にこれが世界チャンピオンになれる体かと心配になった。しかし、ラウンドを進むごとにそれが杞憂であることがわかった。
おそらく秘策であったろう左ボディは、グスマンの強打を封じた。的確な距離感、フットワーク、多彩な左、パンチが交錯する際に相手を見切る目の良さ、予測と反応の鋭さによるカウンター、相手の虚をつく洞察力、判断力。相手の嫌がることを続けられる戦術眼。
そして強いメンタル。世界初挑戦のケースでは、王者の力を最大限に想定するため、最大限に緊張し、それが必要以上のスタミナロスにつながったり、ピンチに陥った際チャンピオンに対する過度の恐怖感となって増大し体の自由を奪うことがある。
この日の小國にそれはなかった。グスマンの手を変え品を変えの戦法に対し、一瞬不意をつかれることはあっても、怯むことなく冷静に対処した。そして機を見て反撃を見せた。時には大胆と思えるほどの右の長いパンチを何度も放った。
王者の側に小國選手を舐めていたところはたしかにあるだろう。だから彼の真価はこれから試されるだろう。
それでも、小國選手がここまでみずからのボクシングをハイレベルなものに高めてきたことに感動させられた。そして世界チャンピオンの体をつくってきたことに、敬意を表せずにはいられない。
第2位
山中慎介 vs アンセルモ・モレノ
(20160916 WBC世界バンタム級タイトルマッチ)
あまり説明の必要はないだろう。長らくWBAのバンタム級王者として君臨したディフェンス・マスターのモレノを、ダウンの応酬の末KOで破った試合は、見る者にとってはエキサイティングであると同時にエクスタティッシュでもあった。判定では勝てないとみて打ってでたモレノという面はあるが、山中が至近距離で左を当てるという進化を見せたことがこの試合を新鮮な驚きあるものにした。
第1位
ワシル・ロマチェンコvsニコラス・ウォータース
(20161126 WBO世界Sフェザー級タイトルマッチ)
アマチュア・スーパー・エリートのプロ入り後のボクシングはとてつもなく速くて巧いが好きにはなれないものだった。だがそれが変わったのはローマン・マルチネスを超高速逆ワンツーで失神KOさせてからだ。そこにはプロとしての武器となった彼のパンチがあった。対するニコラス・ウォータース。体重超過や不当判定(?)とごたごた続きだが、ドネアを破った元フェザー級の実力者がロマチェンコとどのような戦いを見せるのか楽しみだった。スピードとテクニックに優るロマチェンコが主導権を握るのは想定の範囲内。ドネア戦で被弾後に立て直してきた得体のしれない復元力がこの試合でどう発揮されるのか。しかし、ウォータースにできたのはなるべくパンチをもらわないようにすることだけだった。自分のパンチを当てる工夫はできなかった。ロマチェンコがそれを許さなかった。そうである以上、自分はパンチを浴び続け、自分のパンチは相手に当たらない、ただそれが続くだけだった。
プロならばギブアップすべきではないという向きもあるが、剣の達人同士が立会中に「参った」をすることはある。両者が技の限りを尽くした好試合として、そしてボクシング技術がいかに相手を征圧するかを示した試合として、最も印象に残った試合である。
特別試合1
オスカー・バルデス vs 大沢宏晋
(20161105 WBO世界フェザー級タイトルマッチ)
すでに旧徳さんの一連の記事で書かれているので詳しく語ることはない。日本人としてベガスのビッグマッチのリングに上がったこと、そしてそこで堂々たる戦いを見せたことは、多くの日本人ボクサーに勇気を与えたであろう、それは私自身もそうであった。サッカーのクラブ・ワールド・カップ決勝で鹿島アントラーズが世界中の小さな町のクラブに与えたものと同質のものだと思う。
特別試合2
ウーゴ・ルイス vs 長谷川穂積
(20160916 WBC世界Sバンタム級タイトルマッチ)
長谷川穂積選手はキコ・マルチネス戦で既に私の中では終わっていた。この試合を取り上げるのは、彼が勝った、あるいは、三階級を制覇したからではない。キコ戦ですっかり動けなくなっていることを露呈した彼が、その後肉体改造に取り組み、この日のような試合のできる体に仕上げてきたからだ。9Rの打ち合いで相手の動きを見切れたのも、その体の強さがあったからこそ。自らを高めることを止めなかった彼に敬意を表したい。
さて、2017年の楽しみはまずは3月のダニー・ガルシアvsキース・サーマン戦である。井上vsロマゴン? 実現すればそれだけで井上は歴史に残るボクサーになるだろう。
BY いやまじで