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『先駆者 山口賢一』 WBFタイトルマッチの意義

WBFポスター


 先日行われた、水泳の日本選手権は大きな話題となりました。オリンピックの選考会も兼ねるこの大会は、国民的な注目の中で行われ、分けても自らの去就をかけて出場した北島康介選手の動向は、一挙手一投足に至るまでメデイアに取り上げられる事態となりました。

 北島選手は決勝で2位に入賞するも、派遣標準記録は突破出来ずオリンピック選考は落選し、レース後現役引退を表明しました。

 この、「北島をオリンピックに派遣せず」という水泳連盟の裁定に対して、結構な数の抗議電話が来たのだそうであります。水連にしたところで、コカコーラという大スポンサーがついていてメデイアの注目度も高い北島をオリンピックに派遣することは多大なメリットがあったことでありましょう。ですがそれをしなかった。そのことの背景には、実はかつての水泳界のスター、千葉すず選手の影響があるというのであります。

 文芸春秋のスポーツ雑誌ナンバーのWebに掲載された生島淳さんの筆による、以下の記事をご覧ください。
        ↓
 北島康介の落選と、千葉すずの遺産。 基準を明快に運用した水連に拍手を。

 千葉すずのシドニーオリンピック落選に絡むスイスのスポーツ仲裁裁判所を舞台にした法廷闘争の結果、水泳連盟の選考基準は明文化・明確化され、クリアになったというのであります。

 実はCSAの仲裁を受けるには莫大な訴訟費用がかかります。そうした障害を乗り越えてでも白黒をつけた千葉選手の強い意志の力は、その高い競技力の源でもなかったのか?と今となっては思います。

 私も当時の選考を巡る千葉と水連の闘争は覚えております。シドニーの前の、アトランタオリンピックで日本の水泳選手団がメダルを逃した後、謝罪めいたこと言わなかったことで批判が集中し、半ば戦犯扱いされた千葉選手。シドニーでの落選は、その時の水連との確執が背景にあることは明らかでありました。

 当時JOC会長を経て水連のトップだった古橋廣之進は、選考の不公正を指弾する千葉の行動を利己主義だと批判し、「水泳は団体競技だ」と開き直る『老害』ぶりを発揮いたしました。もちろん競泳はリレーやシンクロ以外は個人競技です。

 我侭勝手の秩序破壊者だと言われた千葉選手の行動が、15年経ってみれば実は水泳競技のレベルアップや選考の透明化・平等化という功績となって現れたのであります。

 とかく日本のスポーツ界は村社会であり、既得権者に逆らったり、明らかに不合理なものでも業界慣習を批判したり、前例を踏襲しなかったりする人は『問題児』として指弾されます。

 今じゃ偉人みたいな扱いになってる野茂英雄だって実際にメジャーで活躍するまでは、育ててもらった日本の野球界を裏切った我侭な恩知らずで、フォームも変則だから活躍できるはずはない、等々とムチャクチャに批判されました。ですが、結果的に彼が開けた、アリの一穴が日本の野球界に風穴を開け、業界の構造すら変えてしまうようなダイナミックな変化を引き起こし、競技のレベルアップにもつながりました。

 プロボクシング界は未だ不透明で閉鎖的な商習慣や選手契約が横行し、タイトルへの挑戦もテレビ局と結びついた一部の特権的なプロモーターが独占している状態です。

 そんな閉鎖的な日本のジム制度を飛び出して、オーストラリア、フィリピン、メキシコと道なき道を進んできた世界を舞台に戦って来た山口賢一選手のひとつの到達点が明日のWBFタイトルマッチです。

 「マイナータイトルじゃないか」と冷笑する事は簡単です。ですが一選手が自力でここまで到達したケースすら、日本のボクシング界には未だなかった。山口賢一は自分の意志でJBCとJPBAの外に出て、自分のやり方で自分の力で自分が戦う舞台を作った国内で初めての選手なのです。

 千人規模の会場で行われる小さな興行で、マスメデイアもボクシング雑誌も、評論家も誰も取り上げないかも知れませんが、きっとこの興行は日本プロボクシング界の未来に向かって蒔かれた種になると自分は思っています。

 「プリンス論」読んだ直後にプリンスが亡くなって驚いた(旧徳山と長谷川が好きです)

Comment

GSに一生を捧げる男 says... ""
水泳の日本選手権、ワタクシは毎年楽しみにしています。オリンピックの選考も
クリーンで本当に誰にでも解ります!
北島選手であろうとダメなものはダメ!全くブレません。
前後にオリンピック代表が決まったマラソンに柔道。
毎度お馴染みのドタバタ劇を繰り広げ、世間の顰蹙を買ったのとは
雲泥の差でありますね!
水泳が現在のシステムを確立するには千葉すず事件が重要な役割を
果たしたという事ですね!
「身を切る構造改革」とはこの事を言うのだと思います!
それによって他の競技団体との「差別化」に見事にはたしたといえます!
旧態依然とした理不尽な我が国のボクシング界に一人で「挑戦状」を叩きつけた山口選手の
類稀な「バイタリティ」を大いに評価しなければならないと思います!




2016.04.23 16:25 | URL | #- [edit]
says... ""
>タイトルへの挑戦もテレビ局と結びついた一部の特権的なプロモーターが独占している状態です。

一部のプロモーターがテレビ局と結びつくところまでは、どこの国も同じかと思います。数千万円が動くビジネスの世界で、今まで付き合いのない相手と、テレビ局に商売しろというのもリスキーな話。
日本の場合、プロモーターがジムの会長っていうのが一番の問題かと。
来週のトリプル世界戦がいい例ですが、これだけ世界ランカーとかチャンピオンがいる状況で、同じジムの世界チャンピオンで貴重なテレビ枠を独占するのは、異様。その状態は何年も続かないし、目先の利益しか見ていないんでしょう。
特権的なプロモーターは、その特権を生かして、小さいジムの人気出そう、強くなりそうな有望選手のプロモートをすれば、継続的に利益を得られるし、ウィンウィンだと思うのですが。
2016.04.23 21:28 | URL | #XAjl2.RA [edit]
シジミを品種改良して大きくしたい(旧徳山と長谷川が好きです) says... ""
>GSに一生を捧げる男様

柔道、女子マラソンはまた揉めましたね~。

先駆者というのは評価されるのに時間はかかりますが、スポーツでは「空気を読まずにやってしまう」人間がいて起きた進歩発展が多々あることを忘れてはいけないと思います。
2016.04.24 12:20 | URL | #- [edit]
シジミを品種改良して大きくしたい(旧徳山と長谷川が好きです) says... ""
おっしゃるとおり職業的なプロモーターが興行を仕切るようなシステムが必要ですね。

あとは選手の発言権が増すことですね。キックでは選手会設立の動きがあるようですが。
2016.04.24 12:22 | URL | #- [edit]
ビートル says... ""
 かつて80年代に奈良池田ジムの池田久会長が新興のIBFと結んでJBCと闘ったことがありました。これも困難な闘いでしたが(結局、敗北した)、一時は20以上のジムが彼の率いたIBFの日本支部に加わっていたと聞きます。これに対して山口選手の場合はほとんど単独で日本ボクシング界と闘ってきました。さらに厳しい道だったと思います。本当に頭が下がります。
 WBFはメジャータイトルではありませんが、マイナー団体の中では大きい方です。そのタイトルマッチを国内で挙行するところまで持ち込んだのはすごいと思います。なお、JBC未公認の世界タイトルマッチが国内で開催されたのは「幻の世界チャンピオン」と言われたIBF世界バンタム級王者、新垣諭選手以来ではないか(確か32年ぶりだったと思う)。

 たぶん、山口選手のことをボクシングメディアは無視して存在しなかったことにするでしょう(かつて新垣選手に対してしたように)。日本では既存の体制に刃向うことそれ自体が「悪」とされてしまう傾向がありますが、ボクシング業界にはそれがもっとも色濃く残っていると思います。

 最後に冒頭で述べた池田氏はボクシング界を近代化し、欧米のようなマネージャー制度にしなければいけないと考えていたそうです(実際、新垣選手との間にきちんとした契約を行い、ギャラも現金で契約通りに払っていたそうである)。従来、JBCにおもねるばかりのメディアのせいで「私利私欲でボクシング界を引き裂いた者」とばかり言われてきましたが、もう一度再評価が必要なようです。
 なお、JBCはIBFを公認したときに、新垣氏を復権させると言っていたのに、いまだにそれを実行していない。これは早急にやるべきです(まあ、それどころではないのでしょうが)。
2016.04.28 23:11 | URL | #Dp0g9hEU [edit]
シジミを品種改良して大きくしたい(旧徳山と長谷川が好きです) says... ""
山口選手のやっていることは、言うたら実存にかかわる話なわけです。

自分がどのようにありたいか?どんな人間でいたいか?と言う話です。

時代を変えてきたスポーツ選手は常に実存を巡る戦いをしてるわけです。

タブーを侵犯したり、決められた領域を越境したりしたり出来る人だけが常識を変えることが出来るのだと思います。
2016.04.29 17:04 | URL | #- [edit]

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