HARD BLOW !

井上尚弥―アスリートの時代― 20150101


20141230 WBO世界Sフライ級タイトルマッチ
<井上尚弥 2回3分1秒KO オマール・ナルバエス>

最初の2度のダウンはテンプルへの右が効いていた。3度目のダウンは、ナルバエスの攻撃パターンを完全に読み切って放った左ショートカウンター。いや、読み切ったというより、瞬時に相手の攻撃パターンを察知し、かわしながら叩き込んだパンチだった。井上選手にはナルバエスの動きがスローモーションのように見えただろう。両者のスピード差が明確に出た一撃だった。このパンチでナルバエスの目から一気に力が失われたように見えた。左ボディで喫した4度目のダウン。ナルバエスはキャリアの終わりを苦悶とともに受け入れた。(試合後のナルバエスのさっぱりした表情が印象的だった。)

ナルバエスの2013年以降の戦いを見るとFオルクタとの2戦が目を引く。一戦目ではオルクタの突進を止められず、内容的に負けと言えるスプリット判定防衛。

2度目は前回の反省からか前に出るも、中盤再び相手の前進を許し、終盤3ラウンドのスパートで判定をものにした。

ボクサーのキャリア終盤はコンディションに左右されるところが大きい。実際、井上との試合前にも自身の試合についてコンディションが鍵であるとコメントしていた。

そして井上との一戦。コンディションなど問題にならないほど、スピードとパワーに差があった。かといって井上がワイルドであったかと言えばそうではなく、テクニックの点でもナルバエスと遜色なかった。1ラウンドに2度のダウンを奪っても、慌てて攻めず落ち着いて戦ったあたり、精神面の強さも感じさせた。

ナルバエスへの挑戦の話を聞いた時、思い切った選択をしたものだと思う一方、ナルバエスの衰えを見切った上での選択かとも思った。(ジムとの契約書に「強い選手と戦う。弱い選手とは戦わない」の条項を本人の希望で入れたことを思い出す。)井上選手自身プレッシャーに押しつぶされそうになったこともあると言う。しかし、試合では圧倒的な差を見せつけて勝利することができた。

コンパヤックと2度にわたる壮絶な打撃戦を演じたアドリアン・エルナンデスを粉砕した時点で、井上選手の実力は疑いないものだったが、この試合で稀代のテクニシャン(ドネアとの試合で世界トップレベルにあることを証明したと思う)を破壊したことで、その強さは改めて証明されたと言える。

井上選手は成し遂げた仕事に相応の評価を受けているだろうか。世間的な人気の点ではまだまだではないかと思う。それは人目を引くようなサイドストーリーに恵まれていないことが一因かもしれない。アマチュア〇冠、ボクシング一家、兄弟ボクサー、父子鷹。どれも目新しいものではない。大橋会長がつけた「怪物」なるニックネームも彼の風貌あるいはボクシングとマッチしていないように思える。

しかし一番の理由は井上選手のボクシングにあるのではなかろうか。

彼はアマチュアで多くの実績を残している。その指導はトレーナーである父親に負うところが大きいであろう。井上選手の父親は元アマチュア選手だそうである。プロを経験していないトレーナーの指導で世界チャンピオンまで昇り詰めた例は他にもある。情報技術が発達した現代においては、ボクシングの技術的な情報はプロでなくても求めれば容易に手に入れられる。指導者もプロである程度の型ができてしまうと柔軟性を失ったり時代遅れになってしまったりすることもあるだろう。そう考えると井上選手のボクシングはプロを経験していない父親の独自の指導によって、独特の発達・発展を遂げたのではないかと考えられる。もっと言えば、アマチュア時代に培ったものをそのまま発展させたようなところがあるのではないか。プロの枠に嵌め直すことなく、これまで通り選手個人の成長段階や身体的特性に合わせて技術を習得させていったというような、そのような自然さを感じさせる。

例えば井上選手のボクシングを真似ることができるだろうか。辰吉選手のボクシングなら格好だけでも真似ることができるように思える。しかし、井上選手のそれは、スピードがあり、パワーがあり、足が使えて、距離感が良い、そうして当たり前に強い。しかし、彼のボクシングを真似ることはできないように思われる。(彼のボクシングの一種の「クセの無さ」は戦う相手に予測を困難にさせているところがあるのかもしれない。)

私は井上選手のボクシングに「プロ臭さ」を感じないが、それは上記のようなことが影響しているのかもしれない。

かつて1980年代に「素人の時代」ということが言われた。専門家、職業人でなくとも、その道の達人になることができる。それができないと思われたのは先入観に過ぎない。ボクシングの技術もそうなのかもしれない。一部の専門家によって秘されるべきものではなく、お互いに共有できる、伝え合うべきものなのかもしれない。

もう一つ感じるのはアマチュアの技術力の高さである。アマチュアだからといってプロと技術の点で大きな差があるとはもはや言えなくなっているのではないか。競技として十年もやっていれば、プロで即通用する選手が出ることは、他のスポーツ競技では普通にあることである。ボクシングにもそういう時代が来たのではないか。

特段のバックグラウンドを持たずとも、スポーツとしてボクシングに入り込み、プロになり、そうして世界チャンピオンになる。日本のプロボクシングはハングリースポーツの時代から、アスリートの時代になったのではないか。アスリートとしての能力で評価される時代になったのではないか。

井上選手を見ていると、そんなことを感じるのである。

ps 井上選手の評価については、ボクシング・シーンのファイター・オブ・ジ・イヤーを受賞、リングマガジン誌でも同最有力候補に挙がっているようです。すでに海外では評価は高まっている。


Comment

ボクシングセンセーション says... ""
エントリーありがとうございます。井上選手の凄い所は自信に満ち溢れてるというか、自分の強さを全く疑ってない所なのかなと。並の日本人ならナルバエスの実績に物怖じして慎重に戦ってしまい老獪なナルバエスの術中に嵌まる所なのですが、井上選手にはそれが全く無く自信持って攻められるんですね。そこが彼の強みというか、日本人離れした強さかなと思います。
2015.01.02 04:10 | URL | #IhoyXn2o [edit]
いやまじで says... ""
当たり前のごとく勝っているので見過ごされがちですが、メンタルの強さはおっしゃるとおり並ではないです。オリンピック金メダリスト級です。
2015.01.02 05:57 | URL | #Twj7/TDM [edit]
B.B says... ""
ローマン・ゴンザレスと対峙出来るところまで来てますね。



2015.01.02 07:15 | URL | #bH1htKmU [edit]
ななし。 says... ""
2ラウンドの3度目のダウンシーンが印象的でした。
あれは、もう彼しかできない。
ロイヤル小林選手がウィルフレッド・ゴメス選手の下がりながらのカウンターを浴びて
倒れた九州での試合のシーンを思い出しました。
ああいう、人が真似ようにも真似ようもないことができるのが天性。
ともかく、今は強いです。
2015.01.03 01:55 | URL | #/OUezYRM [edit]
井上ファン says... ""
バンテージにサインありましたね。ハードブロウの皆さん残念でした(笑)
2015.01.03 20:17 | URL | #- [edit]
シジミを品種改良して大きくしたい(旧徳山と長谷川が好きです) says... ""
ドネアのダルチニアン戦と同じようなインパクトがありましたね
2015.01.03 21:09 | URL | #- [edit]
シジミを品種改良して大きくしたい(旧徳山と長谷川が好きです) says... ""
>井上ファン様

サインがあったのは喜ばしいことですよ

試合管理がきちんとしていると言うことですから

採点の読み間違いなどJBCのポンコツ運営には変化は無いようですが

富樫リングアナウンサーはあの冗長なアナウンスの文案にばかり凝らずにJBC職員としてきっちり試合運営して欲しいもんです
2015.01.03 21:11 | URL | #- [edit]
井上ファン says... ""
どこぞのポンコツブログもちゃんと取材をした上で「井上のバンテージにサインがない」と言ってほしかったですな(笑)
あんなデマを流して喜ぶ神経は理解不能です(笑)
2015.01.07 03:11 | URL | #- [edit]
シジミを品種改良して大きくしたい(旧徳山と長谷川が好きです) says... ""
>井上ファン様

マスコミに求めるような厳しい姿勢を求めて頂けているのは、我々に対する期待の表れでありましょうか?身が引き締まる思いであります。

ご期待にこたえられますよう今後とも精進致します。本年も変わらぬご愛読をよろしくお願いいたします。
2015.01.07 09:20 | URL | #- [edit]
井上ファン says... ""
まったく反省してないんですね(笑) しょうもない私怨で事実無根のデマを流された井上が気の毒ですわ(笑)
2015.01.09 00:10 | URL | #- [edit]
シジミを品種改良して大きくしたい(旧徳山と長谷川が好きです) says... ""
そんなブロクに足しげく通ってコメントを入れてくれるあなたは素晴らしい読者ですよ(笑)
2015.01.09 00:35 | URL | #- [edit]
B.B says... ""
私怨?

なるほどね(笑
これで良く解りました(笑
2015.01.09 01:40 | URL | #bH1htKmU [edit]
says... ""
井上ファンさんは自分のフィルターを外せないまま、ハードブローの井上選手への試合内容の評価や、自らの試合観もなく、ハードブローを攻撃することのみを目的に偏り続けるようですね。

ボクシングファンが、こうした人ばかりでないことを祈るばかりです。
2015.01.09 23:32 | URL | #- [edit]
B.B says... ""
>日本のプロボクシングはハングリースポーツの時代から、アスリートの時代になったのではないか。

以前、読者の方がどこかで「U-15が華ひらいた瞬間」とおっしゃってましたが、長くボクシングを見ているファンの見解と併せて、なるほどなぁとあらためて思いました。
ジュニア世代育成にボクシング界が注視して枠組みが作られてから約10年が経ちましたが、井上選手の快挙で益々この流れは早くなって行くでしょうね。
既に東京五輪に向けてオリンピアンを我が街から!と取り組んでいらっしゃるプロジムもいくつか現れてますし、日本ボクシング連盟(アマチュア)との強固の連携が今こそ必要ですね。
AIBAとの絡みなど難しい問題も山積ですが、交通整理が出来るリーダーが待たれます。
2015.01.10 09:10 | URL | #bH1htKmU [edit]
井上ファン says... ""
嫌いな選手を中傷したいがために不正を捏造するハードブロウの皆さんは本当にボクシングファンなのですかね(笑)
2015.01.18 06:40 | URL | #- [edit]
シジミを品種改良して大きくしたい(旧徳山と長谷川が好きです) says... ""
井上選手は好きです(笑)
2015.01.18 12:59 | URL | #- [edit]

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