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スポーツ団体のガバナンスを考える 3 スポーツと差別を巡るシンポジウム 対話編

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 「SAY NO TO RACISM-人種差別にレッドカード-」シンポジウムについてのレポートの続きです

 村井チェアマンの基調講演に続いて、大阪弁護士会の相川大輔弁護士による「差別に関する法的整理」と言うテーマの、差別表現を規制する法的な根拠についてのレクチャーが行われました。先般行われた国連人権委員会で日本政府に対して多くの勧告が為されましたが、その根拠となった人種差別撤廃条約についてや、日本国憲法14条、FIFAや日本サッカー協会、Jリーグの規約などの実際の条文を紹介しながら、差別表現規制の現状について分かりやすい説明がありました。

 その後ノンフィクションライター兼ビデオジャーナリストである木村元彦氏が製作したテレビドキュメンタリーを抜粋したDVDの上映へと移ります。この日上映された映像は旧ユーゴ・バルカン半島のサッカー事情を描いたもの。セルビア系住民が応援するチームとムスリム系住人が応援するチームが対戦した時に、セルビア側のサポーターが民族浄化を肯定する横断幕を掲示した事件の映像に続いて、クロアチア系とムスリム系を完全に分離して授業をしているクロアチアの学校が紹介されます。教育現場で憎悪感情が育まれ、対立の種が撒かれていることが分かります。

 当地のサッカーリーグの試合の映像では、暴力的な衝突を避けるためにアウェイのサポーターが徹底隔離された、異様なスタンドの様子が映し出されます。ゴールに興奮したサポーターがフェンスを越えるとすぐさま警官隊が彼らを強制排除し、試合が行われてる街からパトカーの先導で強制帰宅。恐ろしく殺伐としたスポーツ観戦で、およそレジャーというイメージとは程遠いものがあります。

 木村氏の書いた「オシムの言葉」でも、イタリアW杯当時の旧ユーゴの民族対立がサッカーにいかに影響し、選考や采配を捻じ曲げようとしたかが詳述されています。PK戦に縺れ込んだアルゼンチン戦では、選手達はストイコビッチを含む9人中7人がPKを蹴ることを拒否します。当時内戦前夜だったユーゴにおいては、それぞれのPKの成否が民族対立を煽るマスコミの書き方次第でどのように政治利用され、その結果それぞれの出身民族の運命にどのような影響を与えるかが分からなかったからです。オシムが「あれはくじ引きみたいなもの」、とPK戦という決着方法を否定するのはこのときの体験がもとになっていると言われています。その後起こった内戦で旧ユーゴは崩壊し、民族浄化の名の下ムスリム系住人の虐殺が起こったのはご存知の通りです。

 木村氏は上映の前に「バルカンのサッカーの現状を反面教師として見て欲しい」と言いました。偏狭な民族主義・自民族優越主義・他民族蔑視主義を放置するとどうなるのか?ゼノフォビアが台頭する日本も他人事ではないと思えてなりませんでした。

 短い休憩を挟んでいよいよメインのシンポジウムへ。ここでやっと、会場前方を埋め尽くす女性軍団がお目当ての、ツネ様こと宮本恒靖氏が登場し会場も一際熱気を帯びる。この日の進行役は、大阪弁護士会の相川大輔弁護士。実はこの人は元Jリーガーで、試合出場経験もあるという変り種。司会進行にしては話しぶりは『もっちゃり』としていて、ダイスケつながりじゃないですが、どことなく内藤大助を思わせる。


(今回のシンポジウムのテーマとなった『Japanese Only 横断幕事件』については詳しくご存じない方は、浦和レッズHP内の経緯説明のリンクをご参照下さい。)
         ↓
3月8日Jリーグ浦和レッズ対サガン鳥栖におけるサポーターによるコンコース入場ゲートでの横断幕掲出について

 まずは横断幕を掲出した当事者周辺にも取材したと言う木村氏の発言からスタート。当時サラエボにいた木村氏はオシムと食事中にこの事件を知り、オシムに起こったことを伝えると「彼は本当に寂しそうな様子だった」と言います。地獄のユーゴ内戦を経験しているオシムにとって、日本は差別が無い国と言う認識だったのだから、そのショックはひとしおであったのだろうと。

 レッズのサポーターを取材をしていく過程で、木村氏はこの横断幕はレッズに所属する李忠成選手に対するメッセージであることを確信します。実はこのことはソーシャルメデイア上でも事件直後から公然と指摘されていたことでした。特定のサポーター集団が補強で入団した李を『韓国系である』という理由をもって忌避しているという気が滅入るような話であります。

 アジアカップの決勝戦で途中交代で入って、ロスタイムに芸術的なボレーシュートを決めて日本を優勝に導くという、日本のサッカー史に残るような活躍をした李選手。こんな貢献をしても韓国系であるという事をもって差別するようなバカがいるんだなあと私も驚いたものでしたが、木村氏は「この差別のグロテスクさと向き合うことが大事」と指摘し、「日本にいてアパルトヘイトを批判するのは簡単。自分達の足下の問題、隣人にこそ向き合わねばならない」と訴えます。しかし同時にこの横断幕に対する指摘がサポーターからあったことの重要さも指摘し、「サポーターの自浄作用に期待したい」と発言。このシンポジウムの直前に起こった、Fマリノスサポーターによる、黒人選手へのバナナ挑発事件にも言及し、事件後すぐにFマリノスサポーターがアンケートを実施し調査に乗り出したことも紹介しました。

 話を引き継いだ村井チェアマンは、「最初は『日本人だけ』ってどういう意味だろう?」と、掲出した側の意図をはかりかねたことを述べ、続いて「海外駐在の経験から違和感はあった」と感想を述べます。ここで事件収束に向けて意思決定の連続になるのですが、「意図はどうあれ外国人の気分を害することは間違いないし、例えば日本人が香川見たさにオールドトラフォードに高いチケット買って入って『イギリス人以外お断り』と言う掲示があったらどんな気分になるか想像すれば分かること。そう考えれば処分に対する迷いは無かった」ときっぱり断言。しかしいざ意思決定をするのは勇気が要ったのではないか?と感じますがそこについては

 「会社の社長をした経験の中で強烈に反省したことだが、ビジネスのシーンでも自信の無い時ほどジャッジに時間がかかってトラブルが大きくなった。もっと調査しろ、もっと事例を当たれと言って時間稼ぎをしてるときは自分に自信が無い時だった。今回は自分の違和感とアンチレイシズムの指針を機軸に自信を持って事の収束に当たれた」

と言う旨の意思決定が迅速だった理由も説明されました。

 いつまでたっても亀田の処遇が決められない皆さんは正座して聞いたほうがいい話であります。いやそんなポンコツ組織と比較すること自体失礼か。

 無観客試合と言う裁定を下した根拠については「レッズは仙台でもサポーターが一度差別事件を起こしており(この時の対象は韓国人選手)累犯と言うことで厳しい処分になった。ただ処分についてもFIFAに明確な基準がある。罰金の次の段階は無観客試合か勝ち点剥奪と言う指針が示されていたので、指針どおりの裁定を下した。試合当日サポーターから『この横断幕はまずいんじゃないか?』と言う指摘があったのに対応が遅かったということでそこも処分の対象になった」と納得のいく説明がありました。

 つづいてツネ様は無観客試合について、W杯予選での北朝鮮戦で無観客試合を戦った経験の感想を披露。今回の事件をJリーグの理事会で選手から反差別のメッセージを発するように提案したことに触れ、選手を通してメッセージを発する必要を説きます。

 続いて村井チェアマンが意思決定の過程を説明。「速かったと言われるけれど、自分としては時間が止まったようにもどかしかった」と回想。那覇に飛行機で着くまで事件を知らせなかったスタッフを叱責したことについて、なぜか時代劇の『銭型平次』を引用し「あれは始まって五分くらいで八五郎が『親分!ていへんだ~ていへんだ~』って来るでしょ。緊急事態ははあれでいいんですよ。もう立場とか稟議だなんだはすっ飛ばして伝えることを優先しないと」と、迅速な連絡体制の必要をイマイチしっくりこない(でも面白い)例えで訴え、続けて「99パーセントの罪の無い観客の楽しみを奪うのはどうなのか?」と無観客試合に対する葛藤があったことも回想。
 
 春休みでレジャーの予定に観戦を組み込んでいる人も多く、ホテルや交通機関を抑えているアウェイのサポータに至っては純粋な被害者です。しかし結局ここでも決断は揺るぐことは無く「差別はそれくらい大きな問題だということをクラブ側に認識して欲しいし、Jリーグとしてもメッセージしなければならない」ということで処分決定となったとのこと。

  続いて木村氏が今回の処分は「妥当なものである」と評価したものの、メデイアの報道姿勢に疑問を呈し、「観客がいないスタジアムの虚しさを情緒的に描写するのでなく、『何故こうなった?』という原因について論評するべき」と言う至極まっとうな批判を加えた上で、「あれこれ理由をつけて先延ばしせず、初期衝動を大事にして意思決定したところが素晴らしい」とチェアマンの姿勢を高く評価しました。

 ゆるぎない理念と厳格なルールに則りつつ、見識と決断力を併せ持つトップが、スピード溢れる意思決定をするという今回の対応を見るにつけ、サッカー協会の組織としての強さが伝わってきます。

 懲戒解雇を連発したあげく裁判で撤回し、選手が払ってきた医療費目的の積立金に手をつけ、職員の権力闘争に選手を巻き込み、競技でトラブルが起きてもかれこれ9ヶ月放置しているJBC.。トップである事務局長が「私も仕事があるのでボクシングのことばかりやってられない」と法廷で証言しちゃうJBC。それでも事情を知らぬ世間の人はサッカー協会のようなきちんとした団体だと美しき誤解をしています。せめて事情を知ってるファンくらいは、他のスポーツの事情とも比較しながらもうちょっとこの問題に向き合ってもいいのではないでしょうか?

 サッカー界のトップや選手、ファンが共有している問題意識、例えば社会問題への取り組みや、国際的なレベル向上への課題、Jリーグの未来へのビジョン、地域密着のあり方などなどの高度さに比べ、JBCとボクシングファンが夢中でやってる「亀田追い出せ。そうすりゃボクシング村は平和になるぞワッショイ」というタコ踊りは明らかに低レベルです。言うたら大人の悩みと子供の悩みくらい差があると、私は思います。

 というわけで次回、サッカーの差別解消への取り組みへと話は進みます。

 ボクシング界のトラブルの質や対応が幼稚すぎて悲しくなった(旧徳山と長谷川が好きです)


 
 
 

 

 

 


 

Comment

says... "承認待ちコメント"
このコメントは管理者の承認待ちです
2014.09.03 16:05 | | # [edit]
シジミを品種改良して大きくしたい(旧徳山と長谷川が好きです) says... ""

上のコメントは宣伝なので承認してません  
2014.09.03 22:32 | URL | #- [edit]

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