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スポーツ団体のガバナンスを考える 2 スポーツと差別を巡るシンポジウム

パートワンはこちらから

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 というわけでここからシンポジウムについて書いていきます。

 このイベントは大阪弁護士会、大阪府サッカー協会と大阪人権博物館の共催で、Jリーグの差別横断幕事件に絡んだ特別展示「SAY NO TO RACISM-人種差別にレッドカード-」の一環。

 当日は二時開場、三時開始というタイムスケジュール。パネラーが豪華な割に入場料が安いので、定員から溢れることがないように、一応受付開始小一時間前くらいに会場に着くとそこにはすでに行列が。前方を占めるのはツネ様のファンと思しき女性軍団。さすがのモテっぷりであります。Jリーグのサポーターや、社会運動関係の方(「やっぱりサッカーとかがテーマだと沢山人が集まるのね」と感心されてました)など色々な人が三々五々と集まり開場時点で行列は50人くらいと言ったところでしょうか?

 会場となった大阪人権博物館の入場料500円を払って入場し、館内の展示など見学した後、定刻三時よりイベントが始まりました。その時点で会場は立ち見も出る盛況。冒頭挨拶に立たれた博物館の理事長さんは「開場前から人が並んでこんな盛況なのは初めてです」と関心の高さに驚きのコメントを寄せ、差別横断幕事件に対するJリーグの迅速な対応と適切な処分に賛辞を述べられました。この博物館は橋下市長の事業や施設に対する予算見直しによって2013年度より補助金を打ち切られ、現在経営方針の見直しを模索中ということ。このようなテーマで差別問題を取り上げるシンポジウムを行ったのも集客策という側面があるのではと推測されます。今後も色々なテーマでこのようなシンポジウムを開いて頂きたいと個人的には思いました。

 シンポジウムは四部構成で、現職Jリーグチェアマンである村井満氏の基調講演があり、その後大阪弁護士会の弁護士の先生による『差別に関する法的整理』というレクチャーがあり、パネラーである木村元彦氏が製作した旧ユーゴのサッカーについてのテレビドキュメンタリーを抜粋した映像が上映され、その後メインのシンポジウムとなります。
 
 最初は村井チェアマンによる基調講演。Jリーグの「競技レベルの向上・競技の普及」「スポーツ文化の振興」「国際交流」という三つの理念を紹介し、「なにかあったらこれを参照する」と言う発言からスタート。そして校庭の芝生化などでお馴染みの百年構想と地域密着の具体例としての地域活動(年間4000回!)の紹介から、2014年1月のチェアマン就任に際して掲げた「3つのフェアプレー」というスローガンへと話を進めます。その三つとは
・「ピッチ上のフェアプレー」         ・ルールを守る
                         ・レフェリーや相手に敬意を払う

・「ファイナンシャルフェアプレー」      ・『クラブライセンス制度』によるクラブ経営健全化(2012年~)

・「ソーシャル・フェアプレー」        ・反社会的勢力との関係遮断。『暴力団等排除宣言』(2012年2月~)
                         ・差別の根絶
                         ・Jリーグとして社会的責任を果たす


というものであります。今回のテーマ差別問題は三つ目のソーシャル・フェアプレイに属する問題であります。

 小学生がなりたい職業のNo1が三年連続サッカー選手であったことを引用して、村井チェアマンはサッカーと言う競技のポジティブなイメージは理念や地域活動があってこそだと自信を持って断言しました。そしてJリーグは競技レベルがナンバーワンで無くとも公平公正な運営でNo1を目指すことは出来ると説きます。ビジネスの世界から村井氏をヘッドハントしてきたサッカー協会の狙いも、この公正・健全なリーグと言うビジョンの実現だと伺えます。

 彼は、ゴール裏にも女性や子供、外国人が安心してこれる環境こそがJリーグの誇るべきブランドで、そんなJリーグだからこそ排外主義的な横断幕は問題であり理念に反するのだと述べます。ビジネスマン時代にアジアに駐在した体験から「Japanese Only」という横断幕は『直感的にダメだと思った』と個人的な感想を語り、続けてFIFAのアンチレイシズム宣言やJリーグの理念からしても今回の処分には迷いは無かったと当時を回想。

 事件当時は羽田から那覇に向かう途上だった言うチェアマンは、那覇で事件の発生を知りすぐさま対応に入ります。実は同道したスタッフは羽田の時点で事件の発生を知っていたのですが、事態の深刻さを把握しておらず報告を怠り、村井チェアマンは当該のスタッフを強く叱責したそうです。すでに事件はソーシャルメデイアを通して海外にまで広がっていました。奇しくもその日は、広島×川崎戦に八百長の疑いも発生し、チェアマンは二つトラブルの同時対応を余儀なくされます。

 しかしチェアマンの危機感とは裏腹にJリーグ機構のスタッフの反応は鈍く、弁護士のスケジュール調整などで裁定委員会を召集するのに一ヶ月かかると返答してきます。しかしソーシャルメデイア上の反応は激烈で、このまま手をこまねいていればJリーグのイメージは失墜してしまいます。そこでチェアマンはトップダウンで弁護士と電話連絡し、FIFAやJリーグの理念を根拠として迅速に処分を決めていきます。これはトップの決断があればこそのことです。
 
 一方の浦和レッズサイドの対応は比較的迅速であり、チェアマンが求めた日限の二日前に報告を上げてきたことで、事件発生からわずか五日間でリーグとクラブの処分を記者発表することができました。

 このとき村井氏が強調していたのは、リーグがクラブやファンを強権的に規制し処分するという関係でなく、信頼関係に基づいてリーグとクラブとサポーターが一緒になって差別事件を解決する主体となれるようなやり方をとらなければならないと言うことでした。

 「本来スタジアムとは日常の制約を離れて大声を出したり、飛び跳ねたりする場所であり、ルールで縛るような雰囲気では本来の機能を失ってしまう。だからこそチームの運営スタッフやサポーターが一体となって暴力や差別をしにくくなるような雰囲気を作らねばらならない」とまあ大意そのような見解を述べられ、浦和レッズの迅速な対応はそのような当事者意識の現われだと賞賛することも忘れませんでした。自己保身的なトップならここでトラブルの種となったレッズのフロントをほめるようなことは決してしないでありましょう。

 トラブルが起きた時に責任回避し、解決を先延ばしし、マスコミを使って当事者を世間のさらし者する―こういう対応しかできないどこかのスポーツ団体との彼我の差は分かっちゃいるけど、圧倒的でありました。

 この後のシンポジウムは更にスポーツが社会とどのような接点を持つべきかと言う示唆に富んだものとなりました。
                                                             (続く)

 世界に通じるスポーツ団体のトップの姿勢にただただ感心した(旧徳山と長谷川が好きです)

Comment

B.B says... "ビジョンなくしてガバナンスなし。"
村井チェアマンの即断即決、スピーディーな対応からは「サッカーが社会の中で担うもの」をリーダーとして常に考え意識されている事が伺えます。
また、現在と未来にわたる明確なビジョンがあってこそ初めてその線上にある問題点が見つかるのだと思います。

慧眼の持ち主などと使われる言葉がありますが、これは本質を見抜く力の事で、けして特異な能力ではなく、過去現在の分析と理念、そして将来どうあるべきかという理想があれば誰にでも持ち合わせる事が出来ると。
もうひとつリーダーの資質で言えばここに理想実現に向けての覚悟と努力が要求されて来ます。
言葉で表現する事は簡単ですが、利害の渦巻く社会でこれを追求して行く事は並大抵の努力ではないでしょう。
改革を目指せば既得権益にしがみつく者らから恨みを買う事もあるかも知れない。
時に体を張る事があるかも知れない。
しかし、こうしたリーダーのいる社会は総じて幸せであります。

僕自身も様々な社会活動の中で市井の中においても、こうした方々と僅かながらの交流が出来る年代になりましたが、それを繰り返して行きますと、情緒とは別にやがてこの分野がこの人物に託せるか?という視点で見るようになります。
さらに言えばそうした人物らが活躍できる環境が作られているのか?

良い環境を作るのは人。
現場当事者は勿論の事、当事者たらんとする人にも理解が求められる。
それはやがて単なる傍観者をも巻き込んでひとつの文化に育って行く。
このシンポジウムではサッカー界が組織のガバナンスとサッカーの理想像をファンと共に作ろうとしていると見えます。
これはスポーツ界においても非常に良い手本を示してくれたと思います。

「ビジョンなくして、ガバナンスなし」
これはある人がある意味公けの場所である組織を批判した言葉です。
その組織が目的とするところ、社会に向けて何を担いその為に今まさに何をしなければならないのか。そして未来に渡る理想が無ければガバナンスは自然に崩壊する」と危機感を持ってそう訴えられた。
果たして今のボクシング界で明確なビジョンを持つ人が何人いるでしょうか?

僕はこの時、彼が何をやろうとしていたのかがハッキリと見えた思いでした。
2014.09.02 06:42 | URL | #bH1htKmU [edit]
シジミを品種改良して大きくしたい(旧徳山と長谷川が好きです) says... ""
>村井チェアマンの即断即決、スピーディーな対応からは「サッカーが社会の中で担うもの」をリーダーとして常に考え意識されている事が伺えます。

いやチェアマンってある意味それが仕事なので当然なのですが、プロフェッショナルとしてスポーツを統括すると言う職責を果たせる人がやっと異業種から出てきたということでしょう。この辺もサッカーは先駆的であります。元選手や定年後のしなびたような財界人や、天下りの検事というような人種でなく働き盛りのグローバル人材をヘッドハントしてきた。

まあ「私も仕事もあるのでボクシングのことばかりやっていられない」というような人がトップのスポーツとは次元が違いすぎて比較するの酷という気がします。

>「ビジョンなくして、ガバナンスなし」

 なにかトラブルが起きた時にきちんと参照すべき理念があり、そして体温のある判断が出来るトップがいる。これでこそガバナンスが機能するわけです。

 責任転嫁しながら思考停止している人には問題の解決は無理です
2014.09.02 14:48 | URL | #- [edit]
B.B says... ""
その当然の仕事が速やかに出来るという一点でも環境の違いが明らかだと思いますねぇ。

先日、懇意にさせて頂いているある会社の重役さんとの懇談の中で、ビジョンとガバナンスの在り方について伺って来ました。
この方は特にボクシングファンという事ではありませんでしたが、スポーツ全般に渡って一定の見識を持たれている印象でした。
そこでJBC問題だけでなく今のボクシング界を鋭く捉えている事に先ず驚きました。
その一部を紹介しておきます。
「一口で言えばボクシング界はあるべき理念の共有が出来なかったという事ですね。安河内さんの起こされた裁判は勿論知ってますよ。僕は彼とは面識はありませんが、やろうとしていた事は耳に入っています。この歳になると様々異業種の方との交流は多くなりますのでね、アンテナは常に張ってます。大きな人材を失った事に当のボクシング界が気付くのはまだ先の気がしますね」

何故そう思われますか?には

「よく村社会と言いますが、これは小さな社会という事でね、その中だけで生きて行くなら大きな問題は無いわけです。かつては村社会の集合体だった世間もボクシングから精神的な恩恵を受けて来た。しかし、その世間が今やグローバルな社会に変貌しつつあるわけです。言い換えれば価値観が大きく変わった。
国技で八百長問題が取り沙汰されましたが、これまではその歴史も含めて理解して観ていたはずなんです。ところが世間の価値観が変わった。だから問題となった。少年相撲がありますからスポーツという認識に立たなければならなくなったんです。
プロレスと比較すれば解り易いでしょう?
ボクシング界の人は目の前の小さな利益しかまだ見えていないように思います。
ここから脱却しなければならない時代になった。いや、世間がそう動いているんですから。
ボクシングが特殊な構造の世界だとは僕は理解しますが、多くのファンは一般社会を経験してる訳で、その目でまたボクシングに戻って見た時に違和感を感じるでしょう。
世間から乖離した価値観、即ち村社会の論理が広い社会には受け入れられなくなるのは当然の成り行きなんです。
しかし、選手から独立した人の多いスポーツ業界は往々にしてそれに気付かない。これはボクシングだけでは無いですね。ハッキリ言って常識や教養の問題もあります。
少なくとも安河内さんはマネージメント論を実践されて来たんだと僕はそう認識します。
それが排除されて直ちに新しい人材が出ないというのは、リスクマネージメントの重要性をボクシング界全体が気づいていないという事でしょう。これはボクシングだけではないんですけど、一般社会ではあり得ないです。公益認定を諦めたと聞いて、なるほどなとは思いましたが」

その他「マスコミも村社会の一員に過ぎないのだから、過大評価は禁物」や、「ガバナンス改革は相当の覚悟がなければ出来ない」などについて具体的なご意見を頂きました。
どこかでまた紹介出来ればと。
2014.09.04 07:23 | URL | #bH1htKmU [edit]
シジミを品種改良して大きくしたい(旧徳山と長谷川が好きです) says... ""
 現状ボクシングをバイオレンスと誤解してるような人もまだまだいるわけで、本来ならもっと危機感があってしかるべきなのですが…。

 それがなぜか赤字を垂れ流しながら不毛な裁判闘争をやって、わが世の春を謳歌し、トラブルに対しては放置を決め込んでいる。

 やらなければならないことをせず、やらなくていいことばかりしてる
2014.09.04 18:01 | URL | #- [edit]

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