HARD BLOW !

イズム全開 山口賢一インタビュー&スパーリングレポートPart1

 ボクサーの生き方はボクサーの数だけあると思いますが、私の地元大阪に日本の中では飛びぬけて例外的なライフスタイルで生きている山口賢一というボクサーがいます。彼は現役選手でありながら、ジムのオーナーと言う経営者でもあり、自分自身とジムに所属する選手のトレーナー・マネージャーでもあり、興行を行うプロモーターでもあります。2009年に日本国内でのプロボクサーライセンスを返上したあとは、オファーがあればどこにでも出向くと言うスタイルでオーストラリア、フィリピン、メキシコと海外で地域タイトルマッチや世界タイトルマッチを戦って来ました。

 5月10日にフィリピンでのWBOアジアパシフィックのスーパーバンタム級タイトルマッチが決まり、調整のピッチも上がる山口選手。氏が経営する大阪天神ジムにお邪魔してスパーリングを見学させて頂き、その後色々とお話を伺って来ました。いかにしてこの個性的なボクサーが生まれたのか?その来歴は、日本のボクシングにとっても多くのヒントを含んでいると思います。

 山口選手がオーナーを勤める大阪天神ジムは大阪駅から環状線で一駅の天満駅前。飲食店が軒を連ねる路地を抜けて公設市場の二階に上がるというアクセス経路は、減量中のボクサーにとっては地獄の道のりでありましょう。

                  ジム風景
                    トレーニング機材も充実している天神ジム
                 

                  市場
   ジムの一階は安くて新鮮な魚や野菜が揃う市場 筆者も独身時代は近所に住んでてお世話になりました




 開始時間の少し前にジムに到着し、階下の青果店で買った陣中見舞いのバナナを手渡すと「バナナですか!すいません。フィリピン行ったら『嫌がらせか!』言うくらい貰えるんですけどね」と快活に笑う山口選手。

 この日は次戦の対戦相手を想定して、パートナーにサウスポー三人をそろえた8Rのスパーリング。スイッチも交えながら隙あらば強打を叩き込もうという変則的かつアグレッシブなファイトスタイルは、アウェイでの戦いを通して鍛えられた戦法なのだろうなあと感じました。

スパーリング3スパーリング2



 最後のパートナーを勤めた石角悠起選手は天神ジムの所属選手でタイのラジャダムナンスタジアムのスーパーフェザー級チャンピオン。若い所属選手達も中国やタイといった海外で積極的にローカルタイトルや下部タイトルに挑戦しています。良い悪いでなく、現実としてJBCに加盟しているジムとは明らかに違うカルチャーを持ったジムが存在し、プロボクサーを生んでいるという事実を読者の皆様はどう感じられるでしょうか?

                     石角選手


 スパーリング終了後「ゆっくり話せるところがええでしょ」と誘われるまま、ジムの近くのレストランに移動すると、山口選手はテーブルの上にファイルを開いて何やらメモ書きをチェックし記入していく。練習前に課題を書き出したメモ書きを練習後チェックしてファイルに書き込んでいくというこの方法で試合に向けた調整を行っているそうです。
山口賢二 近影 メモ

目が開いている画像がありませんでいた 山口さんスイマセン   『企業秘密』だというメモ

Ⅰ.ボクサー、トレーナー、マネージャー、経営者

HB「毎日そうやって自分でチェックしているんですか?」

山口「スパーリングの動画も撮ってるのでそれも後でチェックします」

HB「山口さんはまずファイターであると同時に自分自身のトレーナーでもあり、また自分を売り込んで試合を決めていくマネージャーでもあり、自分が練習するジムのオーナーでもあり、所属選手にとってのマネージャーでもあります。こういう何でも自分でやると言うスタイルは昔から志向があったのですか?」

山口「ないですないです。それはホンマ手さぐりで自然にですよ」

HB「次々起こることに対応してたら今の形になったという感じですか?」

山口「僕は世界チャンピオンなりたいだけで、ジムの会長なんかホンマは今もしたくないんです。でも世界タイトルマッチしようと思たらお金いるでしょ?その為にはジムの経営せなアカンのです。
 例えばスポンサー集めようと思って企業行っても、ジムやってなかったら社長と社長の話が出来ないんですよ。『お金出すのはええけどこっちになんのメリットあるねん』って言われたら、じゃあなたのところの従業員の方は自由にジム使ってもらっていいですとか提案が出来る。あと興行するときにコーナーポストに広告出しますわとか。」

HB「話してみて『キミも経営者として苦労しとるねんな』と思ってもらえたら通じ合えるものもあるでしょうね」

山口「そういうこともありますね。あとジムの会員さんですよね。自分にとったらジムの会員さんが個人のスポンサーみたいなもんです。月謝払うことでスポンサーになる」

HB「チケット買ったり、祝儀渡したりという関係とは違うスポンサーですね」

山口「よく『応援したいけど何やったらええねん』って逆に聞かれるんですよ。そういう時は『ジム来てください』て言うんです」

HB「ジムに通って、尚且つタイトルマッチするようなボクサーの応援を通して日常で出来ないような面白い体験も出来ると」

山口「会員さんのミット持ったりして関わっていくことで、自然と『応援しようか』ってなるんですよ。試合の時だけ『応援してください』『チケット買って下さい』っていうのとは違うお互いにメリットがある関係を作れるんです」

HB「普段から人間関係があってその延長でって言う形ですよね」

山口「本来それが自然ですよね。でもそれって狙ってやったわけじゃなくて、全部ジムをやってみてあとから分かったことです」
  
話はプロ意識に及ぶ

山口「今のJBCのルールでプロや言うてもみんなアルバイトしてるでしょ?でも僕はボクシングだけで食べてる。これがホンマのプロボクサーやと思います。」

HB「どうやってボクシングだけで生活するかを考えた結果こうなったと。」

山口「そういうことです。海外行って見て分かったのは、みんな自分で考えてますわ。パッキャオでもね、ローチじゃないんです。ローチは雇われてる立場なんです。パッキャオ本人が頭ええんです」

HB「選手本人が自分をどういう風に見せて高く売るかを考えてるということですか?」

山口「それが世界では普通なんです。プエルトリコでカルデロン(ミニマム、ライトフライで二階級制覇)にも会いましたけど、あいつも自分でトレーナーとかスタッフ雇ってやってますからね。『ファイトマネーなんぼやねん?』って聞いたら十何回防衛して一番ええ時ミニマムやのに二億ですよ!」

Ⅱ.会長室で「やめますわ」

HB「もともとは関西では大きなジムにいましたよね?なんで辞めたんですか」

山口「僕ずーっと日本タイトルマッチがやりたくて、会長に言うとったんですよ。でも僕がいたところってとにかく年功序列で、古いもんから順番なんですわ。それと池原さん、国重さん、中村さん、福山さん、みんな一位になっての指名試合でしょ。要するに選択試合で金使いたくないんですよ」

HB「自分は2008年に名古屋で大場浩平と三谷将之の日本タイトルマッチ見に行ってたんですけど、あの時『この試合の勝者に山口賢一選手から挑戦状が届いています』っていうアナウンスがあって、リングにも上がってましたよね?」

山口「あれ見に行ってたんですか。三谷とは何回もスパーリングしてて自信あったし、勝ったほうとやりたいってアピールしに行ったんですよ。でもあれ挑戦状の挑の字の手偏と木偏間違えて『ももせんじょう(桃戦状)』ってなってたんですよ(笑)。ネタやなくて本気で間違えててあれは泣きそうなりましたわ。あれリングに勝手に上がったんですよね」

HB「そうなんですか?よく上げてくれましたね」

山口「自分のジムにも何にも言わんと行ってたから、あとで会長からメチャクチャ怒られましたわ」

HB「結局挑戦できなかったですね」

山口「出来なかった。それで会長に『それやったら最強後楽園に出してくれ』って言うて、そしたら『分かった』って言うたから、こっちは気合入れようと思ってセブ島に練習行ったんです。それで帰ってきてみたら、自分の名前が最強後楽園じゃなくて自分とこの興行の予定に書いてあるんですよ。」

HB「最強後楽園にはエントリーは…」

山口「してなかった。会長に聞いたら『いやお前には声かからんかったで』とかなんかわけの分からんこと言うてて。僕は最強後楽園は自分からエントリーせな出られへんって、選手を出したことがあるジムの会長から聞いて知ってたからなんやこれ?ってなって。結局ね僕が結構チケット売るんで、会長にしたら自分とこの興行に出したいんですよ」

HB「最強後楽園とか出られてもジムに旨みが無いと…」

山口「昔からずっとそうなんですよ。日本ランカーとやる時は『50万チケット売ったらやらせたる』東洋ランカーのタイのチャンピオンの時は『150万売ったらやらしたる』。売りましたけどね。
 『次勝ったら日本タイトルや』ってジムの会長の言うてるのを信じて、僕の後援会長も頑張ってチケット売ってくれてたんですけど、さすがにそう言い続けて二年くらい経ってるしチケット買ってくれてる人からも「いつまで経ってもタイトルマッチやれへんやん。話が違う」っていう感じでプレッシャーかかって来るしで…。それで後援会長が『ジムの会長と話する』っていうて直談判に行ったんですけど、会長室から出てきたら泣きそうな顔で僕のとこ来て、話聞いたらジムの会長は『俺そんなこと言うたかな?』ってとぼけてて全然やる気ないんですよ。そんな風に後援会長が俺のせいで悪者みたいになるのはひどいし、それですぐ会長の部屋行って『いやもうタイトルマッチできへんのやったらやめますわ~』っていうてその場で辞めたんですよ」

HB「いきなりですか?」

山口「いきなり」

HB「引き止められなかったんですか?」

山口「別に…。トレーナーとかはちょっと止めてくれましたけど」

Ⅲ.オーストラリア

HB「ライセンスを返上したあと、どうするつもりだったんですか?」

山口「いやどないしよかなと思って、後援会長も『お前どないするねん?』って言うてくるし。でもボクシング日本だけちゃうでしょ、なんとかなるやろって。海外でチャンピオンなるのもおもろいなーくらいの感じで」

HB「オーストラリアでのビリー・ディブとのWBOアジアパシフィックタイトルマッチは、どういう経緯で試合が決まったんですか?」

山口「海外の色んな知り合いの奴に『なんか試合ないか?』『行くわ』『行くわ』いうて電話してたんですよ。その中に同じジムにおった外国人トレーナーでオーストラリア人のジャステイン言うのがおって、そいつに『久しぶりやなー俺ジムやめたけどなんか試合ないか?』いうて電話したら、『オッケーオッケー』言うて、その次の日にエラい興奮して電話してきて『ビッグマッチや!ビッグマッチや!』言うから『なんやねん』って聞いたら『ビリー・ディブ!ビリー・ディブ!』って叫んでて」

HB「ビリー・ディブ(後のIBFフェザー級王者)は知らなかったんですか?」

山口「全く知らんかった。なんやコイツ?誰やねん!ちゅう感じで。最初は世界タイトルマッチやったんですよIBOの。でも僕がIBOの世界ランキング入ってないからWBOアジアパシフィックのタイトルに変わったんですけど。ファイトマネーなんぼやって聞いたら5000ドルやって。50万ですよ。日本では毎回5万円くらいしか貰ってなかったからいきなりその十倍ですよ」

HB「日本から出たらいきなりタイトルマッチ出来てファイトマネーは十倍になってそりゃやるでしょと」

山口「ただ一つだけ難点があった。それは階級がフェザー級やったんですよ。フェザーは未知の世界ですわ。でも後援会長にタイトルマッチも見せたいし、ボロ負けしたら引退したらええわくらいの勢いで、イチかバチかで『まあええわ、やるわ』って」

HB「その場で即答ですか?」

山口「でも結果的にそれが良かったんですわ。海外では『ちょっと考えさせてくれ』『明日まで待ってくれ』って言うてたら、すぐ他の奴に決まってまうんですよ」

HB「じゃビリー・デイブが何者かも知らぬまま試合を決めたと」

山口「そう。ファイトマネーもええしね。ただそのファイトマネーがね、オーストラリアのホテルでテレビ見てたら、試合のことガンガンやってて自分が写ってるんですよ。嬉しいからその画面とか携帯で撮影したやつ日本の友達に送ってたらあとで携帯料金の請求が30万くらい来て」

HB「ファイトマネーの5分の3!」

山口「何やっとることやら分からんですよ」

このディブ戦のオープニングで山口選手が奪ったダウンとその後の反則騒動が、結果的に彼の海外でのキャリアを切り開くこととなりました。メキシコでのサリド戦、ボクサー山口の原点、また高山勝成選手の高校入学の裏話などなど、さらにヤマケンイズムが炸裂する次回にご期待ください!



 実物の山口さんはこの百倍面白いと知っている(旧徳山と長谷川が好きです)


Comment

B.B says... ""
実に面白い、なんて面白いんだろう。

いや、色々ありますよ。
だけど、僕ら押し付けられるように見ているボクシングだけがボクシングじゃない。
目から鱗が落ちました。

先日、あるボクサーの集まりに参加させて頂きましたが、選手が何を求め何を訴えたいのかを目の当たりにして来ました。

繰り返しになりますが、色々あります。健康管理の問題とか日本の事情とか。
だけど最低限のモラルが守られるならば、ボクサーの数たけ選択肢はあって良いとも思います。
あくまでもボクサーが主役なんですから。
2014.04.23 04:27 | URL | #bH1htKmU [edit]
いやまじで says... ""
いやあ面白過ぎます!!
そして一本筋が通っている。
だから気持ちがいいです。

高山選手だけじゃなかったんですね。
というか高山選手の先駆けになったんでしょうか。

世界はいつも開かれているんですね。
2014.04.23 06:41 | URL | #Twj7/TDM [edit]
やわらか says... ""
読みごたえありますね!インタビュー!しかもかなり赤裸々にあっけらかんと。山口さんに興味がわいてきました
2014.04.24 14:27 | URL | #- [edit]
中田 明臣 says... "同級生"
いや~
小学・中学と同級生で卒業後、30歳で再会するんすわー。
やることやることがおもろいやつって中々いませんからね。
人が面白がることをやりよるんすよ
固定観念とか賢ちゃんにはないからね
ほんまくやしいわー
賢ちゃんと再会して
安心したもん笑
俺もだいぶおかしいと言われてきたけど
全然大丈夫やんってね!
まだまだ賢ちゃんに比べたらまともやってね!
感謝してます!
これからも賢ちゃんを目指します

ちなみに
賢ちゃんって呼んだことないからね笑

じゃーにー
2015.09.24 19:51 | URL | #MTZSzauY [edit]
シジミを品種改良して大きくしたい(旧徳山と長谷川が好きです) says... ""
>中田 明臣様

コメントが入っていること長い間気がつきませんでした。まことに失礼しました。

山口選手は周りを明るく元気にする人で、また人の縁を大事にする人ですね。

ああやって自分がやりたいことをするために努力する人が世の中を変えていくのだと思います。
2016.04.15 17:48 | URL | #- [edit]

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