HARD BLOW !

感想文「狂気に生き 第二部」vs「アンチェイン」

友人から一冊の本が送られてきたので読んでみました。「狂気に生き 第二部」(佐伯泰英・著、新潮社)。金平毒物オレンジ事件のルポです。

具志堅と二度戦ったリゴベルト・マルカノをベネズエラに訪問、帰国後元トレーナー氏へのインタビューと書簡の交換、協栄関係者とセキ・ジムへの取材、ジョー小泉の存在、そして裁判へ。

読み進めながら感じたことは、ボクサー達が戦うリング、その舞台裏で繰り広げられる様々な工作活動の存在である。噂やフィクションの世界で真偽定かならぬ出来事として語られてきたそれらが、ここでは事実として語られる。その生々しさに衝撃を受けました。

そして著者の周到で粘り強い取材。マルカノの敗北の瞬間を撮った著者が、なぜあの日ペレア(戦い)を撮れなかったのか。証言の錯綜、混迷。読み物としてサスペンスを湛えながら、事件の真相はあの日の疑問への答えとともにある一点に収斂していきます。この取材は著者の魂の旅、存在証明の旅でもあるのです。

旧徳さんは本書を「一瞬の夏」と並ぶ歴史的な一編として紹介していましたが、後者に比べて本書の知名度は低いと言えます。ボクシング界にとっては汚点であり、触れられたくない部分を扱っているからでしょう。ネット上の情報も、この事件に関しては極めて少ないように思います。事件自体がネットが普及する以前の古いものであるからということはあるでしょうが、事が事だけに関係者もファンも積極的に語りたくないということはあるでしょう。そうして情報自体が表に出てこなくなったということなのではないかと思います。

1982年、世間的にはJBCによる金平会長の永久追放で幕引きが行われたこの事件。当時でも臭い物に蓋的な対応で、真相究明は行われなかったことに不信感を持ったことを覚えています。そうして本書が刊行されたのは1986年。

そして今、実名で書かれている本書を取り上げることには、それなりに考えてしまうところがあるのも確かです。

しかし私は思うのです。ボクシング界の暗部を掬い取り、白日の下にさらすことは、一時的には不信と人気低迷につながるとしても、ボクシングに関わる人間達の誠実さと真実を求める心を証明する意味では大きな意味を持つのだと。

あってはあらないことがあったということ、そうして今もあるかもしれないということ。そのことを警鐘し続ける本であると思います。

凄い本だな、と思いました。

****

同梱のDVD「アンチェイン」(映画)も見てみました。

4人のボクサー及びキックボクサーの運命の交錯を追ったドキュメント映画です。

人間はただ生きているだけでは満たされない。いつも何かを求めて戦わずにおれない。そういった4人を描いた作品です。

それにしても激しい。

彼らは自分たちのつながりを友情ではないという。おそらく言葉にするにはあまりに繊細なものであるのでしょう。

彼らの「間」に何かがあるとしたら、たとえ一勝もできなくてもボクサーにとってリングとは魂の解放区なのだいうこと、ただそのことだけなのかもしれません。

****

仲間と集まり深夜に及んでボクシングのことで話し込んでいた時、ウチ猫さんが「こんな時間までおっさんたちがボクシング談義(12時間以上)してるってのは、頭オカシイっすよね!!」と言って一同大笑いしたことがありましたが、たしかにボクシングに関してはみんな狂気を抱えているのかもしれません。

by いやまじで

Comment

B .B says... ""
金平正紀さんは最期まで真実を語らなかったですね。
関わった人らの口を封じる為だったか、当時のトレーナーのお一人は、選手を守る為に口を開いた事でその後一八年間もプロボクシング界から追放されてしまった。
多くの人々の人生を狂わせた事件でした。

ただしこの本では金平さんの関与は明らかにしていないですよね?
そこまで行きつけなかったのか、あるいは金平さんもまた誰かを庇ったのか・・。
当時の証人が存命の内にこのハードブロウでも取り上げたいと思いますが、実は僕はこの本を3/4ほど読み進めて止めてしまったんです。
途中何度も読んでは閉じ読んでは閉じの繰り返しで、結局最後までは怖くて読めなかった。

ボクシング少年で具志堅さんの大ファンだった僕はその活躍が脳裏に鮮烈に刻み込まれていたからです。

知らなければそれで済む事でしたが、僕らファンの抱えるテーマを深く掘り下げる為には必要なテキストの一冊なのかも知れません。
今度は頑張って最後まで読みたいと思います。

読み手の受け取り方は様々でしょう。
しかし、これは単なるスキャンダルな事件の暴露本では断じてない。
当時は大騒ぎだったようですが、30年経った現在は意外に知られていません。
歴史の証本のひとつと思いますね。
2013.06.03 20:19 | URL | #bH1htKmU [edit]
ななし。 says... ""
「狂気に生き」-、今、手元にあります。

第2部「疑惑のタイトル・マッチ」の164ページ。



「なんとか中止できないか」
「できないよ」
「じゃあ、今後、おれは西出さんの側につく。佐伯さん、あらゆる手段を使って
おれは戦うよ」
「それが今夜の目的さ。それでいいよ」
 ジョー小泉は、ビールとテキーラに酔った身体をゆらゆらさせながら、
絶交を僕に申し渡した。その夜、ぼくはひとりの友人を失った。
                                       』

片方は、後の時代小説の第一人者、かたやボクシング殿堂入りのマッチメーカー。
そのギリギリのつばぜり合い。こういうのが現実の醍醐味で、それを
書ける場にいるかどうかがノンフィクション作家の質だと思う。
「一瞬の夏」で、沢木耕太郎さんも、こういう場面にいたのは
間違いないと考える。

書き手の人生が、生き方が、試されるのが分かるノンフィクションは、間違いなく
読み手の心に響く。「狂気に生き」は知っての通り、人間を追求した本ではあるけど
事件の真相を暴くための書ではない。ただ、1986年の4月、つまり今から27年も前に
出された本の、「狂気に生き」の題名が、今、改めてボクシング界で通用するタイトル
になろうとしている気はする。

2013.06.03 22:46 | URL | #/OUezYRM [edit]
シジミを品種改良して大きくしたい(旧徳山と長谷川が好きです) says... ""
「狂気に生き」はオレンジ事件の真相に迫りながらも、同時に佐伯氏の余りにも赤裸々な心情の表出にいつのまにか読者がシンクロしていくところが面白いですね。描写型のジャーナリズムの枠を超えた自分語りですが、それは「プレイボーイ 日本版」という当時の掲載誌の特色でもあったのでしょう。カメラマンでもあった氏が後々遅咲きの歴史小説家として大ブレイクしたのも、この様な困難な著作をモノにした経験があってこそでしょう。

思考の流れと対比される客観描写も素晴らしく、分けても巻頭のベネズエラへの旅のシーンの匂い立つような生々しさは自分が見知らぬ土地を彷徨っている気分にさえなります。マルカノ(昨晩偶然野球ファンの方より、阪急にいたマルカーノの親戚であった事を教えて頂きました)の自宅でのやりとりや子供を交えた奇妙な生活を送る部屋の描写にも、こぼれるような叙情が横溢しています。

ホテルのロビーや西出氏の自宅での会談や、やり取りされた膨大な書簡で展開される氏の奇妙な「ペレア論」を聞いているうちに風景が歪み、時空が歪み、思考すら歪んで行くかのような意識状態に陥った氏が、しかし自分が撮った試合写真から呼び戻した記憶・直感でもう一度思考を立て直す過程もスリリングでした。カメラマンと文筆家という二面を行き来する必要が結果的に佐伯氏の思考の均衡を保ったと私は見ます。

しかしこういう長文を発表できる媒体はすっかりなくなりましたね
2013.06.04 11:11 | URL | #- [edit]
たか says... ""
記事と関係なくて申し訳ないんですが、徳山さんのブログを見たら、渡辺二郎さんと撮った写真を載せてますね。
ハードブローの方たちは、徳山さんと面識のあるかたもいるはず。
助言した方がと。
なんかすみません。
2013.06.05 17:12 | URL | #- [edit]
シジミを品種改良して大きくしたい(旧徳山と長谷川が好きです) says... ""
そりゃー徳山さんに直接言ってあげて下さい
2013.06.05 21:34 | URL | #- [edit]
B .B says... ""
徳山さんもうすぐ二児の父ですね。
色々ありますけど、仲間に囲まれて幸せですわこの人。
というか魅力があります、徳山さんは。
僕にとっても丸徳は心に残る良い想い出です。
また行きたいっすね。

と、久しぶりにブログ覗くと最新の写真にアンチェイン梶さん!?

http://ameblo.jp/tokuyamamasamori/entry-11543270594.html

記事の映画「アンチェイン」観ましたけど秀作でしたね。
狂気と赤裸々な人間模様に終わってもしばらく動けませんでした。
映像からは、自分の中の狂気をも呼び覚まさせるようなパワーを感じましたが、しかし登場人物の支えがあたかも観ている自分を支えてくれたように、現実に引き戻してくれました。
なるほど日常のバイオレンスや狂気は人間との関わりの中で均衡が保たれている。
それでも「心は鎖で縛れない」は胸に響きます。
2013.06.06 20:53 | URL | #bH1htKmU [edit]
間桐桜 says... ""
 この「狂気に生き」、私がよく行くコインランドリーの本棚に置いてあります。

 私はまだ、パラパラと見ただけに過ぎませんが、
一度真剣に読み始めてしまうと、洗濯物のことを忘れてしまいそうです。
2013.06.14 14:56 | URL | #- [edit]
今日の大阪は36度(旧徳山と長谷川が好きです) says... ""
>間桐桜さま

凄い話ですね。オーナーに取材したいです(笑)
2013.06.14 22:38 | URL | #- [edit]
B .B says... ""
コインランドリーに!!


2013.06.15 08:19 | URL | #bH1htKmU [edit]

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