HARD BLOW !

Wクリチコ―Eスチュワード氏に捧ぐ―

ウラジーミル・クリチコvsマリウシュ・ワフ
世界ヘビー級タイトルマッチ(WBA、IBF、WBO、IBO、リング誌)
Wクリチコ勝利(120-107,120-107,119-109)


王者ウラジーミル・クリチコ(ウクライナ、58-3-0,50KO、198cm)に体格で勝り、若く技術もある挑戦者マリウシュ・ワフ(ポーランド、27-0-0,15KO、202cm)ということで見てみた。

ウラジミールが自分より長身のワフに対して戸惑うのではないかと見ていたが逆だった。少なくとも1Rを見る限り戸惑っていたのはワフの方だった。それは身長だけでなく、パンチのスピード、反応のスピード、タイミングの取り方、すべてにおいてである。

ウラジミールは、左で相手を牽制し速いワン・ツーでオープニング・ヒット。ワフのジャブをバックステップ、スウェー、ヘッド・スリップと最小限の動きでかわし、即座に攻撃に移れる距離に戻る。ある意味これのくり返しだった。

ワフは1R様子見があっただろうが、2R以降前に出ても、パンチを当てるタミングをほとんどつかめず被弾し続ける。5Rに良い右を当ててウラジミールをぐらつかせたのが唯一の見せ場だった。ただしっかり顎を引いて決定打を食わなかったこととハートの強さは今後に期待させるものがあった。

ワンサイドゲームだったが、ウラジミールの見事なボクシング技術とワフの頑張りで緊迫した見ごたえある試合となった。故Eスチュワード氏(ウラジミールらを指導した名トレーナー)に捧げる試合であったこともその理由の一つにちがいない。
スチュワード氏の訃報

それにしてもウラジミール・クリチコのボクシングは素晴らしい。あのスピードとテクニックを2メートル近い体格でできること自体奇跡だが、それだけでなく、相手の意図を読み、それを外して自分の意図(狙い)を実現する、ボクシングのある種の妙味を感じる。ペース掌握、ラッシュ、アウト・ボックスと戦術変化も自在だ。単に大きくてスピードがあるから強いという以上の魅力的なボクサー、ボクシングである。そしてそれはたしかにEスチュワード氏とともに作り上げたものだ。

by いやまじで

付記1
ジョーさんが長身選手の指導法について海外と日本との違いに触れていた。日本では腰高とされて腰を落とすように指導されるが、海外ではアップライトのまま打ち下ろすような打ち方の指導になるのだそうだ。どちらが良いかは、骨格など人種的違いもあるだろうから、一概には言えないだろう。ただ、これまで日本人の長身選手がクラウチング気味になってリーチを生かせない例はよく見るので、なるほどと思った。(これは実際にはジムやトレーナーによって違うのでしょうが。)

付記2
この日の会場となったO2(オーツー)ワールドアリーナは独特の雰囲気で、アメリカとはちがった形の世界戦のプレミアム感を作り出していた。客席のブルーとキャンバスのホワイトにボクサーの肌の色が映える。15000のキャパは2m同士の戦いでは後方客席にもよく見えてマッチしていただろう。観客が技術の攻防を好む傾向があることも含め、日本はこちら寄りかもしれない。

Comment

B.B says... ""
いやまじでさんのクリチコ評は端的にまとめられましたが的確と思います。
キャリア中盤で見せた脆さは防御技術を磨いて、更に冷静さを身に付け見事に克服している。
現在、世界最強に相応しいボクサーの一人になりました。
しかしですねぇ・・
怪物・タイソンショックの弊害でしょうか、技術のボクシングは中々人気につながりませんね。
ライバル不在もラリー・ホームズの無敵時代に被ります。
ヒーロー出現の期待がクリチコへの正当な評価を妨げていると言ったら言い過ぎでしょうか。

長身選手の指導法についても興味深く僕もなるほどと改めて思いました。
僕は長身のスラッガーが好みでして、思い出されるのはスチュワード氏が大改造してパンチャーに変貌したトーマス・ハーンズですが、アマチュア時代155勝のうちストップ勝ちは僅かに12と非力だった事には驚きました。
ロベルト・デュランを失神させた右ストレートもまさに打ち下ろされたものでしたね。

そういえばよく「パンチ力は天性」と一言で片付けられる事がままありますが、僕はこれに一部異議を唱える派です(笑
ハーンズもそうでしたが、「その素質を発掘開化しただけ」とは言い切れない場面があります。現在日本を代表するパンチャー内山高志選手もアマ時代は「パンチが無かった」と告白していますが、それがどこで変貌したのか?は「ある」猛練習をやり続けた結果との事でした。
とても古典的というかむしろ原始的で妙に納得するものでしたし、非力に悩むボクサーの希望につながると思いました。
2012.11.12 08:39 | URL | #65fpICiI [edit]
いやまじで says... ""
クリチコの不人気の原因はたくさんあり(巨体、強過ぎ、非米国、兄弟両方強過ぎ、性格ふつう、etc)、私もこれまでそれほど面白いとは思わなかったのですが、この日の試合に関してはそうではなかったですね。おそらく相手のワフがクリチコに劣らぬ巨漢だったことでクリチコの技術が際立った、ワフがクリチコの真価を引き出したところはあると思います。その意味では対戦相手がだれであるかというのは非常に大切だということでしょうね。

内山のパンチャンーへの変貌の秘密は「緩くて深いボクシングナイト」http://napplebox.jp/archives/category/boxing-night-info
で語られたのでしょうか。パンチ力が天性かどうかという問題自体私は疎いのですが、物理的に測定できる限りでのパンチ力増強は理論的に可能なのでしょうが、骨格や筋肉の質や動きのメカニズムなど、非常に複雑なものでしょうから、科学では簡単に導出できないものがあるでしょうね。逆に原始的と見える単純な方法が全体的に理に適っていることはありうることだと思います。
2012.11.12 22:04 | URL | #Twj7/TDM [edit]
シジミを品種改良して大きくしたい(旧徳山と長谷川が好きです) says... ""
坂本さんもあるきっかけで倒すパンチの打ち方(「ナックルの返し方」と言う表現でした)が分かったと言ってましたね。
長身選手はパンチを打ち下ろした方が理に適ってますよね。拳が高い位置から出れば位置エネルギーを上乗せ出来るわけですから。自分らが子供の頃の野球入門書は全部「ダウンスイングが正しい」と書いてました。「荒川コーチとONの打撃理論こそ正しい」と言う時代の空気がそのまま反映されていた。玉木正之さんが「打撃理論の論争はOBの派閥抗争の縮図」と言ってたなあ。関係ない話でスイマセン
2012.11.12 23:07 | URL | #- [edit]
いやまじで says... ""
>拳が高い位置から出れば位置エネルギーを上乗せ出来るわけですから

たしかにそうですね。私もダウンスイングで育ったクチですが(笑、実際やっていて、高い位置からの位置エネルギーは直接体感できましたから説得力ありました。あと、王が真剣で短冊を切ったりする練習をテレビで見てこの理論はすごいと…(笑

ボクシングでは日本人は上体の力が強くないから下半身の力を上体に伝えるために腰を使う必要があるんだ、といったことも聞いたことがあります(これは野球でもよく聞きます)。そのために腰を落とす説が主流になっているのではないか。

ただ、日本人のこの種の理論を検討してみると、要は全身の力を一点に集中するためにはどうしたらよいかというところがあって、これはこれで実は非常にすぐれているのではないかと思います。ただ、そのために、体の一部分しか使わない理論はエネルギー利用として非効率だ、と排斥してしまう。そこはちがうのではないかと。

広岡監督がスナップスローができないヤツは内野手として大成できないみたいなことを言ってましたが、体の一部分を使う技術というのも必要なのではないか。というより、「体の一部分しか使わない」というのは実は表層的な見方で、どんな技術も全身を使っている以上、その見方自体を考え直す必要があるのではないか。フリッカー・ジャブはフルパワーのパンチではないけれど全身を使っているのであって、決して腕だけ上体だけを使っているわけではない。前後のボクシング的戦術も練りこまれた体の動かし方である。そういう観点から、理論を再検討していく必要があるのではないかと感じています。(おそらく日本でもラディカルに考えているところでは、すでにそれは進んでいるのだろうと思いますが、実際どうなんでしょうかね。)
2012.11.13 00:14 | URL | #Twj7/TDM [edit]
オルフェーヴル says... ""
「パンチは天性」ということで、自分がイメージするのは、腰の粘りや手足のバネです。どうしてこういった曖昧な書き方になるかというと、全体の連動が先に(もしくは共に)あるから。今ではスポーツ選手のほとんどが体幹トレーニングを取り入れていると思いますが、どうも信用できないところあります。こう言ってしまうと元も子もないですが、要素を統合していこうとする手法が気に食わない(笑)。全体のまとまり方という観点からいうと、'ナチュラル'なパンチャーの方が科学的手法より一歩二歩それ以上、先を行ってると思います(それを素質という言葉で片付けている)。

スポーツトレーニングやコーディネーションについて(ググって目についたもので精査したわけではありませんが)↓
http://www.スポーツトレーニング研究室.net/
http://training-navi.com/common/112.html

その他、日本のボクサーに関して思うところを率直に書くと、総じてリズム感がないように思います。神経系に関する感受性が弱い。'精神'という言葉の捉え方が現実的ではない(精神はとどのつまり身体から来る)。この瞬間、動いているものをとらえる直観というものを知らない。自分はナマクラで、プロボクサーと戦ったら一瞬でやられますが、例えばパッキャオの動きでわかるところもあって(自分の肌と合う)、それは端的に乱数だと思います。セルオートマン↓クラス4
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%9E%E3%83%88%E3%83%B3

ちなみに天才と言われる人は、(乱数というより)素数に対する感受性が高いと思います。それに加えて直観が異常(これこそが摩訶不思議)。逆に言えば、生命がそういう風に生まれてきたというのが先なんでしょうけど…。何が言いたいかというと(凡人と共通しているのは)、ナチュラル(なリズム)を手がかりに、諸要素が活動するように手を広げていく手法もあるということ。例えば、リズムが先か?ジャブが先か?と問われて、リズムが先だという日本人指導者はいないと思うんですよね。エッチする時、キスが基本でもいいけど、それは肌の温もりがあればこそ。

クリチコは嫌いじゃないです。大会場を埋める力と、計算されたボクシングに熱狂している様子が素晴らしい。ただ、日本の観客は、そういう見方をしてないんじゃないでしょうか?例えば佐藤の試合。ホールでの世界挑戦は満員御礼で、いざ防衛となったら閑古鳥。つまり、自分達がエレクト(ビンビン)する範疇じゃないものには興味をしめさない印象です。努力の井岡vs防衛戦をこなしていない八重樫にはビンビン来るけど、山中vsダルチの攻防がなぜかわからなくて、これまで外人なら普通に許容してきた最終ラウンドにこだわる。
2012.11.13 04:01 | URL | #xZmwsLBc [edit]
オルフェーヴル says... ""
こんなに遅くまで起きていて、明日は死ぬでしょうけど…いつコメントできるかわからなくて、乱文ごめんなさい。内山は、指にパンチを集中させることは明かしてましたよね。スラッガーといった感じで、上半身の使い方が巧い印象ですが、どういう動かし方してるのか?自分も興味あります。B.Bさん、よろしくです(笑)。
2012.11.13 04:30 | URL | #3q34p/8s [edit]
B.B says... ""
時間無かったもので勿体ぶるようになってしまいスミマセン!

いやまじでさんが紹介してくれましたが、ウチ猫記者ほか読者の方々と11月5日の「緩くて深いボクシングナイト内山高志編」に行ってきました。
http://napplebox.jp/archives/category/boxing-night-report

アマ時代の内山選手は非力なパンチをひたすらサンドバッグを叩く事で克服したそうです。
それも毎日10ラウンド程度、手を抜かず一発一発渾身の力で叩き続け一年ほどすると、骨格から広背筋、上腕などが見る見る大きく強くなっていたのを感じたと言います。
するとこれまで打っていたパンチでダウンを奪えるようになった、と。
ボクサーに必要な強く逞しい体の成長と共に拳の感覚を鋭くする副産物があったようで、それを示唆する発言では・・

「打撃の際に注意するのは当たる瞬間に強く握りこむ事。そして中指の拳骨が当たるようにする。人差し指と中指の拳骨が当たれば更に相手には痛いはずだが、それだと自分の拳も壊してしまう」

実にシンプルというか皆が安心して納得できるサンプルではないかと思いました。
もっとも休みなく続けた努力があってこその結果ですが。

良く拳が硬いという表現がありまして、内山選手のそれも石の拳といわれたロベルト・デュランのそれも拳の当たる微妙な部位と感覚に秘密があるのかも知れませんね。

ただ、内山選手の強打は正真正銘でゲームセンターのパンチングゲームで500kg以上叩き出すというエピソードがありますが、他の格闘家との競争で彼らは「振りかぶり打ち下ろすようなパンチでそのくらいは出した」との事。
「要はあれはコツなんですけど、まぁ自分はボクシングスタイルで普通にそれを出しますけどね」と余裕の表情。

頼もしいわぁ(笑


2012.11.13 18:26 | URL | #65fpICiI [edit]

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