キックボクサーのジムワーク見学レポート 一体ボクシングと何がどう違うのか?
左から麻原将平選手、サー先生、SEIYA選手
久々(9カ月ぶり?)の記事更新です。
去る3月6日のこと、ツイッターでふと思った疑問を呟いたところ…
以前より立ち技格闘技について色々とご教示を頂いている、大阪在住の格闘技トレーナー樫山賢一さんから打てば響くようなリアクションを頂き、トントン拍子で試合が近い選手のジムワークを見学することが出来ました。今回はその様子や、感じたことをレポートします。
今回見学に応じて頂いたのは、3月27日に後楽園ホールで行われるK1系のキックイベント『Krush123』に出場するSEIYA選手。3月13日の夜、生野区今里にあるT・Y・Tムエタイジム様にお邪魔して色々とお話を伺って来ました。
とても姿勢が良いSEIYA選手
まずはストレッチするSEIYA選手の横で、トレーナーの樫山氏に練習の方針やキック界のことなどを伺いました。(樫山氏の発言は青文字)
樫山「今は昼間はボクシングジムでスパーして、夜はこちらでジムワークと言う感じですね。こちらにいるサー先生(注:T・Y・Tジム所属のタイ人トレーナー)と僕とSEIYAでタッグを組んでやってます」
HARD BLOW!(以下HB)「ボクシングジムでのスパーと言うのはパンチだけですか?」
樫山「そうです。今のK1は『キック・ボクシング』というより『ボクシング・キック』と言う感じで、かなりパンチ偏重です。正直Krushの上の方でやろうと思ったら、6回戦8回戦クラスのボクシング技術が無いと太刀打ちできないくらいの感じですね」
HB「なるほど、夜のジムワークではミットうちが中心ですか?」
樫山「そうですね。アップ替わりにシャドーやって、それから技術の確認と、負荷をかけて心拍数を上げた中で動く練習もします」
HB「ボクサーがやってるように朝走ったりするんですか?」
樫山「K1の3分3ラウンドは限界まで心拍数が上がるかなりキツイ競技なので、ダッシュ系の心拍数をあげるものが中心です。長い距離走る場合は、スタミナを付けるというよりは立ち方や歩き方に役立つという感じですね。キックは足を上げなければいけないので、立ち方が凄く大事なんですよ」
HB「ボクシングのように試合前に長いラウンドのスパーリングをやったりしますか?」
樫山「それはないですね」
HB「トーナメントの場合でもですか?」
樫山「そうですね。それよりも3分3ラウンドで力が出るように仕上げます。試合形式のガチスパーはメンタルがちょっと弱い子とかにはいいと思うんですけどSEIYAは気持ちが強いからあんまり重視してないですね」
そこから話は最近のキック・K1の傾向に…
樫山「さっき言いましたけど、ここ何年かはボクシング技術全盛で、少しくらいロー蹴られても我慢して圧力かけてパンチで倒すという選手が上に行けました。太腿って少しくらい蹴られても大丈夫なんですよ。だからふくらはぎだけ守って、前に出てパンチで倒すという戦術が有効だった」
HB「試合時間も短いし、それが確実ですよね」
樫山「でも最近みんなボクシングが上手くなって技術の差が無くなってきた。そうなると今度はボクシング技術の弱点が突かれるようになってきてるんですよ。ボクシングやってるとスタンスが広くなって、重心も前になるでしょ?そうするとカーフキックが当たりやすくなるんですよ」
HB「あー今何かと話題の」
樫山「昔、魔裟斗がボクシングの元日本チャンピオンだった鈴木悟さんをロー蹴ってKOした試合があったでしょ?」
HB「何となくは憶えてますけど」
樫山「あれビデオ見てもらったら分かりますけどカーフ蹴ってるんですよ。ボクシングばっかり練習してるとあれと似たような状況が出来るんですよ」
ムム確かに!当時は酷評されてたが、改めて見たら鈴木選手も他競技のチャンピオン相手に良く戦っている!
HB「じゃ技術的には今は過渡期というか」
樫山「そうだと思いますね」
HB「あとK1ってマストじゃないから判定が僅差になるじゃないですか。あれ読みにくくないですか?」
樫山「そうですね。三ラウンドなので一ポイントの差ってかなり重要なんですよね」
HB「ボクシングだとジャッジの顔ぶれも気にする人がいますけどね」
樫山「そこはあんまり気にしないですけど、ただK1は延長があるのでセコンドが正しくポイント読んで選手に伝えないといけない。選手は勝ってると思ってて延長になるとガックリ来るんですよ。逆に負けてると思って延長になった選手はヨッシャーってなる。だから3ラウンド前のインターバルでドローかもと思ったら『延長あると思っとけよ』と言います」
HB「ウエイトはしますか?」
樫山「バーベル使ったりはあんまりしないですけど、心拍を上げて負荷をかけるトレーニングは徹底的にしますね。ただあんまり筋肉付けると乳酸がたまりやすくなるし、体重も重くなって減量がキツくなる。そこの兼ね合いがなかな難しいところです。今日も一週間の最後、土曜の夜ですけどそういう状況で心拍数を上げても動けるか?が大事なんですよ」
HB「減量はどれくらい落とすんですか?」
樫山「K1のライト級はボクシングで言うとスーパーライトくらいですから、15キロ弱くらいですかね。前日に水抜きして、計量後に10キロくらい戻ってるのが理想ですね」
等とお話を伺っているうちにSEIYA選手の準備も整い、練習開始。まずは動きを確認しながらの丁寧なシャドー。
そこから樫山氏とのミット打ち。ここは流れの中でコンビネーションを出したり、バックブローや、防御からのキック、ローをカットしてのパンチなど状況に応じた技術の確認など。
樫山さんの太腿も赤く腫れる!
この日はスパーはないと聞いていたのですが、運よくマススパーを見学することが出来ました。スパーの相手はRISEやRIZINに出場している麻原将平選手で、パンチのみの3R。
その後はタイ人トレーナーのサー先生との技術練習。
このサー先生、外見はどう見ても今里に居る普通のオッちゃん(失礼)なんですが、時折見せる動きが明らかに普通でなく、凄い人って逆に威圧感が無いんだなと再認識しました。
サー先生はリング上で向き合いながら、前蹴りの軌道を修正したり、防御時の親指を使った押し方などをじっくり伝授。タイから来たトレーナーが日本の若者に片言のやり取りでムエタイの技術を伝えていく様子が面白い。
最後はもう一度樫山氏とのミット打ち。ここは全力で打って負荷をかけ心拍数もあげる。
凄い迫力
最後はクールダウンかと思いきや足を上げる腹筋を50回2セットやって終了。
予想通りダッシュ型の競技であるK1の練習は、ボクシングのジムワークとは違いがあり、やはり何でも見てみないとダメだなと感じました。K1は首相撲がないとはいえ、ボクシングに比べれば組んだりぶつかったりするコンタクトも多いし、単純に押し負けない体の強さが無ければ勝ち抜いていけないのでパワートレーニングも必要。ボクシング技術も近接しているとはいえ、そもそもシューズを履いていないのでパンチの打ち方もかなり違うなと分かりました。ローキックを防御して片足立ちの姿勢でパンチを打ったりする動きも新鮮でした。
急なお願いにも関わらず快く受け入れて頂いた、樫山さん、SEIYA選手、サー先生に今一度感謝いたします。そして快くスパーの様子を見せて頂き、画像の使用も許諾してくれた麻原選手にも御礼申し上げます。
大変ありがとうございました。SEIYA選手は試合必ず勝ってください!
やっぱり現場に行くと面白いなと感じた(旧徳山と長谷川が好きです)