金銭問題に喝! 石井一太郎会長に聞いた「マッチマイカー処分」
今月は書くべきネタが結構あるので頑張って記事更新していこうと思います。
前回記事ではカマセボクサーとの対戦とのために海外遠征をしている選手が増えている、ということについて問題提起させて頂きました。(当該記事へのリンク→カマセもとめて三千里!奇妙な海外遠征は国内ボクシング市場縮小の産物?!)
こんな問題が発生するのは「金がない」「客が入らない」という日本のボクシング業界事情ゆえですが、一方でこうした需要に応えることで金儲けしてるブローカー的な業界人・マッチメイカーが存在します。彼らに言わせれば「需要があるからビジネスとしてやっているだけ」ということなのでしょうが、タコが自分の足を食うてるようなもんで長い目で見れば衰退への道でしかありません。他の観戦スポーツがファン人口の拡充や観戦体験の充実化、新規スポンサーの獲得に躍起になっている一方で、ボクシング界は何万、何十万レベルの出費をケチって業界をどんどん縮小させてるわけです。
そんな縮小するボクシング業界の現状を象徴していたのが、先ごろ新聞・テレビで大きく報じられた「コンプライアンス問題で青木ジムが休会」という事件でありました。
元WBOフライ級チャンピオン、木村翔選手が所属する青木ジムが、「コンプライアンス問題」という曖昧な理由で年内で休会(実質的には廃業)になるというのです。一体何が問題視されたのか?と調べてみると、特定の練習生を標的にして「プロテスト受験のため、という名目で月謝の何倍もの指導料をとっていた」とか「観戦に行けない興行のチケットを売りつけて代金を徴収していた」とか「プロテスト合格の謝礼を要求した」なんていうなんとも安っぽいタカリまがいのやり口で、名門と言われてきたジムがこんなセコイことしてるんかと開いた口が塞がりませんでした。ただでさえ練習生希望者が減っているご時世で、プロ希望者がトレーナーに足下見られて金を巻き上げられたとあっては業界全体の信用問題であり、JBCや協会からもう少し詳細な情報公開があってしかるべきだと思います。
そもそも中国では何億人もが認知しているという大スター木村翔をマネジメントするジムが、なんで練習生相手にセコいタカリまがいの行為をする必要があるのでしょうか?ボクシング界の構造不況をご存じない一般の方から見れば理解できない事件だと思います。
この青木ジム問題の他にもう一つ、余り報道されていないボクシング界の金銭トラブルがあったのを読者の皆様はご存知でしょうか?JBCのHPの左肩部分にある『JBCからのお知らせ』の欄に2019年9月.2日付けの『マッチメーカー清水博氏に対する処分』(←クリックすると文書に飛びます)という告示が掲載されています。以下に告示に書かれている処分理由を引用いたします。(引用部分は赤文字)
理由: 清水博マッチメーカーは、平成 31 年 1 月 18 日、ニューヨークで行われたIBF世界スーパー・バンタム級タイトルマッチに出場した高橋竜平(横浜光)選手のマッチメークを手掛けた際、ファイトマネーや航空券などにおいて横浜光ジムに対し虚偽の報告をし、また国外関係者との交渉を担当するマッチメーカーとの間でも仲介手数料の不払いなどでトラブルを起こした。にもかかわらず事態の収拾に尽力することなくマッチメーカーとして各関係者に対し誠意ある対応をとらなかった。 (引用以上)
これだけ読んでも何が何やら分かりませんが、実は私はこの問題について発覚直後から某関係者を通じて聞き及んでおりました。今回JBCから当該人物が処分されたことを踏まえて、当ブログは一方当事者となった横浜光ジムの石井一太郎会長に文書を通じで取材し、氏の体験談や見解を元に、ことの経緯を記述しておこうと思います。世界戦はボクサーやジムにとって究極の目標であり、それ故に様々な思惑を持った人物が跳梁・暗躍しています。ファンの皆様にも世界戦交渉の実態を知っていたただく上で、参考になるかと思います。
(以下の文章で青文字の部分は石井会長から頂いた回答書からの引用です)
清水博マッチメイカーから、横浜光ジム(以下光ジム)所属の高橋竜平選手に当時IBFスーパーバンタム級チャンピオンだったT・J・ドヘニーに挑戦しないかというオファーがもたらされたのは、昨年末12月上旬のことでした。清水氏はもともと光ジムでマネージャーライセンスを所持しており国内試合でのマッチメイクも担当していた光ジムのスタッフでした。試合日まで期間も短く、ビザが下りるか?というくらい急迫したオファーでしたが、もともと対戦を目指していた相手だったこともあり高橋選手はオファーを受諾し、陣営は翌年1月18日の試合に向けて動き出します。
マッチ・ルームスポーツからの対戦オファーを持ってきた際、清水氏はメールで
「光ジムにはもともとお世話になっているので損得抜きでやります」
という旨を伝えていたそうですが
石井氏は恩着せがましい発言だと感じて清水氏に不信感を持ったそうです。
その後契約の段になると、清水氏は
「時間がないので契約書には私がサインしておきます」
と言い出し、石井氏の不信感は決定的となります。選手本人に金額も見せずにサインを代筆するなどというのは、確かに完全におかしな話です。
さらに清水氏は
「ファイトマネーは二万ドルでエアチケットは二名分しか出ない」
という対戦条件を伝えてきますが、ファイトマネーの金額の妥当性はともかく、世界戦で陣営のエアチケットが二枚というのは通常あり得ない条件です。清水氏の「サインを代筆する」という発言を聞いて「契約書を見られたくないんだな」と直感していた石井氏は、契約書を見せるように要求し、記載内容を確かめると、そこにはファイトマネーは3万5千ドルで渡航費とホテル代は三人分と書かれていました。清水氏が陣営に伝えていたのは実際の6割程度の金額で、渡航費についての説明も虚偽でした。世間一般のビジネスであれば考えられない話です。
「3万5千ドルって書いてあるけどって電話したら、清水はしどろもどろでした。『この契約書にサインするならうちは3万5千もらう。最初の約束通り2万ドルで試合しろ、というならこの契約書にはサインしない』と言いました」
アメリカは州によって課税制度が異なり、額面通りのファイトマネーが必ず手取りで貰えるか分からないという事情はあったようですが、それが額面を告知しなくてよいという理由にはなりません。石井氏の要求は至極当然のことです。
清水氏の不審な行動はこれだけにとどまりませんでした。一行が渡米するとファイトマネーの振込先が清水氏の個人口座になっていることが分かったのです。石井氏は現地で清水氏に振込先を変更するように要求しましたが、清水氏は対応を拒みます。「選手の前でやり取りするわけではないので」試合への影響は特に無かったということですが、世界戦の直前に味方陣営の人間が金銭絡みで集中を乱すような要因を作るというのは部外者から見ても呆れるような話です。
試合後帰国した石井氏はファイトマネーの確定金額や振込先について確認しようとしますが、清水氏は今度は電話にも出なくなり音信不通状態となります。石井氏はJBCに清水氏の行状を報告し、結果的に
「コミッションから清水に連絡が入り、直後清水から僕に連絡が入りました。うちの事務所に来てもらい話をしました。彼は全額振り込むことに同意しました」
という顛末になります。ファイトマネーは額面通り3万5千ドル分が入金されました。清水氏はファイトマネーを2万ドルと告知した理由について
「当初ファイトマネーは3万ドルで、税金がいくらかかるかわからないから横浜光に2万ドルは保証してあげなきゃ」
という自分の『善意』から来たものだと主張したそうです。この一連の清水氏の問題行動に対して、問題発覚から半年以上経ってやっとJBCから清水氏に処分が下されました。金銭的な実害がなかったとはいえ、石井氏は「遅すぎる」と感じています。
今回の経験を踏まえて石井氏は
「(小さなジムが世界戦に挑む際に被害に遭わないためには)契約書を読むことと、相場を知ることが大事だと思います。清水も、僕ではなく海外経験のないジムでしたら今回の搾取はうまくいってたかもしれません。僕はたまたま各国に知り合いがいて、常にいろいろと相談してますから」
と注意喚起しています。最後に石井氏に金銭問題が頻発するボクシング業界の問題点について見解を聞いてみました
「そもそもジム経営(小規模のボクシングジム)の傍ら、長期的に健全に選手を育成し続けるシステムがほぼ無理です。そういった意味でもジム制度は疲弊していると思います」
やはり現場でもクラブ制度の疲弊は実感としてあるようです。昨年には、特殊詐欺グループの首謀者として逮捕された人物がジムのマネージャーになっていた事件もありました。目先の金銭に拘って大きな絵が描けなくなっているという業界の現実を見せつけられるような事件が多いですが、若い選手が夢を持って入ってこれるような世界にするためには新しい制度設計が必要な時期に来ていると感じます。
最後に取材にご協力頂いた石井会長に深謝いたします。大変ありがとうございました。
新人王に行けなかった(旧徳山と長谷川が好きです)