唐突ですが、世の中にはどの時代にもある種の人がいます。TPOを問わず、時空の裂け目からひょっこりと出てきて、散々周囲の人を巻き込んだ上で、正体がばれて大騒ぎになる人。そう経歴詐称の人です。
物書きの世界でもそういう人は後を絶ちません。元グリーンベレーを自称していたけれど米軍の軍歴が無かったあの人、元警視庁刑事を自称してけれど交番のお巡りさんだったあの人、キックのチャンピオンや商社の社長だったと自称してるけど全く記録がなく、捏造記事で敗訴したあの人、などなど枚挙に暇がありません。
格闘技界では、元チャンピオンを自称して地方自治体の観光大使的なポジションについたあと、経歴詐称がバレて騒動になった人もいました。ことほど左様に、日本の社会は性善説で運営されており、身体検査というのは曖昧なもんでございます。本当に経歴詐称はケシカランですね!プンプン!
というわけで、ここで話題はガラリと変わります!
オリンピック競技のナショナルチームの監督と言うのは、一般的に物凄く重い仕事であります。実績・専門知識・人格、あらゆる要素を兼ね備え「あいつがやるなら、きっとうまく行くよ」と業界内の人が安心して代表チームを託せる、そんな心技体を兼ね備えた人物こそ、ナショナルチームの監督に相応しいと言えるでしょう。
先日終了した、アマチュアボクシングの最高峰イベント、AIBAの世界選手権で日本代表チームを託されたのは瀬部勉監督でありました。東京オリンピックを控えた日本ボクシング連盟(以下日連)が、満を持して抜擢した監督ですから、当然素晴らしい実績と指導技術や戦略を持っているはずです。果たしてどのような華麗な経歴を持っておられるのでしょうか?
瀬部監督就任を伝える日連のブログ記事
↓
AIBA世界選手権大会について①(お知らせ)
記事中の集合写真の後列中央、黒いジャケットの方が瀬部監督です
瀬部監督のブログには氏のプロフィ-ルが掲載されています。以下に引用いたします。

1961年3月生まれ。 1983年、大阪体育大学体育学部体育学科卒業。
幼少の頃から武道や陸上競技に携わり、中・高・大学で陸上競技選手として活躍する。
実績として
• 1982年 日本選手権 4×100mリレー優勝
• 同年 モスクワオリンピック最終選考会出場
100mベストタイム 10秒43(公認記録) (引用以上)
うーむどうもボクシング出身ではなく、陸上選手だった人のようですね。ナショナルチームの監督と言うのは普通、斯界のトップを経験された方が務めるものの様な気がしますが…。元陸上選手にボクシング競技の監督が出来るものなのか…。不思議であります。まあしかし、経歴によると、日本選手権の4×100メートルリレーで優勝されたようなスポーツエリートでありますから、トレーニングやコンデイショニングについては学ぶところが多いのかもしれません。
ちなみに1982年の日本選手権のリレーの優勝チームはWikipediaによると、早稲田大学のチームで瀬部氏の出身校であるという大阪体育大学の名前はなぜか掲載されていません。当然メンバー名に瀬部氏の名前もありません。

誤情報が散見されると言うWikiでありますから、きっと何かの手違いでしょう。
もう一つ1982年に『モスクワオリンピックの最終選考会出場』とありますが、モスクワオリンピックは1980年です。本大会の後に行われたという選考会は、まさに文字通り最終の名に相応しいイベントであったのでありましょう。
さらに某セミナーの講師紹介では(リンクはこちらから)、瀬部氏は元オリンピック代表であるとの記述もありますが…

JOCのホームページの検索機能で、瀬部監督をサーチしても…

なぜか該当者なし!

正式競技のナショナルチーム監督の経歴を入れ忘れるとは、JOCともあろうもんが、なんと杜撰なのでありましょう。
さらに瀬部氏の最も輝ける経歴と言える、100メートル走10秒43という素晴らしい公認記録。これは1982年当時、大阪歴代最高に匹敵する記録であり、日本歴代100傑にも入るようなズバ抜けた記録であります。日本選手権のリレーの優勝やモスクワオリンピックの二年後に選考会に参加したことと並んで、まさに大阪陸上界のレジェンドと言える実績でありましょう。ところがその記録が陸上マガジンの増刊や大阪陸上年鑑に掲載されていないではありませんか!


大阪十傑は勿論

日本歴代の10秒4台に名前なし!

電動計時の歴代記録にも当然ナシ!
陸連、JOCに続いて年鑑や陸上マガジンにも素晴らしい実績をシカトされてしまった、まさに悲運のヒーロー瀬部監督の名誉回復を祈らずにはいられません。こんな素晴らしい人がナショナルチームを率いているなら、東京オリンピックもメダル間違いなし!ですよね。
ジャガー横田さんのご主人様としてテレビでお馴染みの木下博勝医師のブログにも、瀬部氏が登場します(瀬部氏が登場する記事)。瀬部氏は和泉市議会議員を勤める、プロレスラーのスペル・デルフィン氏とも懇意にされているようで、プロレス界には人脈がおありのようでございます。議員と言う公職にある方が、こういう華麗すぎる経歴をお持ちの方と親しく交友されるなんて、色んな意味で素晴らしいですね。

なんと瀬部氏は陸上だけでなく格闘技でもチャンピオンだった模様ですが、そちらのほうも陸上同様、なぜかあらゆる記録が抹消されています!神隠しでしょうかね?
しかしこのベルトを持ってリングに上がっている瀬部氏の写真を見れば、格闘技で実績があることは明らかでありましょう。なんたってベルトがあるんですよ!ベルトが!

ベルトにはしっかりとネームも入っています。かなりかっこいいベルトなので、凄い価値のあるタイトルだと思われます。アップで見てみましょう。

ワールドカラテチャンピオン1982...。えっ1982?!陸上の日本選手権のリレーで優勝して、既に終わってるモスクワオリンピックの選考会に出て、空手の世界チャンピオンにもなってたんですか?
山根会長の的確な人選に唸らざるを得ません。
井岡不在の興行の集客の悪さに驚いた(旧徳山と長谷川が好きです)

すっかり遅くなってしまいましたが、8月27日に行われた福原辰弥選手×山中竜也選手の試合レポートです。
この試合は奇しくも、メイウエザー×マクレガーやコット×亀海と同日という日程。正直世間的には裏番組と言っていい試合ですが、地元熊本にとっては大きなイベントであります。都市部においても、ボクシング興行を取り巻く事情は年々厳しくなっておりますが、地方都市で興行を継続して打って行く難しさは並大抵ではないでしょうか。
まあしかし、そういった頑張る地方ジムや所属選手の足を引っ張るような意識の低い輩もいるようです。懲りない捏造ライター片岡亮氏が、ろくすっぽ取材していないのがバレバレのネガキャンで福原選手が所属する本田フィットネスジムを貶めるような表現をしてて呆れた次第。『その件は別途、伝えるとして』と書いてますが、この人過去に何か調べて続報を書いたことがあったでしょうかね?JBCの内紛や亀田兄弟に関する捏造記事から、金泰泳氏の金銭トラブル、菊池直子がカンボジアにいた!(笑)まで自分が書いたガセネタについてちゃんと総括してから、偉そうなこと書いて下さいなと思いました。それとも、また名誉毀損で訴えられたいんでしょうかね?

なんかあったと匂わせるだけなら、誰でもできますよ片岡さん!
そういうわけで本題です。まずは交通手段の検討の為、地図を見てみると、試合のある熊本県芦北町は県の南部。新幹線でも行けるが、これだったら鹿児島空港からでも近いなあ、と思って飛行機を調べて見ると神戸空港から鹿児島便があることを発見。値段も新幹線よりかなり安かったので即予約し、鹿児島県の県境の街に安ホテルも抑えて、機中の人となりました。

ホテルのある出水市に到着して、ぶらぶらと散策などして時間をつぶし、夜は温泉に入ってぼんやりと過ごしました。
味わい溢れる市の講堂
翌朝はチェックアウト時間とともに、駅に出てローカル線で芦北町に向けて出発。

目的地のしろやまスカイドームは最寄り駅から10分ほど。会場につくと露店が出ており、取材のクルーも多く熱気に溢れています。


会場に入ると玄関ホールでは、熊本地震復興支援の為のチャリテイサイン会の真っ最中。この日テンカウントゴングを行う高山勝成選手に、abemaTVの100万円企画で日本のライブストリーミングの歴史に衝撃を与えた亀田興毅氏、そして『ゾウ・シミンに勝った男』木村翔選手と三人のチャンピオンがそろい踏み。地方都市のファンにとっては、世界チャンピオンと生で触れあえることはとても貴重なこと。こういった工夫は大変いいことだと思いました。聞くところによると、キックやシュートボクシングの興行では、こういうイベントは結構あるらしく、ボクシング興行も工夫の余地が大きいなと感じました。


サインの料金は1000円で、収益はリング上で来賓の芦北町長を通じて寄付されました。

寄付金の贈呈者は平仲明信会長。この日は他にも先日引退を表明した内山高志氏も来場し、世界チャンピオンが大勢集う華やかな雰囲気となりました。

アンダーカードでは、本田フィットネスジム所属で、国境なき医師団の外科医としてイエメンとコンゴに派遣された、『戦うドクター』池田知也選手がこの日も登場。4RTKOでタイ人選手に勝利し、5月の新人王予選の敗戦から再起しました。試合の合間会場内で、試合後の池田選手に偶然お遭いできたので、お願いして写真も撮らせて頂きました。

池田選手が着用されているのは、国境なき医師団のベストだそうです。少しだけお話させて頂きましたが「新人王になるほうが、国境なき医師団に入るより難しいですよ!」という言葉が印象的でした。
国境なき医師団のWEBで、昨年から今年頭にかけてのコンゴでの活動についての池田選手のインタビューが読めます。
↓
フランス語で記載した手術記録!:池田 知也
メインに先立って、日本ボクシング界のイノベイター高山勝成選手のプロボクシング引退式も挙行されました。
とはいえ現役を退くわけではなく、オリンピックを目指して競技生活の続行を宣言していますから、ボクシングを引退するわけではありません。その辺はFightnews.comのインタビューで語られております。デビッド・フィンガー記者による高山選手のインタビューはこちらから→Takayama: I want Olympic gold now。
ファイトニュースのレポートは、日本の記事はずっとジョーさんが書いてきましたが、業界人のジョーさんにはなかなか書けない記事だと思います。
空席が目立った会場も徐々に埋まりだし、メインの頃には八分といった入り(主催者発表は2800人)。県庁所在地ですらない、大都市からも遠い地方都市で、この動員はかなり凄い事です。はっきり言って大阪や神戸、京都のタイトルマッチでこれより薄い入りの興行はなんぼでもあります。
私、試合前は福原選手の優位は動くまいと言う見解でありました。出所が見にくい変則のボディ撃ちと強靭なメンタルに加えて、タフなキャリアと地元開催の利もあり、かなりアドバンテージがございます。一方の山中選手は、いかに福原選手の変則スタイルを攻略してヒットを稼ぐか?がキモになります。
福原選手が入場すると会場はやんやの声援。熊本の報道関係者も多く訪れており、地元の期待の大きさがヒシヒシと伝わってきます。一方の山中選手は落ち着き払った雰囲気で自然態。陣営も、さすが経験豊富落ち着きが感じられます。
1Rのゴングが鳴ると、福原はオープニングに得意の左ボディをヒットしますが、山中は軽快にジャブを放って積極的に手数を出して反撃。福原は様子見か手数が少なく、ラウンド後半少し反撃するものの山中がペースを握ります。

序盤山中は福原のスタイルには付き合わず、距離を外してヒットを重ね、福原にとっては得意のボディが当たる距離がなかなか作れずもどかしい展開が続きます。福原はスピードで上回る山中を捕まえようと、ボディを叩いて食い下がりますが、山中はあくまで打ち合いには付き合わず、ジャブと姿勢が低くなる福原に会わせたアッパーなどで巧みにヒットを重ねてポイントをピックアップ。福原のスタイルをかなり研究して試合に臨んでいるのが伝わって来ます。福原は強引に距離を詰めて、ボディを叩いて山中を失速させたいところですが、なかなか自分の距離が作れない。とはいえ山中のヒットも単発が多く両者決め手には欠ける。



中盤に入ると福原は山中のうるさいジャブをグローブではじいて、得意の投げるような長いボディで反撃。山中がボディを封じようと密着すれば細かいボディを集める。ただこの小さいボディはジャッジに有効打と見られているかは微妙。後半に入るとボディのダメージで徐々に失速するかと思われた山中は、更にスピードアップ。速い出入りで、もう一度福原の距離勘を狂わせて試合のペースを掌握。福原は的を絞らせない山中のスピードを攻めあぐねる噛み合わない展開。終盤に入っても山中は手数はさほどではないものの、ヒット率は高く福原の強打に捕まらず集中して対応、福原陣営は印象的な見せ場を作れないままズルズルとラウンドを重ねる。セコンドは採点で勝っているという読みがあるのか?それとも対応が出来ていないのか?

最終ラウンドはさすがに福原は打って出て、かなり強引に距離をつぶしに行きますが、最後までボディを叩ける距離は作れず。山中はプランどおりと見えるローリスクでクレバーな戦法のまま。どっちにしろ両者これと言った見せ場はなく、ポイントは僅差のはずですが…。



健闘を称えあう二人
ポイントの読み上げが始まると、二人目で山中勝利となって真正コーナーは大喜び、客席と福原陣営は意気消沈と好対照となりました。山中陣営は戦前の分析と対策で、見事に福原を攻略。後半になってもスピードも集中力も切れなかった準備のよさも際立っていました。試合中的確な指示で、ペースを渡さなかったセコンドワークも見事。一方福原陣営は、展開を変えられず世界戦経験の少なさを露呈したように見えました。展開を変えるような指示を出せなかったセコンドワークも疑問でした。ポイントを読み間違えていたのでしょうか?体力を余して負けたように感じられて、いかにも勿体無かった。
FIGHNEWSにスコアカードが掲載されていましたが(→ファイトニュースの記事『Full Report: Yamanaka dethrones WBO 105lb champ Fukuhara』)、ジャッジ三者が一致してるラウンドは三つしかなく、採点が難しい試合であったことが伝わって来ます。とはいえ、全体を見れば山中選手のクリーンヒットが多く、判定は納得が行くものでありました。福原選手にとっては持ち味を封じられて不完全燃焼に終わったといったところでしょう。実際試合としても見所に乏しく、噛み合わないまま終わった印象でした。
久々の地方ジム世界チャンピオンが敗れて、私のスポーツツーリズムも一旦終わりですが、今年二回の観戦ツアーは大変面白い体験でありました。帰路の車窓からの眺めは、不知火海の美しい夕焼けが見れて最高でありました。震災直後でありながら、地元での試合開催に拘って、私を素晴らしい土地に誘ってくれた、福原選手と本田フィットネスジムに改めて感謝したいと思います。




これからはますます、地域密着がプロスポーツの課題になると思います。福原選手の戦った二つの世界戦は、日本中の地方ジムにとっての示唆に富んだ、時代の変化を先取りする非常に重要なイベントだったと思います。
個人的には福原選手の再起を願っている(旧徳山と長谷川が好きです)

今年の3月4日、国民体育大会(以下国体)でのボクシング競技が2023年度から隔年開催になると言う決定が日本体育協会(以下日体協)から発表され、アマチュアボクシング界には大きな衝撃が走りました。
金メダリスト村田諒太選手も、この決定に対してFACEBOOK上で非常に踏み込んだ意見を発しています。

以下に重要と思われる部分を引用します。
『こういった責任は誰がとるんですかね?
良い時に「自分達のおかげだ」
という人間は多いですが、そういった人間達に限って、悪い時に「責任を取ります」
なんて間違っても言わないものでしょう』(引用以上)
この決定に至るには、当然日体協内での選考がございました。選考はポイント制で実施競技を採点・評価した上で、順位をつけることで行われました。採点基準や配点については日体協のホームページ内で情報公開されています。以下のリンクをご参照ください。
↓
日体協HPより『国民体育大会における実施競技について』
選考結果の採点表については、WEBでは公開されていなかったのですが、日体協様に電話で採点結果と順位表が見たい旨を問いあわせたところ、快く採点結果の文書を送付していただけました。一般人の要望にも、すぐ対応して頂けるという見上げた情報公開振り!さすがであります。
では、さっそく採点結果を見ていこうと思いますが、その前にひとつだけ留保事項を。
それはこの評価は『競技そのものの評価であって、競技団体を序列化したものではない』言うことです。この順位は競技団体の順位を付けたものでなく、ある基準に沿った競技の評価であり、サッカー協会がテニス連盟より優れているとかそういうことではない、ということは分かっておいてください。勿論、競技団体のガバナンスや運営方針などは採点の対象にはなっていますが、『この順位=競技団体の順位』でないことは、重々ご承知おきください。前置きが長くなりましたが、以下がその順位表です。

なんとなんとボクシングは実施競技中最下位の41位!40位のクレー射撃との点差は、16点という大差のぶっちぎり。逆に下を見れば、ゲートボールとは5点しか差がありません。
個別の項目を見てみれば、『ジュニア世代の充実』や『女子スポーツの推進』『協議会の開催・運営能力』が最低水準。6項目中3項目がほぼビリでは話に成りません。『競技会の活性化』と『競技団体のガバナンス』も41競技中20位台の後半。実に六項目中五項目が低水準。唯一そこそこの評価だったのは『スポーツ医・科学サポートの充実』の項目ですが、これも丁度中間くらいのランキング。頭部を直接打撃する格闘技としては物足りない水準であります。
正直このままでは隔年開催すら危うい状況で、公開競技一歩手前とさえ言えます。アマチュアボクシングを統括する日本ボクシング連盟(以下日連)にとっては、何を置いても取り組まねばならない喫緊の課題だと思うのですが、何らかの対策は検討されているのでしょうか?「インターハイでも隔年開催にされるのではないか?」ということも囁かれる現状で、果たして有効な対策が打てるのでありましょうか?
関係者の危惧が分かるような気がします。
採点表自体がなかなか興味深かった(旧徳山と長谷川が好きです)
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オマケ情報 『一枚の文書』
先月中旬まで日連のHPに掲載されていたものですが、現在URLは削除されています。題して『会長、山根明の経歴および人間像について』…。

文中『歴史、伝説、貢献で有りこの三文字を』とありますが、『歴史、伝説、貢献』を足すと6文字ではないでしょうか?