『高校卒業→大学入学』からの『世界王者のままプロボクシング引退!』からの『東京オリンピック挑戦宣言!』 中出博啓マネージャー兼トレーナーに聞いた、展開がダイナミックすぎる高山勝成選手の今までとこれから PART2
それではいよいよ本題、東京五輪チャレンジ宣言の真意と、その展望をお伺いしていきます。
引退までの経緯についてはPART1をごらんください→『高校卒業→大学入学』からの『世界王者のままプロボクシング引退!』からの『東京オリンピック挑戦宣言!』 中出博啓マネージャー兼トレーナーに聞いた、展開がダイナミックすぎる高山勝成選手の今までとこれから PART1
枠にとらわれず越境していく、スケールの大きなチャレンジ精神は一体どこからきているのか?3分3R、ノーヘッドギアというオリンピック競技への順応は可能なのか?引き続き中出氏に伺いました。
海外挑戦で味わった昂揚感
HB- 要は『何をやったら自分がやる気が出るか?』ということですよね。どういうことに対して気持ちが上がるのか、意欲が出るのかという。
中出-変な話やけど、昂揚感ってあるでしょ。現実としてね、IBFを海外でずっと狙ってやってきて、獲って日本に帰って来たでしょ。そうすると海外と違って、日本は設備がきれいで、ちゃんと予定が決まってて、順序に沿ってリングに上がれるわけじゃないですか。それは便利で素晴らしいことなんやけど、あのなんていうんやろうな…。
HB-南アフリカとかメキシコとかで感じた昂ぶる気持ちと、何かが違うと(笑)。
中出-だから、おんなじ『君が代』聞くんでも、ヨハネスブルグとかメキシコのリングで聞くのと、日本の府立で聞くのとは、こっちの気持ちとしたらホンマに全然、それはもう全然違うんですよ。
HB-それはそうでしょうね。そういうことを、辛さも面白さも一回体験をしてしまうと、もう後戻りできない(笑)。
中出 そうなんですよね。だからと言って「じゃあもう一回海外挑戦やれや!」って言われても俺も仕事あるし(笑)。実際試合行ったら、一週間二週間は本業も手付かずですからね。まあ俺の思いとしては本当はプロで、ライトフライの試合やってからと思ってたんですけどね。
HB-今チャンピオン日本人ばっかりですからね。
中出-でも高山にしたら今から、オリンピックの予選に行ける行けへんは別に準備をしたいと。
HB-実際、あと一年プロやったら、オリンピックは時間的に無理ですよね
中出-怪我と付き合いながらはやっぱり必死じゃないですか。正直胸のうちを言うたらね、僕自身も(高山選手が)怪我のストレスをかかえながら試合をすることに結構疲れてたんですよね。実際、スタイルも変わらざるを得んようになってね。僕はメロ戦とか新井田戦のときのスタイルが本来やと思ってるんですよ。パンパンとパンチ入れて遠いところに離れてという。
HB-あのスタイルを現在のフィジカルが上がった状態で出来れば一番いいんだけど、目の怪我があって出来ない。
中出-だから、今はもう正直パワーファイトですよ。トレーナーの立場から言えばここ何年は、全部明確な試合なんですよ。例えば日本の選手、小野、原、大平、加納辺りだとフィジカルで圧倒できるから、瞼切っても体力で潰しに行ける。やられたパターンは、明らかにデカいやつ。ロドリゲスはフライでも出来る選手やし、アルグメドはバンタムもやったことあるような、やられたんはサイズが違うやつばっかり。さすがにこういう選手相手だと、攻めれば被弾もするでしょ?自分達としては、アルグメド戦はライトフライへの挑戦の試金石になる試合だと位置づけてて…。
HB-『アルグメドを捌けたら昇級できるやろ』と。
中出-パワーで上回れたらなんの問題もないし、きれいにボックスしきれればそれはそれでよしと思ってたのが、それすらも試す前に1ラウンドから目を切ってね。
HB-とはいえあの試合もスコアは競ってましたからね。
中出-そうそう。ボディ大分効かせたからね。まあ、たらればはないんですけど、ただあの試合を落としたことでね、高山本人にちゃんと聞いたわけや無いけど、加納陸との試合はマックスで集中してたと思います。あの試合はこっちにとってはタイトルを取り戻したいという試合やったけど、多分高山にとっては加納に勝ってタイトルをもって卒業したいという、そういう試合やったと思うんですよ。だから最初から思い描いてた通り、チャンピオンのまま卒業して、大学に進学して東京オリンピック挑戦を表明したということじゃないですかね?
プロアマの架け橋になれるか?
中出-アマの関係者に失礼があったらアカンとは思いつつ、一石を投じることにはなってしまいましたよ。だけどアスリートの思いとしては、僕はそれでいいと思うし、そうあるべきやと思うんです。昔からオリンピックについてはね「参加することに意義がある」と言いますけど、別に予選を免除してくれとかそういうことを言ってるんじゃないんですよ。
HB- 同じ条件で挑戦したいと言ってるわけですからね。
中出-予選で負けたら、それはそれでしゃあないじゃないですか。
HB-実際問題として僕は、出場は相当厳しいと思うんですよ。
中出 僕は高山に言いましたよ「お前な、プロとは全く違うぞ」と。3 分 3 ラウンドというシステムはね、カルロス・メロとかイサック・ブストスとやってたころやったら、順応するのは速かったと思うんですよ。でも最近の試合なんかね、スコアシート見たら前半殆どとられてるんですよ。
HB-スロースターターになったということですか?
中出-いやスロースターターというか、目が怖くて行けなくなったんですよ。『目にアクシデント起こらなければ徐々にペースを上げて、もし目が切れたらそこから全力疾走』というスタイルやから。ホンマやったら前半からポイント獲って行きたいんですよ。逆に言うたらフィジカルが強くなって技術がついたから、前半 2,3 ラウンド落としても挽回できるようになったとも言えると思います。
HB-引き出しが増えて、前半とられてもまくれるようになったということですね。
中出-典型的なのは小野戦ですよ。前半ラウンド落としてもいいから 8 ラウンド以降で絶対捕まえるという、確信を持ってたんで。小野は変則やか、前半ストレート貰うのは覚悟しとったんです。ただパンチ力が無かったから良かった。パンチで両方切れたけど、あのころはまだ瞼も余裕があったんですよ。
HB-今のアマはルールが変わってかなりバチバチになってますね。昔のアマのイメージというかタッチボクシングと言われた時代とはまるで違いますよね。
中- あれ(現在のルール)は俺らの時代ですよ。俺が大学で競技やってた35年以上前のノーヘッドギアでバチバチのスタイル。プロが 1500 メートル、3000 メートルをペース配分考えながら走る競技やとしたら、アマは 100 メートルダッシュみたいなもんじゃないですか。3 分 3 ラウンドで最初から獲るにはゼロから考えるくらいの気持ちでいかんとあかんなと。ただ、高山が挑戦を表明することで、アマ側にも目が行くと言うか、注目が集まってほしいと思ってるんですよ。
HB-それは本当に思いますね。
中出-プロから国内のトップ選手が来たら、アマ側のトップ選手もね「プロのチャンピオンがなんぼのもんじゃい」となってね、その結果本当に強い選手に注目が行くようになればね、貢献できるんちゃうかなと思うんですけどね。
HB-レスリングの予選にプロの総合格闘家の山本KIDが出た時も話題になりましたよね。で、アマの選手(アテネ五輪銅の井上謙二選手)に腕折られて、「やっぱり国内のトップ選手って凄く強いんやな」ということが普段アマレスを見ない人にも伝わって。(山本KID選手の敗戦を伝える記事→山本KID、8強どまり レスリング全日本選手権)そういう健全なフィードバックがあればいいと思うんですけどね。
中出-そうそう、それがスポーツじゃないですか。ブログに書いたことで、どこまで伝わったか分かりませんけど、俺からしたらオリンピック予選の二回戦で負けて、「アマも強いわ~」ってなったら、それはそれでいいんですよ。ただスタートラインにも着かれへんというのは。
HB-問答無用で門戸を閉ざすのはちょっとね…。
中出-それは何かがおかしいじゃないですか。
HB-オリンピックのボクシング競技を統括する日本ボクシング連盟(以下日連)の山根会長は今のところ「ダメ」という見解みたいですけど。
中出-まあ、まだ分からないですよ。高山は山根さんに会いに行ってますし。
HB-プロ経験者の締め出しは、上部団体のAIBAの方針ともぶつかりますしね。
中出-日連はAIBAの決定に一票を投じてるわけじゃないですか。そこは矛盾してる。まあここからはね、僕らの力だけではどうにもならないことも多いんですけど、ただこの国の憲法では別に何言うてもええわけですから。あとは、出れるならベストを尽くす、ということだけです。
HB-実際にエントリーするとなったらどういう手順を踏むわけですか?
中出-まだわかんねえ!(笑)
HB-そこはこれからで(笑)。
中出-時間的なリミットは決まってますからね。高山とも何日か前に言うてたんですけど、なるようにしかならんで、と。だからリラックスして待ちますよ。逆に、今回のニュース聞いてどう思いました?
HB-出稽古で近大のボクシング部とかに行ったときに、冗談か本気かは分かりませんけど「オリンピックどう?」みたいに言われてたじゃないですか(笑)。当時から「あ、面白いな」とは思ってました。東京であると言うことは大きいですよね。今IOCが方針として「最高の競技レベルを求める」というアジェンダを出してるのがAIBAのプロ容認の根拠なんですよね。だから日連が、IOCやAIBAの方針を無視してシャッタアウトするのは、ルール上おかしいと思います。
現在オリンピックに参加希望する各競技の統括団体は、正式競技の座を巡って、激しい競争を繰り広げています。ドーピング検査の実施実績、テレビ中継にあわせた様々な工夫(柔道競技のカラー胴着、レスリングのチャレンジ制度・ビデオ判定の導入、陸上競技や水泳競技のマルチカメラによるスペクタクルな映像作り、試合時間の短縮努力)、プロ参加の奨励による競技レベルや注目度の引き上げ、参加国の拡大、女子競技の必須化=ジェンダーフリー化等々、IOCの要求する水準を満たせない競技は正式競技から容赦なく外されていくことになります。このIOC方針の下で、ロンドンとリオ五輪では野球・ソフトが正式競技から除外され、リオ五輪ではレスリングの除外が検討されたことはご存知の通りです(野球ソフトは東京で復活し、レスリングは結局残留)。
正式競技から外れると言うことは、スポーツ競技としてもマイナー化し、IOCからの巨額の分配金もなくなって統括団体の財政が著しく脆弱化することを意味します。現状IOCに対抗できる発言力をもつ競技団体は、世界最大のNGOと言われ、W杯と言うオリンピックに拮抗するビッグイベントを擁して潤沢な資金力を誇るFIFAくらいでありましょう。ボクシングとて、伝統競技だからと安閑としていられない状況であります。
IOCが2014年の総会で決議したアクションプラン『アジェンダ2020』には、プロリーグとの関係を構築する、として以下の提言があります(JOCのHPへのリンク→オリンピック・アジェンダ2020)。以下に引用します。
提言8
プロリーグとの関係を構築する
以下を目的として、各国際競技連盟を通じプロリーグやプロ組織に投資し、これら
との関係を構築する。
・最も優れた選手の参加を確実なものにする。
・各プロリーグのさまざまな性質や制約について認識する。
・関連する各国際競技連盟と協力し、臨機応変に最適な連携モデルを採用する。(引用以上)
IOCははっきりとプロ選手の参加と、プロ・アマ団体双方の和合を模索することを提言しています。AIBAがプロ競技としてはじめたもののいまひとつ話題性に乏しい、WSB(ワールドシリーズボクシング)やAPB(AIBAプロボクシング)もIOCのこうした提言・方針をうけたものなのでありましょう。プロアマの関係が良くないのは、国内だけでなくAIBAとプロ側のメジャー4団体とて同じであります。ですが、プロ側とて選手育成や『オリンピアン』『メダリスト』という肩書のブランド価値によって、ビジネス上多大な恩恵を受けているわけですから、ボクシングがオリンピック競技から外れれば、少なからぬ悪影響があると思います。不毛な争いはやめて、お互いに益があるような関係構築を模索するべき時期だと思うのですが…。何よりプロ参加の奨励は、IOCとAIBAの方針であり、日連が指針をたがえるのは自己矛盾ではないのか?と個人的には思えます。
中出-どんな風に理論構成をしていくか…。でもIOCがそう言っているなら、それがオリンピックの理念じゃないですか。
HB -今はキックのジムに行ってるような選手でも、パンチの巧い子なら「オリンピックのボクシングに出たい」と言う機運はあるみたいですね。伝統空手も正式競技になって、格闘技間での選手の奪い合いはますます激しくなると思います。
自信はある!挑戦させて欲しい!
HB-ちょっと話が前後しますけど、(プロでの)ライトフライへ上げての二階級目への挑戦は、具体的にかなり模索したんですか?
中出-僕はしましたよ。魅力的なカードの話が具体的にあったんですよ。ただオリンピックは、高山にとってはそれ以上にもともとの目標だったということでしょうね。
HB-やっぱり海外でIBF挑戦や統一戦をやったりしたように、誰もやったことが無いことがしたい、というのが大きいんでしょうね。
中出-それプラス、瞼の治療に一年かかるという条件が出てしまったというのも大きいですけどね。
HB-トレーナーの立場から、中出さんは今の状況でオリンピック予選を戦って、高山選手を勝ち上がらせていく自信はありますか?
中出 そんなもんあるよ!
HB ありますか!
中出 そんなもん何年一緒にやってると思ってるのよ!「これはやったる」というのはあるよ。
HB 秘策と言うか…。
中出 秘策とかじゃないよ。
HB 以前電話で「甘く見てるわけじゃないけど、自信はある」とおっしゃってましたが。
中出 やっぱり基礎力ですよ。ジャブ一発、ストレート一発どれだけノーモーションで打てるか。生命線は基礎に忠実であることでしょう。それと 3 分間の中でいかに速い駆け引きが出来るか。
HB 確かにそこに関しては高山選手はプロの中では向いているタイプだと思いますね。
中出 今のプロ選手のなかではNo1くらいにアジャストしやすい選手やと思いますよ。スピードの中で同時に駆け引きが出来ますからね。
HB 今の採点は手数がないと勝てないですしね。予選に出れるとしたら階級は?
中出 ライトフライになるでしょうね。
HB ありがとうございました。今後もなりゆきを見守りたいと思います。
最後に「自信はある」と言う力強い宣言が出ました。やはりこうじゃないと面白くない。あとはJOCや日連がどのようなリアクションをとるか?注目して待ちたいと思います。ただ、インタビュー中でも触れたように、問答無用で門戸を閉ざすようなことはやって欲しくないなあと思います。
そして、東京オリンピックを契機にして二つのボクシング界が和合し、より大きく発展できる契機になって欲しいと願ってやみません。
キックや総合の選手の五輪挑戦は容認されるのかというのも気になる(旧徳山と長谷川が好きです)