本邦初!WBFタイトルマッチリポート 山口賢一VS小林健太郎
超満員の会場での国家独唱
さてさて、山口賢一選手VS小林健一郎選手によるWBFタイトルマッチのレポートでございます。
西島洋介山選手や西沢ヨシノリ選手が獲得するなど日本では比較的なじみの深いWBFタイトルでありますが、日本国内で日本人同士の決定戦が行われるのは、まさしく本邦初。エポックメイキングな興行の舞台となったの旭区民ホール。旭区と聞いても、他府県にお住まいの方にはピンと来ないかも知れませんな。大阪市の北東に位置する下町ムードあふれる行政区でございます。山口選手の地元ということで、過去にも何度か興行が行われています。区民センターの大ホールはキャパ1000人ほどの小屋でございますが、開場直後に中に入るとすでに結構な客入りとなっております。リングは舞台の前の空間に置かれており大変見やすいレイアウト。活気と凝縮感があって良い雰囲気であります。
この日の興行ではプロの試合の前に、子供から大人まで参加するスパーリング大会が行われております。スパーリング大会に参加した選手はそのまま会場に残ってメインまで試合を観戦する方も沢山いらっしゃいました。またプロの試合のジャッジもスパーリング大会に選手が参加したジムの会長たちが勤めています。
アマチュア選手にとっては自分たちの試合の延長上にプロの試合を見ることができます。自分の試合が終わった直後にプロの試合を見れば学ぶことも多いでしょう。興行を打つ側にとっても観客の確保にもなるし、キッズボクサーがスパーリング大会に出ればその親も観客になってくれます。また実際にボクシングをやっている人は技術に着目するので、ひいきの選手の試合が終わったら帰ると言うこともあまりなく最後まで熱心に見てくれます。
さまざまな集客の工夫、盛り上げる工夫が成されています。
選手にチケットを押し付けて、ポスター貼りも選手にやらせて営業も宣伝も選手任せというジムが沢山ありますが、それでプロモーターと言えるのでしょうか?そして集客のためにさまざまな工夫を認めるべきではないでしょうか?特に地方ではなおのことです。山口賢一選手の天神ジムの興行ではボクシングと同じリングでキックの試合が行われたりします。
そうすれば興行にバラエティが出るし、、またそれぞれのジャンルの固定ファンが異なるジャンルの競技の面白さを発見する手助けにもなります。ボクシング興行にも観客本位の工夫がもっとあってしかるべきだと思います。
アマチュアの試合が終わると次はプロの試合が始まります。アンダーカードは6回戦が三試合。
最初の試合は磯道鉄平選手VS小沢大将選手。磯道選手はもとWOZジム所属で2004年度スーパーライト級全日本新人王。かつてはテレビでも注目されたホープでした。
対する小沢大将選手はA級・B級トーナメント優勝実績のあるバリバリのA級ボクサー。天神ジムの興行に過去参戦しております。
現役復帰した磯道選手には民放バラエティ番組のクルーが密着しており、セコンドにはレポーターを勤める吉本の芸人の姿も見えます。が、私は小沢選手のコーナーに釘付け。だってセコンドがクレイジー・キムさんなんですよ!
セコンドからの指示も独特だったキム会長
小沢選手は現在クレイジーキムさんのジム所属で選手活動をしています。キムさんの地元熊本は地震で大変な状態ですが、その苦難を押しての参戦でありました。
試合のほうは見ごたえがありましたが、小沢選手の強打が明白に上回った感じ。磯道選手はブランクの影響か小沢選手にくらべると、やや試合勘が戻っていないかな?と言う印象でした。結果は小沢選手の2-0判定勝ち。技術レベルの高い試合でした。
二試合目は天神ジムの石角悠起選手がタイ人選手に手堅くKO勝ち。
三試合目はメインに出る小林健太郎選手の実兄である獅子丸崇也選手VS大阪帝拳所属だった好川大智選手の試合。
序盤は獅子丸選手が自由自在なスタイルでリードしますが、後半やや息切れし好川選手が巻き返す展開。接戦となりましたが、獅子丸選手が前半のリードを生かして2-0判定勝ちとなりました。
ここまでの三試合普段JBCの興行で見るアンダーカードと比べてなんら遜色なく、いやどちらかと言うとかなりハイレベルでありました。まあ実績がある選手が出てるから当たり前なんですが。JBCのライセンスがないからプロじゃないというような偏屈な見方がいかに現実に即していないかを如実にあらわしたものだったと思います。
一回ゲソを脱いだジムに一生拘束されるという不合理極まりない現在の選手契約ルールになじめない選手はこれからも出て来ます。それは時代の必然であり、また要請でもあります。そうしたケースは今まではすべて「選手のわがまま」と言われて来ましたが、興行もライセンスも独占する雇用主のクラブオーナーが、極端に有利となるよう設計された現在の契約スタイルは、極めて前時代的で、人権侵害とすら言えるものです。日本のボクシングが近代的で合理的な組織になれば、業界ももっと活性化すると思うのですが…。
さていよいよお目当てのメインであります。
先に入場した小林選手はスナイパーのような風貌で気迫充分。昭和の男前のようなヘアスタイルもナイスであります。
一方の山口選手は地元の大声援を受けて客席から登場。この時点で会場は超満員です。
山口選手がこの試合を実現するに当たって、実はボクシング業界からの横槍もありました。試合の発表自体がギリギリで宣伝期間も充分とはいえないものでした。ですが蓋を開けてみればこの熱気であります。
「君が代」の独唱とコールが終わっていよいよ試合開始。
ゴングが鳴ると両選手とも序盤からハイスパートの打ち合いに突入。サウスポーの小林選手は常に先手を取るスタイルで積極的に手数を出せば、山口選手は接近してボディフックを打つ展開ですが、小林選手が的確さで一歩リード。分けても良く伸びるストレートと鋭いアッパーが印象的で、何度も山口選手の頭を後ろに弾く。先手を取られた山口選手は小林選手の正確なパンチをかいくぐって、プレッシャーをかけつつワイルドなフックを上下に放ち応戦。だが小林選手のペースは落ちず手数も旺盛で、一発一発のパンチも正確でなおかつ重く硬く見える。
印象的だった小林選手のストレート
山口選手はボディ打ちで応戦
アクションが詰まった試合は一向にテンションが落ちず、両者スピードに乗って手を出し続ける展開が中盤も続く。パンチの的確性は小林選手だが、山口選手はパンチが当たるとすぐにラッシュで攻め立てて再三印象的なシーンを作る。小林選手はやや打ちつかれたか、手数は落ちてくるが、要所での回転力とパンチ力は相変わらず。低い姿勢で密着してくる山口選手をアッパーと打ち下ろしのストレートで迎撃するが、山口選手は対角線のコンビやボディアッパーで応戦。小林選手のサイドにステップアウトしての攻撃も有効。ひとつのラウンドで何度もペースが入れ替わるめまぐるしい展開が続く。
序盤からノンストップで続いた白熱の打撃戦は9Rに小林選手の目の傷が深くなって、突如ドクターストップ。会場では分かりませんでしたがビデオ映像で深さを確認出来ました。傷はバッテイングが原因だったので負傷判定となり、9Rまでのポイントで勝敗が決まるというアナウンスがなされます。
集計に時間がかかりましたが、スコアの読み上げがはじまり、77-75小林、78-75山口とスプリットデシジョン。最後の一人のスコアは…77-76で小林!小林選手が新チャンピオン。その瞬間小林選手はリングにつっぷして感涙。この試合にかけた気持ちが見えてグッと来ました。
一方の山口選手は展開をつかみかけていただけに残念。8、9ラウンドは有利にすすめており、小林選手にも疲れが見えていたので「あのまま続いていれば」と思わずにはいられませんでした。
しかしなんだかんだ言って、判定結果は公平であったと思います。言うたらあれですが、山口選手の興行でジャッジやレフェリーも山口選手の伝手で集めて来た人ばかり。負傷判定で勝つようなことがあれば、小林選手サイドから見れば禍根が残ることは確実でありました。
この結果はレフェリングもジャッジも妥協のない競技として運営されていたことの証であると思います。
勝った小林選手おめでとうございます。タイトな素晴らしいボクシングでした。
負けた山口選手。興行とスパーリング大会の準備に、ジム会員や高校生の指導、WBFとのやりとり、取材やチケット販売の対応をしながら、試合に向けた練習をする姿はまさに超人的でありました。取材時に「大変ですね」と声をかけたら、「まあ仕事ですから」と言っていた姿が忘れられません。本当にお疲れ様でした。
この試合はノンストップの打撃戦で、頭から尻尾までアクションが詰まっており、展開のめまぐるしさも含めて滅多に見られない面白い試合であったと思います。以下に試合の動画へのリンクを貼っておきます。是非ご覧ください。
↓
で最後にひとつ気になることがあったのですが、それは場内のアナウンスで「9Rまでの判定」ということになっていたのに、スコアが80点満点だった問題。役員席に行ってみると、同様の疑問をもったと思しき、記者なのかマニアなのか分からぬご同輩がジャッジペーパーを囲んで侃侃諤諤やっているところ。でジャッジペーパーを見てみると、スコアが確かに8Rまでしかない。
そこにいたWBFの会長によると、WBFのルールではストップになったラウンドは判定に含めないと言うことで、80点満点で間違いないとのこと。アナウンスの間違いと言う結論でありました。同様の疑問が知人からも寄せられたのでここに記しております。
ちなみにWBFの会長は「ストップが早すぎる」と言う見解でした。
会場を出ると地元の皆さんが「残念だったね」とか何とか言いながら自転車や徒歩で三々五々帰っていく光景が。その日常感が旭区の地元の皆さんに愛された、地域密着ボクサーの試合後にふさわしい姿だなと、なんだか腑に落ちたのでした。
大阪の片隅で何気なく行われた、この先進的なイベントを、私は忘れることはないでしょう。祭りは一瞬で終わりますが、だからこそ記憶・記録していくことが大切だと思います。
このイベントにかかわった皆様、大変お疲れ様でした。
内山高志の陥落に驚きつつなんか納得した(旧徳山と長谷川が好きです)