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HARD BLOW !

ドネアvs西岡 -歴史的一戦- に寄せて

 ドネアvs西岡(日本時間10月14日昼)が迫ってきた。
 この試合の持つ意味は一言では言い尽くせない。日本のボクサーがパウンドフォーパウンド・トップ10選手と対戦すること、WBO、IBF、WBCダイアモンド、リング誌と4つのベルトが賭けられること、何よりも現在この階級でトップと目され世界的にパッキャオの跡を継ぐスーパースター候補と言われる選手と戦うのだから、香川照之氏ならずとも「実現しただけで快挙」と言いたくなる。しかも、西岡自身がSバンタムでは最も実績を残す階級第一人者であること、ドネアにとって西岡を倒すことが階級第一人者の称号を得ることになる(リゴンドーとかマレスとかいますが)のだから、この試合の価値はいやがうえにも上がるというものだ。
 少なくとも私にとっては長谷川vsモンティエル戦以来のビッグマッチである。それはやはり、応援している日本のボクサーが世界の頂点に触れ合う稀有な機会であるからだ。西岡としてはジョニゴン、Rマルケス戦以来の、しかも海外での3度目のビッグマッチ+世界戦である。

 この試合の成立過程は、ドネアvsアルセの交渉がまとまらなかった結果、かねてからのオファーにドネアサイドがサインしたものだが、西岡にとっては「ドネアしかいない」と言い続けてきた相手だけに、まさにモーチベーション満点ではないだろうか。彼は最近のインタビューで「ドネア以外とやっても、じゃあドネアとやったらどうなんだって結局言われちゃうじゃないですか」と言い、インタビュー記事でも「世界チャンピオンになりたいんです。日本のチャンピオンではなく」と発言しているので、かつての「世界チャンピオン願望」は実質的に「統一チャンピオン願望」になっていることが分かる。たしかに私が生観戦した試合のインタビューでもカバレロやファンマの名前を出して、対戦希望を公言していた。とにかく強い奴と戦いたいということをストレートに発信できる西岡という男に、私は非常に好感を持つし、すべてのボクサーにこうであってほしいと思うのである。そしてそれが実現したことに本当に興奮するのである。(これは時代もありますね。こういう時代ですから。)

 それはともかく、実際のところ試合はどうなるのか。前評判では圧倒的にドネア有利だが、私なりにドネアと西岡を心技体の面から比較考察しておく。

心…
 西岡は前述の通りモーチベーション満点である。海外での試合も彼は好んでいるのでプラスとしてはたらく。ただ直近のインタビューではやや緊張が感じられた。厳しい質問が多いことから多少ナーバスになっているのかもしれない。情報面からドネアの力を重圧として感じている節もある。しかし彼の最大の武器は4度の世界挑戦失敗でも諦めなかった徹底した粘り強さ。その意味で重圧も自分のパワーに変えてしまう強さを彼は持っている。精神的に崩れることはないだろう。
 ドネアはモンティエル戦2RKOのセンセーショナルなHBOデビュー後、Sバンタムに階級を上げてから3戦連続してKOがないことから、スーパースターへの道を足踏みしているとのメディア評が目立つ。これはドネアvsモンティエル戦でモンティエルが抱えていた問題と似ている。しかし本人は「プレッシャーはない」と言う。たしかにこの男、強い相手、大試合には滅法強い。ハートの強さにおいても、試合中の冷静さにおいても問題は生じないであろう。試合前に西岡にVADAのドーピングテストを要求し、西岡が即諾したことから西岡をリスペクトすると言っているが、試合になれば非情になれる男である。

技 …
 西岡は攻防のスキルに長けた左強打のサウスポーのボクサー・ファイター。最近は相手の動きを読んだディフェンス技術が目立つが、やはり武器は何と言っても左。これをどうやってドネアに決めることができるかに尽きる。そのためのボクシングの組み立て・読みの速さ(クイックネス)・深さがドネア戦では最大の強みである。右のリードと微妙な足さばきでいかに距離をつくるかが鍵になる。
 ドネアはアマチュア出身なのでもちろんボクシングはできる。しかし一番の特徴はそのスピードであろう。どこから来るか分からない閃光の左フック、そして右ストレートも強く速い。攻防ともに身体能力の高さからくるスピードに依存している選手であるように思う。

体 …
 西岡はスタミナ、筋力ともに十分だが、昨年のマルケス戦では反応の遅さを感じることがあった。その面で加齢による衰えは多少あるだろう。コンディションは過去最高だそうで、たしかに動きは良さそうだ。一年ぶりの試合であるが、ブランクは精神面の充実から見て問題にならないと見る。
 ドネアについては西岡戦に向けてこれまでないほどハードなトレーニングを積んだとのこと。おそらくフィジカルに一層磨きをかけ、その面のアドバンテージを大きくする狙いと、戦術上の必要からであろう。こちらもコンディションに問題はない。(西岡を応援する立場としてはフィジカルをそんなに鍛えられると困るのだが…。)

 因みにSバンタム級における二人の実力的な位置づけであるが、私は1位ドネア、2位は西岡・リゴンドー・マレスが三つ巴であると考えている。西岡はリゴンドーに勝つがマレスに負け、リゴンドーは西岡に負けるがマレスに勝つ。マレスは若さで西岡に勝てるのではないか。そのように見ている。

 両者の戦略であるが、西岡はドネアのスピードをどうやって消すか、そして得意の左をどうやって当てるかを考えるであろう。そのため、慎重な立ち上がりを選択、まず相手の出方を見てから次の作戦を決めると見る。
 ドネアは、最近ウォードの試合(vsドーソン)を見て、自身のルーツに回帰すると言っていた。つまり最近3試合でのパワー重視の戦い方から、スピード・手数重視の戦い方に戻るという。フィジカル強化はそのためにも必要だったのだろう。ドネアは最近3試合について「実験的なもの」と言っているが、私は「パワー強化」のための「実験」だと見ている。(パワー=力×スピードであるから、スピードが増せばパワーも増す。ドネアの実験とは正確には「筋力強化」もしくは「力強い打ち方のトレーニング」だったのであろう。)
 またドネアは、「私は西岡よりスピードでかなり勝っている」としながら「スピードは完璧なタイミングによって中和される」とも言っている。スピードに溺れて西岡に裏をとられることを警戒しているのである。

 試合展開は、西岡の慎重な立ち上がりに対してドネアも慎重ながらスピードを生かした攻撃でポイントを奪う作戦であろう。西岡が前に出ざるを得ないような状況を作る、そこまでいかなくても、徐々にダメージを与え、最後に止めを刺す。スピードに劣る西岡は、いかに技術でドネアのスピードを「中和」するかだが、決して不用意な仕掛けはしないだろう。(西岡はドネアvsモンティエル戦の解説で「ドネアに対して僕ならあの捨てパンチは打たない」と言っていた。ドネアの攻勢が緩んだと見て出たモンティエルだが、あれはドネアの罠であった。)仕掛けるとしたら、かなり思い切った攻撃になるだろう。そのためには前半から中盤にかけて勝負どころになる。疲労・ダメージが蓄積してからでは、体の強いドネアと勝負にならない可能性が高い。

 最終的にどんな結末になるか、結果予想に関して言えば、私は西岡の中盤KO勝利を予想する。もちろんこれは希望的観測込みである。事前の戦力分析はいかに的確であろうと、それはどちらが勝つ可能性(確率)が高いかを算出する材料になるだけであって、それによって結果が分かるわけではない。このレベルの試合になれば、勝負はいつ終わって不思議ではない。どちらも互いが分かっている同士の戦いである。

 どちらも「グレート」で「エキサイティング」な戦いを望んでいる。やはり中盤にオープンな打ち合いが見られるのではないか。いずれにしてもこの二人の戦いを純粋に見たい。私が語るより、両者のコメントで締め括ろう。

 ドネアはモンティエル戦に向けて数か月前から2RKOを周囲に約束していたそうだ。それは決死の覚悟のプランであっただろう。今回のドネアはどんなプランをもつのか。ドネアは言う。「この相手に乱れがあってはいけない。すべての面で集中しなければならない。最近の試合で皆さんに見せた隙は今回はないだろう。実験段階は終わったんだ。」

 西岡は言う。「僕たちはどちらもカウンター・パンチャーだし、試合はおそらくチェス・マッチになるでしょう。しかしそれはファンには見逃せないエキサイティングなチェスマッチになるでしょう。」
「アメリカのファンが僕を見た時、僕はこう言ってもらいたいんです。これこそボクシングだと。」

   ◆   ◆   ◆   ◆

資料(印象に残った海外記事等)

1 アメリカでの囲み取材(西岡)

2 リング誌の西岡記事
  
3 ドネアvs西岡:パワーvsスピード(クイックネスは心にあり、スピードは体にある。)

4 「スピードはパーフェクトなタイミングによって中和される」(ドネア)

5 ウォードにインスパイアされたドネア 「昔のドネアに帰る」

6 「少しずつ相手をばらばらにして、最後にKOする」(ドネア)
 
7 「日本ではダイアモンドやエメリタスはレギュラーより価値があると思われているがアメリカでは正反対である」