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HARD BLOW !

澤谷廣典インタビュー 「問題は未だに収束していない」  

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 日本ボクシング連盟(以下日連)から山根明氏が排除されて間もなく一年が経とうとしています。マイナースポーツの統括団体の内紛に過ぎないと思われた問題は、山根明氏のキャラクターが世間の注目を集めたことで民放のワイドショーや週刊誌まで巻き込んだ大騒動となりました。『奈良判定』が流行語になるなどボクシングにとってはかなり不名誉なスキャンダルでしたが、オリンピックに向けてギリギリで自浄作用が働いたと考えれば、結果的に良かったとも言えます。それまでは山根会長体制で東京五輪を迎えることはほぼ既定路線と思われていました。今考えれば恐ろしい話であります。

 ほんの一年前まで日連のウェブサイトは、歯の浮くような美辞麗句で山根氏の功績を称える文書や、かしこまって居並ぶ選手や関係者の『山根詣で』の写真であふれかえっていました。判定への介入や独断的な組織運営、不透明なグローブの独占販売も野放しで、新聞やスポーツ紙もボクシング専門誌も提灯記事ばかりでした。

 現在山根支配の悪弊が正常化され、佐藤幸治選手や高山勝成選手といった元プロに競技参加が解放されたことを見ても、組織の刷新による成果は着実に上がっていると思います。

 この組織改革の嚆矢となったのは、一昨年の週刊文春誌上での元近大ボクシング部総監督だった澤谷廣典氏による内部告発でした。澤谷氏の開けたいわば『蟻の一穴』をあしがかりとして、僭越ながら当HARD BLOW!もいち早く澤谷氏の声を取り上げるとともに、判定操作やグローブ販売の問題をお伝えし、改革の一助となったと自負しております。ですが、あの頃はまさかあんな大騒動になるとは夢にも思っていませんでした。

 当ブログの過去の澤谷氏インタビューはこちらから 
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日本ボクシング連盟激震の内幕 澤谷廣典氏インタビュー
日本ボクシング連盟激震の内幕 澤谷廣典氏インタビューPART2
相撲、レスリングだけじゃない!『日本ボクシング連盟問題』再び 澤谷廣典インタビュー

 思い返せば昨年来、レスリングや器械体操といったスポーツ団体でも内紛が噴出してきました。自国開催五輪が近いということで、選手選考や組織内の主導権争いを巡って様々な思惑が渦巻いた結果、暗闘が起きていたことは想像に難くありません。ですが、それを踏まえた上で私は、山根氏の排除はボクシングにとって良いことであったと思います。

 あの嵐のような報道の洪水から一年が経ち、ボクシング界を追われた山根氏は『なんかわからんけど面白いおじさん』としてテレビに出演したり、自伝を出版したりユーチューバーになったりと逞しく世渡りしています。一方山根氏の側近という立場から内部告発者に転じて、山根体制崩壊に尽力した澤谷氏は今現在の日連と山根氏をどう見ているのでしょうか?久しぶりに会ってお話を聞いてきました。

 澤谷氏の発言はすべて赤文字です

澤谷「最近(日連の)中におるもんと話す機会もあるんですけど内田会長になって風通しも多少良うなったし、名城のアマ資格の件もおかしな処分受けとったもんの件も片付いたし、まあある一定の結果は出てると思います」

 長らくアマ資格申請が棚上げになっていた元WBAスーパーフライ級チャンピオンの名城信男氏のアマ資格が認められ、4月1日から近大ボクシング部の監督に正式就任しました。高山選手や佐藤選手の競技参加と並んでプロアマの関係改善の象徴と言えるでしょう。

澤谷「ただ『山根を支えとった人間がそのまま残っとるやないか』という不満の声も未だに上がっとるのが事実なんですわ。それは海外遠征のノウハウなんかもっとる人間もおるから、切ってしまうと組織が上手くいかんから仕方ないという事情はあるみたいです。ただ私が言いたいのは、山根氏はね何も過去の暴力団との交際が原因で追放されたわけやないやろ、ということなんです」

 山根氏は著作や報道のインタビューなどで日連を追われたのは過去の暴力団との交友が原因だという風に語っていますが、「それは違うだろ」というのが澤谷氏の言い分です。
 
澤谷「本当の理由は『奈良判定』『芦屋判定』とか、JOCの助成金の問題であり、グローブの独占販売の問題でありそういうことで辞任させられたのに、『たまたま降ってわいたようにはるか昔にヤクザとちょろっとかかわったことを暴かれて、悪いことしてないけど詰め腹を切らされた』ちゅう風に事実を置き換えとるわけです。それは違うやろと言いたいんです」

 『奈良判定』については明確な音声証拠があり、助成金についても当事者が不正を証言していたことは読者の皆さまも良くご記憶だと思います。



助成金不正を報じる記事へのリンク
         ↓
リオ出場の成松、連盟会長から助成金分配指示され「おかしいと思ったが…」(サンケイスポーツ)

澤谷「今まで『奈良判定』『芦屋判定』で負けにされて、泣かされて来た子らが一杯います。そのことに対して未だに何の謝罪もないわけですわ。ほんでもっと言えばね、なんぼ山根氏が強権的や言うてもレフェリーやジャッジが協力せんかったら『奈良判定』なんか起きてないわけです。確かにその時は山根が怖い、処分が怖いいうのはあったでしょ。みんな仕方なしとはいえ片棒かついどるわけなんですわ。これらはみんなどこどこの学校のセンセイなわけです。それやったら山根がおらんようなったから新しいスタートや言うのもええけど、まず『山根が怖かったとはいえ、教育者として不正の片棒を担いでしまったことは申し訳なかった』という謝罪の言葉があってしかるべきと違いますか?」

 山根氏という分かりやすい悪の象徴を退治したことで、外部からは問題が収束したように見えるかもしれませんが、日連内部にはまだ様々なしこりが残っているようです。

澤谷「山根の号令のもと暗躍したレフェリー、ジャッジがおるのに、『あの時は仕方なしでイカサマジャッジをしました。一人の教育者・大人として子供を裏切るようなことしてすみませんでした』という言葉が誰からもないわけです。そやけど新しい組織として出発するに当たって、やっぱり文面なりで今まで裏切ってきた子供たちと親にまず謝罪するべきと違いますか?」

 カルト宗教や独裁国家と同様、トップ支えていた人間にも責任があるのではないか?という当然の疑問ですが、これはボクシング記者とておなじであります。プロ興行の会場で澤谷氏とお会いすると、かつては山根氏を賛美する提灯記事を書いていた記者が平気な顔で澤谷氏と談笑していたりして、この人の信念はどうなってるのかな?と感じることがあります。

澤谷「山根氏もね、そら本出したりテレビ出たりそれはしたらよろしい。本人の自由ですわ。ただ自分のやったことを認めんと、『たまたま過去を暴かれたから辞めた』いうのは違うでしょ。そこは男らしくやったことはやったこととして非を認めて、謝罪してそっから好きなことやったらええやないですか。そして周りの人間もね、強要されて騙し騙しで良心の呵責に苦しみながらかも知らんけど、イカサマしたやつが未だにおるのは事実なんやから、そこは一回ちゃんとして欲しいということですわ」

 昨年山根氏とぶつかり合ったことで、澤谷氏もまた前歴を暴かれたりする向こう傷を負いました。そのことについてはここでは詳細には触れませんが、私も澤谷氏の告発を取り上げたことで友人・知人から「山根氏は確かに間違ってるか知らんけど、あの澤谷って人もなんか思惑があってやってるんじゃないの?」「あの人もすべてが正しいわけじゃないでしょ?」と言われたことが何度もありました。

 ただ一つ言えるのは澤谷氏の告発と行動がなければ間違いなく山根体制が今も存続していたということです。一昨年初めて澤谷氏にインタビューしたときに「爆弾巻いて山根会長に抱きついてあの世に一緒に行ったるぞ!というくらいの気持ちじゃないととても戦えない」と物騒な表現で覚悟を口にされていましたが、その言葉に偽りはありませんでした。結局行動をしないと、陰でグチャグチャ不平を言ってるだけでは何も変わらないということです。

 澤谷氏が指摘した判定で不正をしたジャッジやレフェリーだけでなく、山根氏と癒着して美味しい思いをしていた大手のプロジムも、山根氏の言い分を垂れ流していた御用記者も掌返しをして平気な顔をしています。彼らの筋目は一体どこにあるのでしょうか?

 澤谷氏はアマの世界からは身を引きましたが、近大出身のプロ選手が試合をする日にはリングサイドのチケットを買って東京や大阪の会場に足しげく通っています。時には「○○に頼まれてトランクスやシューズやて新調させられましたわ。エライ出費ですわ」と苦笑いしていることもありますが、その顔はどこか嬉しそうでもあります。「こっちからアレしたるコレしたる言うのはないけど、自分が大学に勧誘した子らから『お願いします』と来られたら無碍にできませんやろ」という澤谷氏を見ていると、若い人と関わって人生を変えてしまうことの重みを感じます。『奈良判定』という単語は流行として消費されてしまいましたが、その影響はまだ色濃く残っており、沢山の若者の人生に影を落としています。

 澤谷氏が言うように、きっちりとした総括が必要とされていると思います。

  酔っぱらって道で転んだ(旧徳山と長谷川が好きです)

風雲!山根体制落城でどうなる日本ボクシング連盟

 あっという間の出来事でした。

 昨年来当ブログでもしつこくお伝えしてきた、日本ボクシング連盟(以下日連)の内部抗争ですが(過去記事はこちらから→お中元企画 日本ボクシング連盟記事詰め合わせ)、毎日新聞がオリンピック選手への助成金をめぐる疑惑を報じる記事が発火点となり一気に炎上。その後10日ほどニュースやワイドショーを席巻することになりました。
               ↓
 リオ五輪 ボクシング助し成金流用 連盟、対象外選手に分配

 ビートたけしさんがフライデー事件を振り返って「鉄砲でシラサギを撃ったと思ったら特別記念物のトキに当たっちゃったようなもの」と評したことがありましたが、当方としても「ここまでおおごとになるとは...」と呆気にとられるばかりでした。

 テレビをつければ何度もインタビューした澤谷廣典氏がいつもの調子で「オンドレコラ」と山根会長のドスの利いたトークを迫真のモノマネで再現していたかと思えば、インターハイの会場は報道のカメラで一杯で「控え室にカンロ飴があるのかないのか?」なんてやってて大騒ぎ。そのうち山根元会長ご本人が報道の前に降臨し、「自分で説明すれば説得できる」という目論見が完全に裏目に出る独演会を生放送で披露して見事自爆。その後またも毎日新聞の報道で山根会長と暴力団組長との長年の交際が明るみに出て(→会長、組長と交友 19年前、連盟理事時代)、磐石に見えた山根体制は僅か2週間で崩壊しました。

 報道洪水のドサクサで捏造ライター片岡亮氏がなぜかワイドショーに出ずっぱりになるという珍現象まで発生。まるで国際経営コンサルタントのショーン・Kさんや元警視庁刑事の北芝健さんのような人気ぶりでした。テレビの身体検査ってどうなってるんでしょうかね?

 陰気な記事ばっかりでろくに更新もしてない当ブログのアクセスも急激に増え、昨年来の地道な活動が少しだけ報われた気分になりました。当時は周りの人にも「なんのメリットもないから関わらない方がいいよ」って反対されたなあ~。その後ネットメデイアのTABLOさんにも体験談をもとにした記事を掲載して頂きました(総力取材・アマチュアボクシング界激震 日本ボクシング連盟・山根明会長を追い落としたのは誰か――!)。

 昨年来、アマ関係者と連携しながら告発のお手伝いをしてきた当方としては喜ばしいことではあるのですが、新体制つくりはむしろこれからが本番。東京五輪へのタイムリミットも刻々と迫っています。そして当ブログとは6年のお付き合いになる高山勝成選手のアマ資格が認められるのか?という懸案もこれから議論が始まる段階。民主的な体制で組織を刷新し、若者が夢を持って飛び込める世界になって欲しいと切に願っております。

 世の中に人は山根会長に飽きて新しいオモチャに関心を移して行くと思いますが、当方は今後もしつこく顛末を伝えるとともに、折角出来たご縁ですのでアマチュアボクシング関連の情報も発信していこうと思っております。

木村×田中が楽しみな(旧徳山と長谷川が好きです)

お中元企画 日本ボクシング連盟記事詰め合わせ

当ブログの日本ボクシング連盟についての過去記事を時系列順に並べてときます。全部読めば飲み屋で事情通ぽくふるまえます(笑)。内容や画像をパクるときは引用元を明記してください。

2017年8月26日 日本ボクシング連盟激震の内幕 澤谷廣典氏インタビュー

2017年8月29日 日本ボクシング連盟激震の内幕 澤谷廣典氏インタビューPART2

2017年9月3日 なぜ隔年開催?「国体第三期実施競技選定 評価結果」に見るアマチュアボクシングをとりまく危機的状況

2017年9月12日 AIBA世界選手権 日本代表チーム瀬部勉監督の謎

2017年10月1日 AIBA公認グローブの怪 杉スポーツの謎

2018年4月26日 相撲、レスリングだけじゃない!『日本ボクシング連盟問題』再び 澤谷廣典インタビュー

2018年5月17日 トップ主導の不当判定は存在するのか?!『日本ボクシング連盟問題』再び 澤谷廣典インタビュー

2018年6月12日 山根明会長に退任要求!どうなる日本ボクシング連盟

炎上ネタ、ワイドショーネタとして消費せず末永いお付き合いをよろしくお願いします。

村木田一歩先生から『業界の淀み』というありがたい異名を頂いた(旧徳山と長谷川が好きです)

山根明会長に退任要求!どうなる日本ボクシング連盟

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日本国内のオリンピックボクシングを統括する、日本ボクシング連盟で長らく強権を振るってきた山根明会長に対して、地方の組織から退任要求が突きつけられました。

はたして今後事態はどのように進展するのでしょうか?文書中で言及されている『不正経理』とは果たして何を意味するのでしょうか?

今後も進展があり次第、経過をお伝えして行きます。

文責 旧徳山と長谷川が好きです

トップ主導の不当判定は存在するのか?!『日本ボクシング連盟問題』再び 澤谷廣典インタビュー

(本記事中はプロボクシングと峻別する為に、日本ボクシング連盟(以下日連)が統括するオリンピックボクシングを『アマチュアボクシング』または『アマ』と表記しています)

元近畿大学ボクシング部総監督、澤谷廣典氏のインタビューの続きです。

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前回は日連会長山根明氏による、個人支配の弊害と特定コーチ(元WBAスーパーフライ級チャンピオン名城信男氏)へのパワハラ問題について生々しい体験談を伺いましたが、今回はアマチュアボクシング界で長らくくすぶる、採点・判定の問題についてです。

この問題は、プロアマを問わずボクシングに常についてまわる永遠のテーマであり、昨年の澤谷氏インタビューでも触れましたが、今回はより詳細な体験談をお届けします。以下に語られるのはあくまで澤谷氏の主観的な体験談であり、事実かどうかの判断は読者に委ねますが、山根氏の側近だった人物による実名での告白は大変に重いものであることをご承知おき頂きたいと思います。様々なご意見はあるかと思いますが、命がけで戦う選手のためにも、競技の運営には一点の曇りもあってはならないと考えあえて公開いたします。もとより個々の選手個人を貶めたり批判したりする目的の記事ではありません。

記事本文中の人物名は一部を除いて匿名表記とし、以下に登場人物を整理して置きます。文中の敬称は澤谷氏の実際の発言に準拠し、あったりなかったりしますが他意はございません。(澤谷氏の発言は全て赤文字です)

山根明氏…日連会長
山根昌守氏…山根明氏の実子で日連理事
A君…2015年インターハイ奈良県代表選手
B君…2015年インターハイ東京都代表選手
C氏…ボクシング名門校H高校とN大学の監督
D氏…兵庫県のT高校の監督
E君…2015年インターハイ宮崎代表選手で後に近畿大学に進学
F氏…奈良O高校の監督
G氏…宮崎N高校の監督
I君…近畿大学の選手から後に大学中退してプロ転向
J君…近畿大学の選手
K氏…元オリンピック選手の役員
L氏…芦屋大学の監督
佐々木君…2016年岩手国体岩手県代表佐々木康太選手


2015年の兵庫のインターハイで、準決勝で当ったのが山根明の息子の昌守が連盟の会長をやってる奈良県のA君、もう一人が東京のB君でした。B君が所属するH高校のC監督はボクシングの名門N大学の監督と兼任です。その試合の時期のC監督は、山根の付き人的なポジションだった自分の後輩を自分の学校のコーチにしようとして山根の逆鱗に触れて、冷や飯を食わされてる状態でした。

この試合は誰が見ても、H高校のB君の勝ちと言う内容でしたが、判定は2-1で奈良のA君の勝ちになりました。判定が出た瞬間B君の母親は会場で「どこ見てんだよ!」と叫んで激怒して、山根の腰巾着連中に場外に連れ出されて会場は異様な雰囲気になりました。その採点結果を聞いた瞬間、C監督が「ああ」とうめいて仰け反ったのを見た山根は「C監督が負けの判定聞いて不貞腐れた」と理由をつけて、のちに処分してます。

こんときの2-1判定の、B君の勝ちにつけたのが、兵庫のT高校のDという先生です。その日の晩ですわ。私と山根がホテルの部屋で一緒におるときにDが山根に呼び出されました。部屋におったのは私と山根とDの3人だけです。Dが部屋に入ってくると山根は「オイコラDよ!」と言う感じで「おれがC監督を干しとるのに、何をアイツの生徒に点を入れとるねん!今度やったらオドレ処分やぞ!わかっとるんか!」と恫喝しよった。

確かにD先生はC監督の弟分みたいな関係ではあるんですけど、その時はまともな採点しとるのに「俺が干しとるCの選手に入れるとはどういうつもりや!今度やったら処分やぞ!」と激怒して、脅し上げたわけです。

で次の決勝は準決勝ったA君と宮崎のN高校のE君。このEは決勝の時点で近畿大学に来ることは決まってました。すでに選抜も取ってるし、高校チャンピオンクラスです。そのEが試合前に挨拶に来よったから、前日のこともあるし「ええかEよ、KOせいよ。ダウンとらな勝たれへんぞ」と言うて「分かってます」と話して送り出した。そしたら、3Rたいがいドツキまわしたのに判定は2-1でまたA。ちなみにEに入れた審判は栃木の近大のOBですわ。とはいえ試合内容はEが圧倒してたと思います。

試合が終わったらAを教えてる奈良の高校の監督のF先生が私のとこ来て、Eが近大来るの知ってるから「先生すいません、完敗です」言うて頭下げはった。F先生は潔く負けを認めたわけです。それ見たら「ああF先生もつらいねんな、大変やな」と思って。でも一番かわいそうなのは負けてるのに手が上がってるA本人ですよ。負けたN高校のG監督も私のところに来て「Eをインターハイチャンピオンにして近畿大学さんにお預けしようと思ってたのにすいません。でもいくらなんでもアレはないでしょ」と言わはったわけです。それでこっちも「いや今F監督が来て『うちの完敗です』と言うて頭下げてくれたで」というて溜飲さげてもらうかしかなかったわけ。

それで時が流れてEが大学に入って、一年からレギュラーになって最初のリーグ戦。このときは錚々たるメンバーがそろっとった。そのなかにIと言うのがおった。このIが芦屋大学との対戦で一試合でダウンを二回取ってるわけです。このときのレフェリーがインターハイの時ホテルで山根に恫喝されたD先生ですわ。この時DはIがニュートラルコーナーに戻ってへんいうて「コーナーに戻れ!戻れ!」とやって時間稼ぎしてなかなかカウントせんかった。それを見て、恫喝されたDの辛さもよお分かりました。で、その挙句二回ダウンとってるのに2-1で判定負けにされた。

結果としてIはその試合のあと「先生、俺もうアマはいいですわ。今までお世話になりましたがプロになります」と言うて来た。結局プロ転向ですわ。「言いたいことは分かっとるがな。俺らの力がないから、大人がしっかりしてへんからこうなったんや。堪忍してくれよ」というて引き止めたけど、授業料も免除して生活費も渡して手塩にかけてきた選手が、中退という形で大学を辞めてしまった…。

その日はもう一つおかしなレフェリングがあったんです。Iのあとに試合をした近大のJが芦屋大学の選手を1Rから一方的に攻めまくって相手はフラフラやったんですが、レフェリーやってた元オリンピック選手のKさんが一向にダウンをとらへん。そんときはたまたま、山根昌守が娘婿の鈴木監督のリーグ戦の初陣やったから近畿大学側の私の横に座っておったわけです。昌守にしたら近大が一方的やのにダウンとらへんから、苛立ってたんでしょうね。突然立ち上がって大声で「おい!」と審判にアピールした。そしたら本部席におった親父の山根もさすがにまずいと思ったかワーワー言い出しよった。そしたら芦屋大学のL監督がすぐにタオル投げて、そこで即ストップですわ。そのあと山根はみんなが見てる前で、レフェリーのKのことを「なんでダウンとらんねや」とボロカスに叱責してました。でも私らにしたらKたち関東の審判は、芦屋大を勝たせるために呼ばれてて、山根の意向でダウンとらへんかっただけやねんから、なんであんな怒られなアカンねやと思いました。

それからしばらくして九州の仲のいい役員と会場で会った時に、冗談めかして「魂売って芦屋大学勝たせにきてる審判とは話せんぞ」言うてかましたったら「勘弁して下さいよ~」いうて困ってるから「お前らも会長の為に芦屋勝たせなイカンから大変やな」っていうたら「さすが良く分かってますね」って言いよりましたわ。「Kさんはどないしてるの?」って聞いたら「あの人がレフェリーで呼ばれることはもうないでしょう」と。

それから、Iが中退してリーグ戦が終わったあと大阪学生選手権というのがありまして、そこでは1年生のEがリーグ戦の鬱憤晴らすような圧倒的な内容で優勝しました。ところが優勝したEに「良くやったな」と声かけたら、Eは「先生これでボクシング辞めさせてください」と言ってきたんです。こっちにしたら「お前優勝して何を言うとるねん」という話じゃないないですか。「何があったか言うてみろ」と聞いたら「正直ずっと尾を引いてたんですが、去年のインターハイの決勝での判定負けからボクシングが嫌になってました。とってもらえたので大学には来ましたけど、どうしても熱が入らないんです」と。だから私は「それやったら、気持ちが充実するまで休んでええから」というて休部扱いにして「試合出て来い」「練習出て来い」ということをせんと休ませたんです。そうやってゆっくり時間かけてEの気力が充実をするのを何ヶ月も待たなイカンようになりました。

今いうた子らはみんな、一回の不当判定で人生が変わってしもとるわけです。岩手国体での判定が新聞記事になった佐々木君なんかボクシングそのものをやめてしまったと言う風に聞いてます。今後もう二度とこういうことがあったらイカンのです。


記事

2016年10月7日 岩手日報紙の紙面より

こういうことが続くと、選手らだけやのうて役員同士、大人同士の関係もおかしなってくる。昨年のインタビューでも触れましたけど、今おもに三人の理事が審判を決めてますけど、この三人に逆らったら山根に告げ口されて処分されるというてビクビクしとるから、他の理事や審判との関係もギクシャクしてますよ。

そもそも、この三人も大半の理事も高校の教員なんですよ。教育者がそういうことをしとって平気なわけです。彼らも最初連盟に入ってきたときはそんなんではなかったはずですけど、長い年月でもう考え方が毒されてしまってる。

実際アマの大会見てるなかで、判定がおかしいと言ってる人は沢山いるでしょ?そこにメスをいれないと絶対に良くならないです。


いかかがでしょうか?私には迫真性に満ちた、当事者ならではの告白だと思います。澤谷氏が言及している岩手国体の試合は、動画サイトでも見れますが確かに不可解な判定です。



「アマではパンチ一発もダウンも採点上は一緒だから」という正当化の理屈も良く聞かれますが、そういう小理屈でおかしな判定を正当化している競技はIOCによって五輪から排除され、その結果国体から排除され、さらに一層マイナースポーツ化していくだけではないでしょうか?

外部の人間から見て明らかにおかしな運営がなされていることに危機感がないなら、アマチュアボクシングに未来はありません。憂いなく東京五輪を迎える為にも、組織の刷新は必須だと考えますが、関係者の皆様はいかがでしょうか?

澤谷氏の発言中にあるように、個々の選手にとって試合での勝敗は、競技生活にとどまらず進学や進路に大きく関わる問題です。幹部や役員のパワーゲームによってそれらが歪められているとしたら大変な問題です。公平な競争条件はスポーツの根幹ではないでしょうか?

外部にいる私に出来るのはここまでです。日々研鑽を積む選手のためにも、アマチュアボクシング界内部から正常化に向けて声を上げていただきたいと切に願います。

アマチュアボクシング界の自浄作用に期待したい(旧徳山と長谷川が好きです)