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ある裁判記録 その10 ― 被告 準備書面4 (前半)―

この裁判は、原告が被告を訴えた民事裁判である。 
訴状は原告により平成24年5月24日某地裁に提出され受理された。
以下は被告準備書面4(平成24年12月27日提出)の要約である。

※〔 〕は要約者による注。
※ 準備書面とは、民事訴訟において原告・被告双方が、自らの主張と証拠となる事実を示すための書類である。実質的に裁判の進行状況を示す書類である。
※ 書証(証拠となる書類・写真・録音テープ等)は要約の対象外とした。
※ 要約者が要約に困難を感じたために原文通りとした(ただし実名は除く)部分があり、始端と終端に記号を付し、▼原文▲のように示した。

■■■■

被告 準備書面4(H24年12月27日)


第1 はじめに

1.本質的解雇事由と「共謀」

 ▼被告は本件において、本件の当事者が立場を変えて訴えを提起し、もしくは申立をした解雇の有効性を争っている諸事件において「本質的な解雇事由」を主張しているところ、本準備書面をもってその詳細を陳述する。
 本質的解雇事由は略言すれば、後述の通りW、jらのグループ(以下「チームW」という)がWの世界タイトルに挑戦したいと欲していた意図と、原告が抱いていた被告の改革構想及びその後における原告、L、I、J(以下「被解雇者ら」という)が被告に対して抱いていた反抗意図が合作し、日本において被告と別の組織を立ち上げ及びこれを成就せしめるためにおこなった被解雇者らによる被告組織の壊乱その他の行為が被告の就業規則に違反したことを問題にしている。
 ここにおける被告の関心は、もちろんかかる企てが被解雇者らと「チームW」との間に通底する様々な行動によって遂行されたことに対しても向けられており、本準備書面においてはこのことについて論ずるけれども、専ら問題にしているのは、被解雇者らがチームWと意思を共同にしたこと(以下「共謀」ということもある)それ自体、ないしは、共同意思によって成立した「共謀」そのもののというよりは、むしろかかる全体的行動の重要部分を占める被解雇者らの行為が被告の懲戒解雇に該り、解雇ないしそれに伴う処分が正当であることについてである。▲

2. 「チームW」とJ

 〔Wの経歴。省略〕
 Jは南アフリカ・ブラクバンでのv記者としての取材を通じ、j(トレーナー兼マネージャー)、k(サポーター)などからなる「チームW」メンバーと知り合い、当時のメンバーM(マネージャー補佐)と昵懇となった。

3. 同じ頃、原告とJは、fに関しても、ゆくゆくはfは中国へ進出することについても共通認識を持った。
 ▼一方、原告は被告事務局長として予てからボクシングと格闘技を統括する団体(格闘技統括団体という)を構想しており、J(ないしチームW)の話は、原告にとって共感を覚えるものがあったと推察され、やがて被告と別団体を立ち上げ、日本においてW戦を開催する企てへと「チームW」を巻き込んで展開してゆく。▲

4. 原告による被告切崩し工作

 原告は本部事務局長として、被告内部の統制と組織の掌握に失敗し、おそくとも平成23年初頭には被告事務局は原告に反発するグループと同人を支持するグループとの間に意見の対立をみるようになった。そして前者グループから経理不正をはじめとする疑惑がコミッショナー宛に告発され、調査委員会の調査を経て、平成23年6月28日、調査報告書が提出され、同日理事会にて原告は降格処分を受け、同日理事の地位からも辞任する意思を表明した、これをもって、原告は自らの被告における地位が不安定になったことを遺憾に思うようになった。即ち、かねて構想していた格闘技統括団体を立ち上げ、g及びfのボクシング興行を認定・管理せしめ、他方においてボクシング興行のプロモーター会社を設立して、g・fの日本における興行を行い、原告を含む支持者の経済基盤を確立することを企て、かくすれば被告の組織を壊乱して、その社会的地位は低下するが、そうなっても構わないとの認識のもとに、被解雇者ら内にあって自らを支持するL、I及びJらと意思を通じて、

 ① 公益通報その他の手段を用い、被告のガバナンスを頽廃させて内部分裂を図り、被告執行部の力を減殺し、
 ② 格闘技認定団体の設立を準備し、
 ③ プロモーション会社の設立を準備し、
 ④ gの日本興行の実現に向けg等と接触し、
 ⑤ gに対して選手に関する情報を漏えいした

のである。

5. 就業規則違反

 これら行為は、L、原告、I、J、M、K、及びWらが意思を共同して行ったもので、被解雇者ら従業員であったL、原告、I、Jについては、各人の各行為が被告就業規則55号各号に定める懲戒解雇事由に該当することは明らかである。
 各行為と就業規則違反については以下該当箇所で指摘する。



第2 共謀の形成

1. 被告の課題
(1) 被告のプロボクシング界における位置づけ

 昭和27年4月21日設立、一国一コミッションを標榜し、日本においてプロボクシング競技を統括する唯一の機関で、d、e、zに加盟している。

(2) 日本におけるg、fの世界タイトルマッチ開催

 近年g、fが有力なチャンピオンを輩出していることから、Wをはじめ挑戦機会を求め、国内ライセンスを放棄して海外に拠点を移す選手も目立つようになり、現状では選手の海外流出が加速し、現行でのクラブ制度が崩壊しかねないとの懸念も関係者内で広がっていたことから、被告x〔たんなるxの誤りか〕では平成22年10月に、g・f両団体加盟申し入れを表明した。
 これら状況に配慮した被告は、平成23年2月28日、g・fについて日本ジム所属の、d、e王者との統一戦に限り認めることに決定した(防衛戦は不可)。但し、当時事務局長の原告は、展開次第で、まず海外で防衛戦、そして国内で防衛戦と段階を踏んでいく見通しとの見解を示した。このように被告にとって課題であったg・f問題は原告にとっても同様であった。
 
(3) 他競技との関係

 ▼ところで、K-1・PRIDEを初めとする新興格闘技の人気上昇に伴い、近年はボクシング引退後に他の格闘技へ転向する選手も多くなっているが、これらの選手の中にはボクサー時代に心身ともにダメージを受けている者も多く、その上で格闘技の激しい試合をすることは健康管理上からも非常に危険と判断されている。このことはプロボクサーの健康管理と安全防護を事業目的とする被告にとっても重大な関心事であり、eが平成17年よりムエタイ(タイのボクシング)部門を設立したこともあって、原告は被告を格闘技全体の統括団体(日本アスレチックコミッション)へと発展させる構想を秘めていたかもしれない。▲


2. W、M、Jらの関係

(1)
〔Wの経歴。省略〕平成22年9月1日南アフリカにおける「g世界ミニマム級挑戦者決定戦」に勝利し、挑戦権を獲得。

(2)
平成1月29日、Wは南アフリカのブラクパンで、Xに挑戦。3R負傷ストップ。無効試合となったため、Xはgの規約上、Wと再度タイトルマッチを行わなければならなくなった。

(3)
〔Wの経歴。省略〕WvsX戦をvの記者であったJが取材。チームWのメンバーと知り合った。


3. 被告の混乱と原告ら

(1) Jの被告事務局への接近

 Jは業界の内側からボクシングに関わりたいと考え、平成22年11月取材で知り合った被告関西事務局長へ就職の話を持ちかけ、Oは原告と相談。空席がなく職員になれなかったJは予てより取材を通じ原告とも顔見知りになっていた。

(2) 原告に対する●●〔要約者の責により2文字欠落〕

 平成23年4月18日の差出人不明の書面(告発文)に原告とSと思われる写真が同封されており、Sを採用(同年3月20日付)したのはOであり、原告とOが極めて近い関係にあったということができる。
 この告発文は被告内外に大きな波紋を呼び、同22日東京試合役員会の総会で、(被告専務理事Bほか、F、R、T、V、Qも出席)、原告の解雇を求める意見が噴出した。(上記、F、R、T、V、Qのほか、後に原告の解雇を主張するHを加え、反原告派と言ってよい。)
 Bは同23日a理事会、同25日本部事務局会議にも出席したが、いずれの会議でも原告の解雇を求める意見が大勢を占めた。

(3) Jの採用

 ▼同じ頃である。3月23日か24日に、JはOに電話をしたところ、Oから困ったことが生じたため取り急ぎ事務局業務を手伝って欲しいと言われた。また、同月25日頃に原告よりJに電話があり、今日からでも事務局に入ってほしいとのことであった。ただし、そこで条件提示などは一切なかったため、Jは、話を聞かせてほしい、と言ったところ、原告からは、かねてより被告事務局の弱点であった広報業務、そして、英語力を活かせる国際関係の業務に従事してほしい、などと言われている。
 おそらく、原告とOとしては、Sを情実により関西事務局職員に採用したとの批判を恐れ、Sが辞職した後に直ちにJを雇い入れれば、Sを採用したのはあくまで業務上の必要があったからであることを裏付けられるとする意図もあったと考えられる。しかし、それだけではなく、Jを雇い入れることを検討した時期はg世界タイトルマッチを日本で開催することが取り沙汰されていた(結局実現せず)時期とほぼ同時期であり、このことに照らすと、原告はJがWのg世界タイトルマッチを取材した経験を買い、その意味で国際関係の業務を担当させるつもりでJを採用したものと思われる。▲

(4)原告への告発と事務局長解任

 同年5月10日「被告東京試合役員会話、事務局員合同調査委員会」名義で、同月9日付「調査報告書」と(以下「通告書」)及び「真相究明と原告事務局長の解任を求める連判状」が被告に提出された。通告書は、告発文の真偽を確かめるための調査を行った結果を報告する体裁をとっているが、「原告事務局長の責任追及の総意に基づくもの」である旨記載されることから、原告に関する各事実に関する告発の通告であって、各事実が真実であれば明らかに懲戒解雇事由に該当する内容を含むものであった。

ア. 不正経理を通じて横領行為や背任行為に及んだとする事実
イ. 情実により権限を濫用してSを不正に採用した事実
ウ. 本部事務局職員Iに対して程度を超えて親密に接し事務局長としての体面を汚した事実
エ. 執務上の職務を懈怠し、ないし職場を離脱したり職場を放棄したとの事実
オ. 事務局職員に対し「パワーハラスメント」に及んだとする事実

 そこで被告は、調査委員会設置を決め、原告に1か月間(5月10日~6月9日)の休職を命じた。同年5月16日、被告は理事会で調査委員会を設置した。


 ▼このような被告における混乱状況の中、Oは、調査委員会設置と同日である5月16日に、試用期間3か月の約定でJを関西事務局員に採用した。これにより、被告関西事務局長は、O、H、Jの3名で組織されることとなった。
 ところで、本部事務局及び関西事務局の職員のうち、上記原告の解雇を求めた事務局職員を除く者、即ち、O、L、Iは、いわば原告派とも称すべきものであり、Oに採用されたJもやがてこの原告派の一員となった。▲


 平成23年6月28日、被告は調査委員会の調査報告書を受理。緊急理事会を開催し、出席理事全員(特別利害関係にあるため一旦退席した原告を除く)の賛成が得られたので、議長である被告代表理事が原告の事務局長職を解き、一般職員への降格処分を決定。その際、新しい本部事務局長としてD、B専務理事が辞することに伴いCが専務に就任することを決議した。そして、再び理事会の場に入った原告に対し、議長A代表理事が降格処分の旨を告知すると、原告は、出席理事全員に向かって深々と頭を下げ、処分に従う旨を態度で示し、また、同日、マスコミ各社に、降格処分を真摯に受け止めて、理事を辞任することを発表した。しかしながら、後に判明するように、原告は内心では上記処分に対する強い不満を持ち、自身が被告の内部における然るべき地位に復帰する強い決意を秘めていたと考えられる。事実、マスコミに表明した理事の辞任についても辞表を提出していない。
 反原告派の事務局職員は、被告らに対し、少なくとも原告と同一の事務所で勤務することは出来ない旨を強く申し入れてきた。▼そこで被告としては原告の女性問題に端を発して上述のような大騒動になった以上、少なくとも1年程度の冷却期間を設けないと被告における業務に差しさわりが生じると判断し、原告に対しs新宿ビル4階にあるU事務所において勤務することを命じた。▲

(5) 関西事務局の混乱


 平成23年7月5日、関西試合役員会より、被告に対して「O関西事務局長の一連の問題について同問題に関する確実な真相究明と厳重処分を求める要請書」(乙第48号証)と題する書面が提出された。これは、上記原告に対する告発事実にOが関与したことに関する調査を行い、これに基づく処分を求めたものである。これに対し、DとCは、Oに対し、関西地区試合役員会とよく話し合うことを求めた。


 同年7月上旬頃、DとFは、被告の財政状態が厳しいので、関西事務局員を1名増員し3名とする余裕はなく、2名で十分業務を行えること、Jの採用が同年5月16日で試用期間3か月であることから、その満了1か月前の7月15日には解雇予告しなければならないと考え、7月14日午後5時頃、DはOに電話し、経費節減のため、Jを8月15日付で使用期間満了を理由に解雇することを通知した。
 Oは、Jを解雇する合理的な理由はなく、寄付行為上、関西事務局職員の任免権は自分にある(寄付行為第29条)ことから、Jの解雇には承服できない旨回答した。
 しかしながら、Fは、Dの許諾を得て、同日、関西事務局J宛にD名義のJに対する「試用期間満了に伴う通知」(甲第23号証)と題した解雇予告通知を郵送し、同通知は翌15日に関西事務局に到達した。


 Cは同年7月14日~18日、休暇をとって、DがJに解雇予告を通知したことを、休暇明け19日頃Fからメールで事後報告を受けた。CはFを呼び出し、Fに対し、試用期間であっても解雇するというのは重大なことであり、十分に解雇理由を調査し、その理由がなければできないことを注意した。同月20日、Jへの解雇予告を撤回することとし、21日にDがOにその旨伝えさせた。Cは、Dに指示して、D名義の7月25日付解雇予告撤回書(甲第24号証)をJに郵送させ、これは27日にJに到達した。


 ▼以上のとおり、撤回したとはいえ、D及びFが解雇予告通知を送付してしまったことをきっかけとして、Jは現執行部に強い反感を持ち、ますます原告派に傾倒して行ったことは想像に難くない。▲ 
 その後被告は、平成24年6月16日付解雇通知書(乙第49号証)をもってJを懲戒解雇した(就業規則55条4号、同6号、同11号、同18号違反を理由とする)。
 なお、Oは、上述のとおり、C及びDから自身の問題に関して関西試合役員会と話し合うことを求められていたが、結局話し合うことなく、7月29日付の退職届を被告に提出し、8月15日をもって被告を退職する旨の意思を表示した。


4. 公益通報

 Jへの解雇予告発送以来、平成23年7月~11月中旬にかけ、原告派に属する職員から、C、D並びに反原告派に対し、次々と公益通報(公益第2~10号)がなされ、被告はその対応を余儀なくされた。
 原告に属する者が次々と公益通報(第1号の申立を除く)を行った真の目的は、反原告派に対する意趣返しもさることながら、反原告派に処分を科し、C、Dをその職から追い落とすことにより、被告組織を壊乱し、被告の組織立て直しには原告に期待する外なしとする原告待望論を醸成して、原告の事務局長復帰を果たすことにあったものと考えられる。なお、原告はいずれの公益通報の通報者にもなっていないが、Lが被告に返却したパソコン内に残っていたメールのデータによれば、いずれの公益通報も原告がLらに指示して行ったものであると認められる。

ア. 被告公益通報第2号:解雇予告通知問題(平成23年7月16日付公益通報書)
 ①公益通報者 :O、J
 ②被公益通報者:C、D、F

イ.被告公益通報第3号:情報改竄問題(平成23年7月16日付公益通報書)
 ①公益通報者 :L、I
 ②被公益通報者:D、F

ウ.被告公益通報第4号:詐欺問題(平成23年7月24日付公益通報書)
 ①公益通報者 :L、I
 ②被公益通報者:H

エ.被告公益通報第5号:  (平成23年7月28日付公益通報書)
 ①公益通報者 :L、I
 ②被公益通報者:H

オ.被告公益通報第6号: (平成23年8月2日付公益通報書)
 ①公益通報者 :L、I、O
 ②被公益通報者:H

カ.被告公益通報第7号:暴行・傷害問題(平成23年8月4日付公益通報書)
 ①公益通報者 :L
 ②被公益通報者:Q

キ.被告公益通報第8号:脅迫・強要問題(平成23年8月15日付公益通報書)
 ①公益通報者 :L
 ②被公益通報者:Q

ク.被告公益通報第9号:立替金処理問題(平成23年9月28日付公益通報書)(乙第50号証)
 ①公益通報者 :L
 ②被公益通報者:B

ケ.被告公益通報第7号:背任問題(平成23年11月7日付公益通報書)(乙第51号証)
 ①公益通報者 :L
 ②被公益通報者:C、D

(2)
 ▼第9号公益通報に関連してのことであろうと思われるが、平成23年9月29日、午前10時57分、Lは原告に対し、

 ミッションB、ミッション千鳥ヶ淵とも完了です。

とメールを打っており(その用件名は「けけけ」としてふざけている。乙第52号証)、また、同日午後1時19分、原告に対し、

 ミッション妖怪の最終版です。秀逸の添付資料1をご覧下さい。

ともメールを打っている(乙第53号証)。Lが原告と通謀してかかる申し立てを行っていることが明らかである。文中「妖怪」とはBを指している。▲

(3)
 被告は上記通報を調査するため平成23年10月21日調査委員会を設置。平成23年11月25日に上記1~8号、平成24年2月2日に9、10号につき調査報告書をとりまとめた。被告が公益通報を懲戒解雇事由としたのは、上記9、10事件の事実であり、9、10号の通報内容には多くの虚偽が含まれており、「公益通報」と称するに値しない。被告はかかる虚偽事実の通報によって、Lが被告事務所内の風紀秩序を乱したことを懲戒解雇事由とした(就業規則第55条2号違反)。

■■■■

以上。(後半につづく)

by いやまじで

ある裁判記録 その9 ― 原告 準備書面4 ―

この裁判は、原告が被告を訴えた民事裁判である。 
訴状は原告により平成24年5月24日某地裁に提出され受理された。
以下は原告準備書面4(平成24年11月13日提出)の要約である。

※〔 〕は要約者による注。
※ 準備書面とは、民事訴訟において原告・被告双方が、自らの主張と証拠となる事実を示すための書類である。実質的に裁判の進行状況を示す書類である。
※ 書証(証拠となる書類・写真・録音テープ等)は要約の対象外とした。

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原告準備書面4(H24年11月13日)

 被告準備書面1「第3 懲戒解雇事由」に対する認否・反論

第1 パソコンデータについて

1. 本件データを被告が発見した経緯について
 被告は平成24年3月23日にLを「自宅待機にした際」、Lのパソコンを調べ、明らかになったとしているが、事実と異なる。
 事実は、Lを「懲戒解雇した後」パソコンから何らかの手段で抽出したものである。
 同年4月9日に実施されたLの「聞き取り」時に、Eは明確に「(Lが使用していたパソコンに)メールも何も残っていない」と発言している。更にLは4月12日付で懲戒解雇されているが、懲戒解雇事由に当該メールデータの件は一切示されていない。また、Lの本訴準備書面1で被告は、「4月12日以降に本件メールデータの存在が判明した」としていることからしても(1頁最終行~2頁2行目)、「3月23日付Lを自宅待機にした際」に発見したとの主張は虚偽であり、Lの解雇後に何らかの不正な手段を用いて復元したものである。


2. 違法収集証拠の排除の主張
 被告は、Lの本訴準備書面1において、Lが使用していたパソコンを懲戒解雇後に調べたところ、メールのデータが残っていることが判明したと述べるが、このメールデータは、Lが、被告在籍時に業務上使用していたメールアドレスではなく、全く私的に使用していたメールアドレスから発信・受信されたものである。被告は何らかの不正な手段によりLのパスワードを入手後、当該パスワードを使用して、Lの上記メールアドレスのメールボックスにアクセスして、収拾したものと考えられる。
かかる行為は、不正アクセス行為の禁止等に関する法律3条1項に違反し、「3年以下の懲役または百万円以下の罰金」(同法11条)に処せられるべき違法な犯罪行為である。このように被告はLの私信であるメールをLの許諾なしに不正かつ違法な手段により収集したものであるから、これらは証拠の申し出は違法であり、却下されるべきである。また、これら証拠はいずれも証拠能力がなく、違法収集証拠として排除されるべきでる。


第2 “JAC”の設立準備について

 原告指摘事実を全て否認し、就業規則55条第15号に該当するとの主張は争う。

1.共謀の不存在

(1) 被告の主張は、Lの私用のGメールアドレスの送受信ボックスに保存されていたメールを勝手につなぎ合わせて作り上 げた全く虚構のストーリーにすぎない。

 被告は懲戒解雇事由として、原告がM、W、K、J、L及びIの6名と「共謀」して“JAC”の設立準備を行った旨主張する。
 しかし、原告が共謀者とされる人物のうちWとは面会はもちろん電話、メール等の連絡を取り合ったこともない関係であることが示すように、原告と共謀者とされる人物との関係は、被告指摘のように「共謀者それぞれがJACの活動を利用し利益を図ることを目的」とするような関係になかった(甲25、週刊朝日のW記事)。
 被告は、Lの私用Gメールアドレスの送受信ボックスに保存されていたメール「のみ」を手がかりに、M、W、Kからなんら事情聴取することなく、原告が上記6名と「共謀」して“JAC”の設立準備などを行った旨主張するが、これは共謀者とされる人物らから直接聞き取り調査など行わずに、被告が原告らのメールを都合良く繋ぎ合わせて作り上げた全くの虚構のストーリーである(甲26、内容証明文書)。

(2) 原告と共謀者とされる者との関係について
 以上、原告と共謀者とされる者との関係の説明。以下の人間関係は、相互に面識のない者も含まれており、到底被告と事業が競合する新しい団体の設立を共謀したとはいえないことは明らかである。

ア. Mとの関係
 Mは大阪在住、個人事業としてプロボクシングのマッチメークを行っている者。
 原告は、平成23年9月ころに、被告関西事務局員Jを通じて、Mから今後のボクシング界での活動等について相談されたことをきっかけに、1、2度会ったことのある程度の関係である。

イ. Wとの関係
 Wとは、大阪在住、平成12年デビューのプロボクサー。平成17年4月、世界ミニマム級チャンピオンになっている。原告とWはボクサーと被告職員という立場でいちおうの面識はあるものの、個人的な交流は一切なく、メールのやりとりをしたこともない。(甲25、週刊朝日、W記事)

ウ. Kとの関係
 Kは、平成18年に被告の「マッチメーカー」ライセンスを取得した者。平成24年8月13日に原告とほぼ同様の理由により、被告から「マッチメーカー」ライセンスの無期限停止処分を受けているが、これに対し「聴聞の機会も与えられず、捏造された事実で一方的に処分された」と主張している。(甲27、日刊スポーツ記事)

エ. Jとの関係
 Jは、元vの記者であり、平成23年5月に被告へ入所。被告関西事務局に勤務していた者である。
 Jは平成24年6月に原告とほぼ同様の理由により懲戒解雇されているが、無効であるとして大阪地裁に地位確認等を求める訴訟を提起しており、現在係争中である。

オ.  L及びIとの関係
 L及びIは、被告在職時での本部事務局での同僚。上記両名とも被告から解雇され、当該解雇は無効であるとして、東京地裁に地位確認を求める訴訟を提起しており、現在も係争中である。


2. そもそも“JAC”なる団体は存在しないこと

(1)
 原告、M、W、K、J、L及びIの合計7名が「JAC」なる団体を設立したとする被告の主張は、平成23年9月下旬~同24年2月上旬までの間に原告を含めた上記7名の間でそれぞれ別個の案件について取り交わしたメールのみを根拠とするものである。これらメールはそれぞれ別個の案件について取り交わされており、相互に関連性がないものである。そして、被告は、M、W、Kから事情聴取も全く行っていない。これらのことから、被告の主張は、被告がこれらメールの内容を一方的な憶測に基づいて無理やりに繋ぎ合わせ、勝手に作り上げた、虚構のストーリーあるいは空想の物語にすぎない。

(2)
 被告が、原告らが「“JAC”設立準備を行った」ことの証拠として提出した乙27号証等のメール内容を見ても、平成23年12月にMが原告に「そろそろJACの設立にご注力いただけないでしょうか。」との勧誘の記載があるが、これはそもそも原告自身がJAC設立に注力していないことを示す事実である。そして、このメールに原告は一切返信していない事実は、原告、J、Lが、Mのメールによる勧誘に全く応じていないことを示すものである。
 そして、その後のMらのメールには「JAC」との文言は一切出てきていないことから、
 ①原告、J、及びLの3名が平成23年12月12日の時点で、JA設立準備に関わっていなかったこと、
 ②上記3名がMからの乙27号証のメールによる勧誘にも応じず、
 ③結局、JACは設立されなかったことは明らかであり、原告がJACなる団体を設立しようとしたとする被告の主張が事実無根であることは明らかである。

(3)
 以上のとおり、原告はJACを設立しておらず、設立しようと考えたこともないので、原告にとってJACがいかなる団体かは知るところではない。一方、被告は、「JAC」を被告とは別のボクシングタイトル認定団体であると勝手に解釈しているが、被告が提出した証拠からいかなる根拠でかような団体と認められるのか全く不明で、被告が示す解雇事由は全く根拠の裏付けがないといわざるをえない。
 そして、「共謀者それぞれがJACの活動を利用して利益を図ることを目的として」(被告準備書面1、12頁)という点についても、原告を含む各人がいかなる方法で「具体的に」利益を図ることを意味するのか全く明らかにされていない。
 被告は、JACの事業が、被告と「競合」し、「被告の利益を損なう」と主張するが、その具体的な意味を証拠に基づいて全く示していない。営利企業でなく、スポーツを管轄する財団法人であり、プロボクシングの試合管理を行う被告との関係において、いかなる意味で、いかなる市場で「競合」するのか、被告は全く具体的に明らかに示していない。
 さらに被告は、原告らの行為が「被告の利益を損なう」と主張するが、かかる主張は極めて抽象的なものにすぎず、被告が損なわれる利益はいかなるものか(例えば、被告の売り上げが減少するということなのか)、具体的には全く示されていない。

(4)
 以上の通り、被告の「“JAC”の設立準備」とは、被告が原告らのメールのみを根拠に、そのメールを都合よくつなぎ合わせて独自の解釈をした上で、作り上げた虚構のストーリーにすぎない。
 それ故、その内実があまりにも曖昧で、具体性を欠くものであって、全体としておよそ意味不明であり、到底、懲戒解雇事由となりうるものではない。


3. ア JACの設立を具体化するためにGの協力・支援を得ようとして接触を保ったとの指摘に対する反論

(1)
 被告は、原告がJAC設立の具体化のためgの協力・支援を得ようとして接触を保ったことの証拠として、3つのメール(乙25、28、29)を挙げているが、文面から原告がgの協力・支援を得ようとしている事実がどこから読み取れるのかが、全く不明である。また、これらメールから、gの強力な支援を得ることが、いかなる意味でJAC設立を具体化することになるか、全く不明である。以下、メール毎に原告の真意を説明する。

(2)
 乙25号証は、MからJ、原告、Lに発信されている。文面から、平成23年10月23日にMがg本部でg本部関係者と会見したことの報告になっているが、原告からMに対しg関係者に接触するように依頼したことはない。Mがg訪問の事実を一方的に報告したにすぎない。
 なお、このメールに原告は一切返信しておらず、その後も、g関係者と面会もメール接触を図ったことも一度もない。

(3)
 乙28号証は、日本政府観光局から<gの会議を日本で開催したいという話があり、被告に連絡した方がよいのか>との問い合わせの電話があり、Iが<よくわからないので、明日連絡するようにLにお願いした>旨答えたというメールを見て、来年はgの会議はハワイで開催が決まっていたと原告は認識していたので、なぜgが日本観光局に打診したのか疑問であったことから、「来年はハワイでの開催が決まっています。ちょっとくさいですね」と答えたにすぎず、このメールの返信がいかなる意味で、JACなる団体の設立の具体化の証拠となるのか全く意味不明である。

(4)
 乙29号証は、日本政府観光局のy氏から、今後直接「gが被告にアプローチを希望した場合、被告の連絡先を伝えて構わないか」との問いかけに対し、その場合は私のメールアドレスをお伝えくださいと、Lの被告業務用メールアドレスを伝えただけで、このメールがいかなる意味でJACなる団体の設立を具体化するものか全く不明である。

(5)  
 なお、乙29号証メールは乙41号証からの流れのメールで、日本での会議開催を希望するgの問い合わせへの対応を、LがDに相談したうえ、Lが「対応できない」と返事をしたメールを受けてのもの。乙41号証でもLは、外国のボクシング関係者から日本の政府機関を通じて被告にアプローチがあること自体は、日本のボクシングの国際化の観点から悪いことではないと考え、「今後も諸外国からのアプローチがございましたらご連絡をいただきたく、心よりお願い申し上げます」と答えている。これを受けて、日本政府観光局から、今後g側からのアプローチがあった場合に被告の連絡先を伝えて構わないかとの問い合わせがあり、それに対しLは被告業務用メールアドレスを答えたのである。
 そもそも被告が主張する、被告と競合する別のボクシングタイトル認定団体の設立準備行為としてgに接触を保つなら、被告業務用メールアドレス使用するはずがない。そもそもgは被告の連絡先を知りたがっていたのであり、「JACなる団体の設立準備者」の連絡先を知りたがっていたのではない。このような競業行為を画策するのに、日本政府観光局を通じて接触を図るはずがないことは明らかである。
 このように乙28、29号証からJACの設立の具体化のためにgとの接触を保とうとしたと断定する被告の考えには、著しい論理の飛躍があり、こじつけというほかない。


4. イ.JACに関係する合同会社(LLC)を設立するための定款案を作成したとの指摘に対する反論

(1)
 原告は、JからMが今後ボクシング界でマッチメーク等を行っていくうえで助言をもらいたいとの依頼を受け、あくまでM個人の会社として、定款案を作成したにすぎない。
 被告は、原告が、JACに関係する会社として、プロボクシングその他の格闘技等のマネジメント、興行、コンサルタンティング業等を営む合同会社(LLC)を設立するための定款案を作成したことが、被告と競合する別団体(JAC)を設立する行為と断定するが、この定款案作成が、いかなる意味でJAC設立の準備行為につながるのか全く不明である。
 被告自身も、原告が「JACに関する会社の定款案を作成した」と認定しているように、これはJACなる団体の定款案ではない。
 なぜこの定款案の作成がJACなる団体の設立準備行為と言えるのか、全く不明である。以下メール毎に原告の真意を説明する。

(2)
 乙30号証は、Jから、Mへの助言の依頼を受け作成。原告は、市場規模の小さいボクシング界で活躍するには、個人事業主では心もとないが、株式会社は運営に負担が大きいので、LLCという法人格をアドバイスした。J以外にも送信したのは、今後厳しくなるのであろうボクシング業界について考える上で参考にしてもらえればという程度である。このメールには、結局誰からも返信がなかった。原告は、この定款案がどのように活用されたか、また、JACと関係する団体の設立されたか否かについて知るところではない。

(3)
 乙31号証は、乙30号証のようなJを通じたMからの依頼に対し、定款案を作成、送信した。この時点で原告はMと面識がなかったが、参考資料として作成した。
 原告とMは上記のような関係だったので、依頼者のMの真意をよく知らないで作成していることがメールの文面から明らかである。(「一人会社です。複数で考えているようでしたら」)
 被告主張のようなJACに関連する事業会社のような重要な組織であれば、その後も綿密に打ち合わせ等を行うはずだが、LLCの件はこの乙30、31号証で完結しており、以後全く話題にもなっていない。Jら宛先人からの返信も一切ない。その後の活用、関係団体の設立の有無も知らない。


5. ウ.JACの収支予算を試算するなどして、被告とは別のコミッション及び会社の設立を具体化しようとしたとの指摘に対する反論

 被告は、乙32、34号証のメールを根拠に、この収支予算書はJACの収支予算書と断定するが、この収支予算書は、JACなる団体のものではない。
 そもそもこの予算書は、キックボクシングというプロボクシングとは競技性もファン層も全く違うスポーツの収支予算書につき、経理に詳しいLが依頼され、作成したものである。
 別のメール(乙27号証)でJAC設立に関心を持つと思われるMは送信先になく、Jも送信先にないことからも、先の定款案と無関係であることが明らかである。
 原告はメールのC.C.に加えられただけで、具体的に何ら関与していない。KがLに依頼したものであり、原告は関係していないし、読んでもいないし、返信もしていないし、助言を与えていないし、予算書に関する発言もしていない。


6. 被告がJACの設立準備行為の具体的事実として列挙するア、イ、ウの相互関係について

 ア乃至ウの事実は、それぞれ関連性のない全く別個独立の行為である。被告はそれらを勝手に繋ぎ合わせ虚構のストーリーを作り上げたにすぎない。
 被告は懲戒解雇事由の存在の立証責任を負うが、M、W、Jらの事情聴取も行わず、メールのみを根拠にした被告の主張は、懲戒解雇事由の存在を立証したものとは到底いえない。


7. 就業規則第55条第15号の適用について

 ア. 懲戒解雇という処分の重大性から鑑みると、同号「職務上の地位を利用して営利行為もしくは特定の第三者の利益にあたる行為をしたとき」とは、第54条では「虚偽の事項を報告し、被告に不利益をもたらしたとき」(5号)や「被告を誹謗中傷する目的をもって外部に対し告発をしたとき」(7号)でさえも減給または停職処分事由に留まることとの均衡からすると、単に職務上の地位を利用して営利行為を行ったのみでは足りず、「当該労働者が職務上の地位または権限を不正に利用して営利行為もしくは特定の第三者の利益にあたる行為を行い、その結果、実際に当該組織に具体的な重大な損害を与えたり、実際に当該組織の業務の正常な運営を阻害したとき」に限られるというべきである。
 
 イ. 被告は、原告らの送受信メールのみを根拠にし、原告が職務上の地位を利用し営利行為もしくは特定の第三者の利益に当たる行為をしたときに該当すると主張するが、原告らはこれらメールの送受信によって何ら実際に当該組織に具体的な重大な損害を与えたり、実際に当該組織の業務の正常な運営を阻害したりしておらず、実際に被告はそのような事態に陥っていない。原告らは、JACを設立しておらず、その意思もなかったのであるから、原告らにとってJACとはいかなる団体であるか知るところではない。それ故原告は被告に具体的で重大な損害を与えたり、実際に当該組織の正常な運営を阻害するような行為を何も行っていないといえる。
 以上のことから、原告の行為が就業規則第55条第15号に該当しないことは明らかである。



第3 情報の漏洩について

1. Lのメールで送信した情報は業務上の重大な秘密に当たらない。

(1)
 被告は、乙35乃至39号証のメールを根拠に、原告がL・Iと共謀して、被告の業務上の重大な秘密を谷漏らしたと断定しているが、Lがメールで送った情報は重大な秘密に当たらない。理由は以下のとおりである。

(2) 乙35号証 
 平成23年9月当時、ボクサーoについて、過去に頭部外傷を負い、被告から引退勧告を受けた経緯が判明。Lは、o選手に健康管理上の重大な問題があると判断し、同選手の所属のwのマネジメントに関する東京代理人を務めるKに対し、その経緯を説明したもので、ボクサーの安全管理を預かる被告の職員として当然の行動であって、業務上の秘密にあたるものではない。

(3) 乙36乃至39号証
 ボクサーの戦績をLがメールで送信したもの。ボクサー戦績は、元々対外的に公表される性質の情報であり、外部に流出されても被告は全くの損害が生じず、正常な業務の運営が阻害されていないのであるから、「業務上の重大な秘密を他に漏らしたとき」に該当しないことは明らかである。

(4)
 また、被告は、Lが行ったメールによるボクサー戦績、健康状態の送信が、「別組乃至会社設立すること」によって「被告の組織を弱体化させる」「被告内部の秩序を壊乱し」「ガバナンスを崩壊せしめ」「被告〔JACの誤りか〕と共謀すること」を「意図して行われた一連の行為」と位置づけているが、LのメールはJACなる団体と全く無関係のことである。
 この点につき、被告の主張は、被告のこじつけというほかない。

(5)
 そして、そもそも原告は乙37、38、39号証に関しては一切関与しておらず、情報開示に具体的な行動をとっていない。共謀者とされるIは、乙35号証において事務連絡をしたのみで、他は一切関与していない。

(6)
 以上のとおり、原告の行為が就業規則55条6号に該当しないことは明らかである。



第4 独断の行為について

1. 独断の行為には該当しないこと

(1)
 被告は、乙28、29、40~42号証メールを根拠に、これらメールがJAC設立後gと協調して事業を展開する準備行為としてgと通信・接触したと断定するが、何をもって準備行為といえるのか全く意味不明である。以下メールの真意である。

(2)
 そもそも被告に対してgが接触したいと電話連絡があったのではなく、日本政府観光局から、gから同観光局へ日本国内でのg会議開催希望の問い合わせがあり、こうした場合、日本のプロボクシングの管理団体である被告に連絡した方がよいかと問い合わせがあったのである。
 
(3)
 「Dに伝達せず」「Lがあたかも被告の窓口であるかのように装い」と指摘があるが、実際にはLは、平成23年12月28日、13:10頃、秋葉原「麹蔵」〔飲食店〕にて、Dに問い合わせ内容を報告し、Dから被告はgに加盟していないので協力できない旨の回答をするよう指示を受けている(甲28、反訳資料)。

(4)
 同日14:27、日本政府観光局y氏に「被告として対応できない」旨の電子メールを送信している。したがって報告の主張は事実無根である。

(5)
 以上のとおり被告の懲戒解雇事由は全く事実に反し、Lの行為は「著しく自己の権限を越えて、独断の行為があったととき」には当たらず、ましてメール発信者でない原告はなおのことである。



第5 被告内部秩序の壊乱について

 就業規則第55条18号に該当との主張は争う

1. 被告内部秩序の壊乱について

(1) 就業規則55号第11号「損害を与えたとき」には該当しない

ア. 
 JACなる団体は、実体的活動はおろか、設立すらされておらず、それ故、被告の業務に具体的な影響は生じておらず、実害が生じていないことは明らかである。よって「故意または重大な過失により被告に損害を与えたとき」(11号)に該当しない。

イ.
 別団体・会社の設立による、被告組織の弱体化、被告内部の秩序の壊乱、ガバナンス崩壊、事業における被告との競合を意図して行われた一連の行為とは、全く抽象的で、雇用関係における極刑というべき懲戒解雇処分の適用にあたって、きわめて不明確な事実認定というほかない。
  少なくとも、別組織乃至会社が株式会社、合同会社、財団法人、などのいずれにあたるのか、いかなる意味で被告組織を弱体化させるのか(引き抜きなどの人的資源を奪う)などについて、被告は全く客観的根拠にもとづいて立証できていない。

ウ.
 以上、被告主張の懲戒解雇事由もまた、意味するところが曖昧かつ不明であり、到底懲戒解雇事由とはなりえない。

(2) 「その他前各号に準ずる程度の行為があったとき」(18号)には該当しない。

 このような包括条項の規定の設定が許されるのは、就業規則上の懲戒解雇事由は労働者保護の観点から限定列挙と解される一方で、個々の職場の実情に応じて、予め類型化して規定することは難しいが、限定列挙事由と同程度の著しい職務規律違反と言うべき行為についても懲戒解雇事由とすべき必要が認められるからであることは先に述べたとおりである。
 かかる観点からすると、同条11号で「被告に損害を与えたとき」と現実に損害を与えた場合に限定して懲戒解雇事由としているのに、本件に同条18号の規定を適用することは、現実に損害が生じていない場合にまで拡張して適用するものに等しく、厳格な適用が求められる懲戒解雇の規定の適用として到底許されるものでないことは明らかである。
 以上のとおり、本件では、原告の行為により被告には全く損害が生じていないのであるから「被告に損害を与えたとき」(11号)「に準ずる程度の行為があったとき」(18号)に該当するとの解釈及び適用は不当なものであり、このような就業規則規定の誤った解釈及び適用による懲戒解雇処分は無効であることは明らかである。

■■■■

以上

by いやまじで

ある裁判記録 その8 ― 被告 準備書面3 ―

 この裁判は、原告が被告を訴えた民事裁判である。 
 訴状は原告により平成24年5月24日某地裁に提出され受理された。
 以下は被告準備書面3(平成24年11月13日提出)の要約である。

※〔 〕は要約者による注。
※ 準備書面とは、民事訴訟において原告・被告双方が、自らの主張と証拠となる事実を示すための書類である。実質的に裁判の進行状況を示す書類である。
※ 書証(証拠となる書類・写真・録音テープ等)は要約の対象外とした。

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被告 準備書面3(平成24年11月13日提出)

第1 被告は、人事権を行使して原告の本部事務局長職を解いたこと(降格)

1. 会長(代表理事)の権限について

 被告所定の寄付行為第29条は次のとおり定めている。

  第29条 法人の事務を処理するために本部事務局、地区事務局を設け、事務局長その他、必要な職員を置く。
・ 本部事務局、地区事務局は、会長が任命し、それ以外の職員は、当該事務局長が任命する。
 ・ 職員は有給とする。

 本部事務局長に対する人事権は会長(代表理事)にあり、会長は本部事務局長を解職する権限を有している。すなわち、 本部事務局長の解職は最終的には会長の裁量にもとづくものである。

2. 調査委員会の調査と理事会決議

 被告準備書面1「第2」記載の通り次の事実が存在する。
 ① 本件は平成23年4月18日告発文が全国のボクシングジム及び被告事務局に送付されたことに端を発し、原告の軽率な行動により被告の信用が大きく毀損されたこと。
 ② B理事が事態収拾に努めたが、事務局職員、試合役員会、aの原告への不信感が強く、奏功しなかったこと。
 ③ 同年5月10日通告書と連判状が被告に提出され、原告に関し、真実であれば明らかに懲戒解雇事由に相当する内容を含む各事実に関する告発がなされたこと。

 このため被告は、事務局職員、試合役員会、aなどプロボクシング関係者の被告に対する
不信感がこれ以上募らないようにしなければならなかった。
 そこで被告は、会長の人事権の行使の相当性が外部に明らかになる手続きが必要である
と判断し、上記告発に対する処分について理事会の審議を経ることにした

3. 原告の降格が人事権の行使の結果であること

 平成23年6月28日、被告理事会は、調査報告を受け、原告の事務局長職を解くことを審議し、出席者全員(利害関係者たる原告を除く)がこれに賛成した。そこで会長が人事権を行使し、調査報告、理事会決議、その、その他の事情を斟酌し、原告の事務局長職を解き、一般職員とすることに決した。



第2 原告に対する賃金減額が降格に伴う結果であること

1. 被告の賃金規定は月給制、基本給、諸手当(家族、通勤)、割増賃金(時間外、休日、深夜)から構成され、役職手当に関する規定はない。

2. 基本給は第3条「…総合的に勘案し、各人ごとに考慮して決定する」と規定するところ、会長が人事権に基づき同条の定めに従い、地位、職責など諸事項を総合的に勘案し●万円と決定した。

3. 事務局長を除く従業員給与の最高額は●万円であったので、それを超える分は便宜上役職手当と解され、会長の裁量で支給されていた。原告は事務局長でなくなったので●万円を賃金とすることは不合理(地位、職責などの諸事項)であり許されない。
 そこで賃金規定の第3条に基づき、かかる事情を勘案して、従業員給与の最高額である●万円とした。懲戒としての減額処分ではない。

■■■■

以上

by いやまじで

ある裁判記録 その7 ― 原告 準備書面3 ―

 この裁判は、原告が被告を訴えた民事裁判である。 
 訴状は原告により平成24年5月24日某地裁に提出され受理された。
 以下は原告準備書面3(平成24年11月13月提出)の要約である。

※〔 〕は要約者による注。
※ 準備書面とは、民事訴訟において原告・被告双方が、自らの主張と証拠となる事実を示すための書類である。実質的に裁判の進行状況を示すものである。
※ 書証(証拠となる書類・写真・録音テープ等)は要約の対象外とした。

■■■■

原告 準備書面3(平成24年11月13日提出)

 被告準備書面2に対して反論する。


第1 原告の降格処分の根拠について

1. 原告の降格処分の相当性を根拠付ける理由として、原告が被告事務局職員、試合役員会、aらからの信頼を失ったことを挙げている点について

 原告準備書面1で主張した通り、降格理由を示した書面は「ご報告」であり、「部下に対する接し方に行き過ぎが認められ、有給休暇を認めて然るべきところを判断を誤り欠勤扱いにし、不十分な説明に基づく雇用契約上の不利益変更を行ったことは、不相当と認めざるを得ないところ」等と記載されるのみである。
 被告が主張する被告事務局職員・試合役員26名が解任を求めることについては処分時には全く原告に示されておらず、後付けの理由である。被告は、答弁書でも、被告理事会は26名が解任を求めていることを根拠に不適任であると判断したと主張するが、議事録には、「調査結果に基づく事後の対応」としか記載されておらず、このことからも後付けの理由であることは明らかである。
 そもそも通告書〔試合役員及び事務局職員有志による調査報告書、以下同〕の調査の結果、通告書の主張には著しい論理の飛躍あるいは何を根拠にして主張するのか疑問が残るとされ、結果その大部分が事実と認められないという結論に至ったのに、通告書を提出した人物らからの信頼を失ったことを理由に原告を降格処分にするのは、全くの自己矛盾というほかない。

2. 賃金減額の根拠について

(1) 減額の根拠が、賃金規定第3条を挙げるのみで、懲戒処分にもとづく減額なのか、人事権による役職の降格なのか明確にされていない。

(2) 基本給の限度額は賃金規定に記載されておらず規則も存在しない。処分時の原告と原告以外の従業員基本給の差を役職手当と解し、約3割の基本給減額を行うことは人事権濫用であり、労働協約上到底許されるものではない。

(3) 被告は事務局長以外の基本給の限度額は●万円とするが、原告は事務局長就任前の時点で月●万円の給与を支給されており、このような被告の賃金に関する極めていい加減な事実認識からも、減給処分が合理的根拠に拠らず場当たり的になされたことがわかる。

(4) 被告は平成23年7月1日、C、Gと面談した際に、基本給●万とすることに原告が同意したと主張するが(被告準備書面1)事実に反する。原告は同日、Cから一方的に伝えられたにすぎない。同月中旬ごろ、C、Dが基本給●万とした「雇い入れ通知書兼雇用契約書を手渡し署名・捺印を求めたが、原告は、
 ①勤務地が本部事務局となっている点
 ②賃金減額の理由
 ③基本給●万の根拠
の説明を求めたところ、C・Dから明確な説明がなかったために、これを拒否し、署名できない旨伝えた。

(5) 被告準備書面2で、被告は、原告の給与を決定したのは代表理事の裁量によると主張したが、答弁書では、決定したのは原告自身であると主張している(答弁書7頁、10頁)。処分(平成23年6月28日)から一年以上経過しても明確な回答ができず、回答自体も変遷している被告の態度は、降格処分時の被告の降格事由を裏付ける根拠が薄弱であったことを示すものである。


第2 Eらが提出した書面(乙4、6、9~24号証)はいずれも全く内容虚偽のものである。

 被告は準備書面1で、各種書証をあげ降格処分の経緯について主張するが、原告準備書面2で主張のとおり、被告提出の上記書証は被告調査委員会で事実として認められないと判断された事実に関する証拠である。したがって本件降格処分とは何ら関係がないが、被告が上記書証の内容があたかも真実であるかのように主張しているため、念のためこれら各書証の内容がいずれも何ら根拠のない虚偽事実であることにつき、以下説明を加える。

1 Fらによる「被告に関する公益通報について」と題する書面(乙12号証)について

 同年5月31日、Fら職員は公益通報と称して各社マスコミに対し、原告について刑法上の「背任罪」に当たる行為があった旨の告発を行った。原告が大阪の飲食店で被告職員ら3名と会食、1万7180円を被告の経費で支払ったことを背任罪に該当するとした。
 しかし一般的な社会常識から、刑法上の背任罪に当たらず、被告調査委員会の調査によっても、「4名中3名が被告職員であって、~純粋に私的な飲食とは言えないうえ、~勘定科目の仕訳について原告は何ら指示していないのであるから、同人に不正行為は認められない」と結論付けられている。

2 Eらによる通告書について

 被告は通告書の事実が真実であれば、懲戒解雇事由に該当する内容を含むと主張するが、通告書の内容はEらが原告を被告から「追放」することを目的に、何ら裏付けのない虚偽の事実ばかりを列挙したものである。
 現に被告調査委員会の調査でも、不正行為はないとされた。主張には著しい論理の飛躍があり、何を根拠に主張するのか疑問が残るとされ、その内容の大部分について事実であると認められないと結論づけられている。

◆◆◆◆

※「調査報告書(乙46号証)〔被告調査委員会による調査報告書〕により不正行為はないとされた事項の一覧表」〔一部抜粋〕

・「原告に不正は認められない」
・「著しい論理の飛躍があると言わざるを得ない」
・「経費の不正使用は確認できなかった(平成21年1月1日~平成23年4月30日の間、経理のPCでデータを調べた結果)」
・「私的な交際を行ったとことを認定することはできない。」
・「論理の飛躍であって、何を根拠にして~主張するのか疑問の残るところである」
・「~問題は認められない」
・「~本件通告書の指摘には問題点を見出しがたい」
・「原告が私腹を肥やしとは認められない」

◆◆◆◆

3 2つの連判状について

(1) 連判状は、Eが何の根拠もなく原告が横領等の不正行為を行ったことを前提として、試合役員、被告職員から署名を集めたものである。

(2) 関西試合役員会による連判状も、Eが試合役員会会長の地位を利用して、(1)同様に集めたものである。このことは、被告関西事務局長のO(当時)が、r(関西試合役員会会長)が勝手なことをやるはずがない、と証言していることからして明らかである。

※ Eが原告を恫喝した5月12日の場面の反訳。

(3) 東京の連判状には「すべての疑いが晴らされない限り、原告を解任すること」と記載され、その後被告調査委員会により事実として認められないと結論付けられ、疑いは晴らされたのだから、連判状の署名は何ら意味をなさない。
 関西試合役員会の連判状も「諸問題に対する東京試合役員会の意見を全面的に支持する」とあるから、何ら意味のないものである。



第3 本件降格処分に関する被告の主張に対する反論

1 被告ホームページ上の理事一覧からの原告の名前の消去について

 被告は答弁書で、原告が平成6月28日付降格処分の際、自ら理事を辞任する旨表明したので、理事一覧から原告の名前を消去したが、被告が一般法人になり、原告も当座理事に留まることになったので、原告を再度理事一覧に登載した旨主張する。
 被告の主張は平成23年6~7月当時、原告が結局辞任届を提出せず理事に留まっていたことを明確に認識しながら、意図的にホーページ上の理事一覧から原告の名前を消去した事実を認めるものである。
 原告は同年6月27日、被告コミッショナーAから、理事をやめてもらうと一方的に通告を受けた状況下で、自ら理事辞任を表明しなければ解雇されるおそれがあると考え、やむなくマスコミの取材に表面上辞任の意向を表明した。しかし、Cから届けの提出を求められた際、元々辞任すべき理由がなかったため拒否。その後も被告は原告に理事解任の正当な理由がなかったことから、原告を解任できなかった。

2 被告本部事務所及びボクシング会場への立ち入り禁止について

 被告は「要請」したことはあるが禁止したわけではなく、立ち入ったとしても業務命令違反の対象とはならない旨主張する。
 これは詭弁である。「使用者」から「労働者」に対して指示がなされたのだから、業務命令以外の何ものでもない。被告の主張は、業務命令が一般常識に照らして余りに不合理で正当性を欠くものであることを、自ら認めるものである。

3 手続きの違法性

 被告は答弁書で「5%の減給1か月」「停職1か月」の処分の事実を否認している。
 しかし、被告提出の乙17号証3頁11行目「原告を5%減給とする~というよりも、決まったことだからやってくれという言い方」との記載から処分は明らかである。また平成23年5月16日付、B専務理事からa宛のコミッショナー示達の「停職1ヶ月」の記載からも明らかである。これに加えて三度の処分が重ねてなされたことは手続き的にきわめて重大な過誤があり、違法かつ無効である。

4 U新宿事務所への原告の配置転換の命令の無効について

(1) U新宿事務所での原告の勤務実態について
 ア 被告は原告に公益法人化の準備を担当させたのであり、配置は正当と主張する。しかし、配置転換は必要が全く無く、原告を退職に追いこむためのいやがらせ、報復目的であることは明らかである。
 イ 〔実態は訴状に述べたとおり。〕
 ウ この広さの事務所に朝から夕方まで誰とも会話を交わさない生活を強いて問題なしと主張すること自体、被告の人権意識の鈍麻と言わざるを得ない。
 エ 被告は、原告が3人に面識がないことは配置転換に伴い生じた事態であり、新宿事務所は用意しただけで、勤務を強いたという表現は不正確と主張する。
 しかし被告は原告の勤務地を変更し勤務を命じており、環境の変化は分かりきっている。
 Uの職員にとっても全く異業種の人間と隣り合わせで仕事をするのは戸惑いが生じ、原告に奇異の視線を向けることは当然生じうる。被告はそれを認識した上で、原告を職場にいたたまれなくさせ、退職に追い込むという不当な目的をもって、あえて新宿事務所勤務を命じたのである。

(2) U新宿事務所では原告に勤務させる業務の必要性は全く無い
 ア 被告は答弁書で、被告は原告に公益認定申請の業務を命じ、一般法人化に方針決定(平成24年2月28日)後も将来の公益財団法人化を目指すことから準備を担当させたと主張する。
 イ しかし訴状にあるとおり、
 ・実際にはY弁護士に依頼していた。
 ・原告が行ったのは定款案作成及びY弁護士との打ち合わせのみ(定款は事務局長の時にすでに検討を初めており、2、3日で完成する程度。Y弁護士との打ち合わせは平成23年6月29日から平成24年6月15日の一年間に2回)である。
 原告は上記の仕事外何もすることがなく、ただ座っていることを強いられた。
 ウ 原告は一般法人化への理事会の決定(平成24年2月28日)も知らされなかった。被告は業務を与えながら実際には原告を担当者と考えていなかったのである。
 エ 公益申請に関する業務を担当させていれば、本部事務局の担当職員らとも十分打ち合わせが必要で、本部事務局で仕事をする必要があり、Uで仕事をする業務上の必要性は全くない。
 オ Uは、Cが代表取締役であった会社と聞く。このことから被告が原告を隔離・孤立させるため、被告の意をきいてもらえる会社に原告を押し込んだことは容易に想像される。
 
(3) 小括

・業務上の必要性のないこと
・配置転換は人事権の濫用であり、それゆえ違法かつ無効である。
・原告を自主退職に追いこむためのいやがらせであり、報復目的によるきわめて悪質性の高い違法な命令である。

5 「特命事項」担当について

・被告は答弁書で、被告が原告を全業務から排除したとの事実を否認し、定款等規定類の整備を「特命事項」として担当させたと主張する。
 しかし、被告は原告に3月13日付示達をメールで送付したのみで、特命事項の具体的内容を説明すべきところ一切説明していない。被告は原告に対して「特に業務については指示する必要はなかった」と主張するが、被告が何の業務も与えなかったことは、被告が原告の全業務からの排除の意図を有していたことを自認するものである。

6 メーリングリストからの除外について

 被告は答弁書で、
 ①メーリングリストは職員が業務円滑化のために自発的に作成したもので、
 ②D事務局長がアドレス掲載について命令する筋合いのものでなく、
 ③原告はL、Iとメールのやりとりをしているのであるから、
 原告が業務の情報を与えられず関与できない状態が続いたということはないと主張する。
 しかしこの主張は、原告のみがリストから除外され、逆にL、Iのメールがなければ通常業務に関する情報が何も与えられず関与できない状況にあったことを認めるものである。
 L、Iは同僚として適宜必要な情報を伝えたに過ぎず、被告が原告を極めて異常な職場環境に置いたことを正当化する事情にはならない。

7 ミーティングからの除外について

 被告は答弁書で、被告が原告にミーティング参加を命じないのは、担当業務の性質上必要なかったからで、除外したわけではないと主張する。
 しかし、このような主張は、被告が原告にミーティング参加を命じていなかったこと、および、被告が原告に一年間何ら意味ある業務を与えていなかったことを自認するものである。
 公益申請業務を担当させていたとしたら、打ち合わせが必要で、ミーティング参加も必要なはずである。1年間に一度もミーティング参加を不要とする被告の主張は、被告が原告を公益申請業務担当者として考えていなかったことを示すものである。



第4 被告が原告に対する降格処分等を強行した背景事情について

 被告は乙4~6号証、乙9~24号証を提出し「被告が原告を降格処分とした経緯等」について主張するが、準備書面2で主張したとおり、上記書証は、被告調査委員会の調査で事実とは認められないと結論付けられた事実に関するもので、降格処分には何ら関係がないと判断された事実に関する証拠である。ゆえに、詳細な認否は不要だが、念のため、上記書面が作成された経緯を含む本件紛争の背景事情について、以下説明を加える。

1 はじめに

 本件降格処分及び配転命令(平成23年6月)、懲戒解雇(平成24年6月)に至る一連の出来事

 tボクシング(部)の先輩後輩として親しい関係にある現被告本部事務局長「次長」Eと、現事務局「主任」Fが共謀して、周到な計画の上、原告を被告から追放を図った、いわばクーデターである。
 当初、元職員のT、Vも加担したが、平成24年3月13日にEが「次長」、Fが「主任」昇進後は、両名が被告の実権を握ったことに嫌気が差し、6月15日に自主退職している。
 E、Fは原告を降格、ついには懲戒解雇させ、原告の完全追放に成功する。
 原告と親しい関係にあると見なした職員、L、I、元関西職員Jの3名も次々と解雇された(平成24年4~6月)。6月15日にT、Vが自主退職。全職員14名のうち6名が退職に追い込まれるという極めて異常な事態となる。

2 E、F、及びDらの関係

(1) Eについて
 ア t卒。レフェリー。平成24年3月職員採用までに、東京試合役員会の会長を務める。53歳。
 イ tボクシング部時代、Dがコーチ、Fは後輩に当たる。 
 ウ 平成24年3月13日、本部事務局の「次長」に就任。

(2) D
 ア 昭和34年ボクサー、昭和39年レフェリー、77歳。
 イ 平成18年、被告理事に就任。
 ウ Eのコーチ、仲人であり、公私に渡り親しい。
 エ 平成23年6月20日、事務局長代行に就任、同年6月28日事務局長に就任した。

(3)F
 ア t卒。リングアナ、平成10年被告職員に採用される。50歳。
 イ tボクシング部に在籍。
 ウ 平成24年3月13日、コミッショナー示達により被告本部事務局「主任」に就任。

(4)V
 ア 大学卒業後、平成19年、被告職員に採用される。30歳。 
 イ 平成24年6月15日、自主退職。

(5)T
 ア 大学卒業後、平成19年被告職員に採用される。52歳。
 イ 平成24年6月15日、自主退職。

3 被告が原告に降格処分を強行した事情背景
 
(1)怪文書の送付

 平成23年4月18日に怪文書が全国のボクシングジムと被告事務局に送られた。

(2)「5%減給1か月」

 4月26日にFら職員が処分が「軽い」と反発。被告が撤回。

(3)Eらが通告書、連判状を提出

 ア Eが会長を務めるJBC東京試合役員会及び本部事務局職員合同調査委員会と称する者らが、5月10日に通告書を被告に提出、原告の不正行為を報告した。また連判状を提出して、被告に原告の解任を求めた。
 イ 通告書の内容は大部分が虚偽である。
 例:①Iの有給休暇と原告の関西出張の重複がひんぱんにあったとするが、実際には1日のみであった。
 ②Z関連会社のuから原告の口座に毎月20万円の入金があったとするが、uの帳簿を調べると当該事実は認められなかった。
 他にも裏付けのない事実ばかりを列挙した。
 ウ 連判状は、Eが虚偽事実を前提に署名を集めたものである。また試合役員26名中20名とあるが、実際には試合役員は45名である。
 さらに連判状には、「上記の調査により、全て疑いが晴らされない限り、原告事務局長を解任すること」と記載されるが、調査委員会の報告書で全ての疑いは晴らされたのだから、連判状の署名は何ら意味のないものである。

(4) 原告に対する「停職1か月」の処分

 被告はBを中心に内部調査を行った(6回)。経費の不正流用は認められなかった(平成23年5月16日付、Bからのa宛文書による)。それにもかかわらず被告は5月10日、原告に対し「自覚を欠いた行動により周囲の方々に誤解を与え、今回のような重大な事態を招いたこと」に重い責任があるとして「停職1か月」(5月10日~)の処分を下した(平成23年5月16日付、Bからのa宛文書による)。
 被告は準備書面1の7頁で、原告に「休職」を命じたと主張するが、上の文書中のコミッショナー示達には「停職」と記載されている。懲戒処分としての「停職」であることは明らかである。

(5) Eの原告に対する退職の強要
 5月12日にBがEに、5月16日示達の内容及び通告書の内容を、調査委員会を設置し調査することを説明するために招集した会議で、関西事務局長及び西部事務局長他も同席する中、Eは原告に対して下記のような乱暴な物言いで、原告があたかも背任や横領を行ったかのように発言し、原告を恫喝して、直ちに退職することを強要した。

◆◆◆◆
(録音テープ反訳)

「はっきりしてくれ、これ以上、(テーブルを叩きながら)男の出処進退を、お前、ここまで、どうすんだよ、お前。二度と言わないぞ。今なら、お前まだ立ち直れ得るよ。これが出たらわかんないよ。俺(オラ)ぁ、ほんとB専務理事には、悪い、今日、ほんとうに協力しようと思ってたけど、お前が決めろ。」
────────────────
「そうじゃねえよ、自分自身で決めろつってんだよぉ。」
────────────────
「だから、自分で決めろ。そうしなかったら、コミッションは終わるぞ。頼むよ。」
────────────────
「これを誰も受け付けなかったらどうするよ。明日から試合できなかったらどうすんだよ。これはあくまでも、(テーブルを叩きながら)君の背任や横領を、これから示唆しようとしてるもんだぞ。つまらないことで、これ以上もまた、傷を深くすんのか。」
────────────────
「そこまで生き延びたいか。」

◆◆◆◆

(6)「公正な調査を求める申し入れ」と題する書面の提出

 5月17日、B専務理事が、個人的な調査では原告の不正行為は見つからなかったと発言。これがマスコミで報道されると、Eは19日、被告に対し「公正な調査を求める申し入れ」と称する書面を提出し、被告の許可を得ずに単独でマスコミ向けの記者会見を開き、Bの発言を「きわめて不適当」であるとして批判した。

(7) Fらによる「公益通報」と称する不当な告発

 5月31日、職員Fらは、公益通報と称して、各社マスコミに、原告の刑法上の「背任罪」に当たる行為があった旨の告発を行った。
 しかし、この告発で指摘した経費支出の問題は、上述の通り、一般的な社会常識から見て、到底刑法上の背任罪に当たらないのは勿論、調査委員会の調査によっても「不正行為は認められない」と結論付けられている。

(8) 「被告試合役員会が原告事務局長の解任を求める公益通報職員を指示〔「支持」の誤りか〕する意見を表明」と題する書面を公表。

 同日Eは、被告調査委員会事務局が不正経理問題について「金額が少ない」、「この程度は事務局長の裁量の範囲内」等と発言したことを知るや、上記書面を公表し、Fらの告発を支持する旨を表明し、改めて原告の解任を強く求めた。

(9) Eによる「原告事務局長問題に関する意見について」と題する書面の提出

 同年6月2日、Eはさらに上の書面を提出。Fの告発を支持し、原告事務局長解任を求めた。
 なお、上記書面は個人名義ではなく、東京試合役員会長の肩書き付きである。本件クーデターの首謀者である同人はともかく、一般的社会常識をもつ試合役員が、1万7180円の経費支出を殊更に問題にし、刑法上の背任に当たり事務局長解任の事由に当たるとする上記公益通報の告発を、本心から支持していたとは到底考え難い。むしろ原告を解任すべく異常なまでの執念を持っていたEが、試合役員会長の地位を利用して、他の試合役員を煽動して同調させたものと見るのが自然である。

(10) 原告の暫定的な職務変更

 6月10日、被告は原告対し、6月28日理事会で予定されていた調査委員会の調査報告を待たず、本部事務局長から「専務理事付事務局長代行補佐」へ降格させる暫定的な職務変更を命じた。
 
(11) Dによる原告の解任要求 

6月24日、DはZ本社において、被告代表専務理事A、G弁護士及びB専務理事に対して、「私は原告の▲▲ネタを持っている。彼を辞めさせなければぶちまける」と言って、原告の解任を強く要求した。

(12) Dの本部事務局長代行への就任。
  6月20日。

(13)「中間答申及び示達に対する公開質問状」の提出
6月13日、Eは被告に、上記書面を提出。質問の形を借り、執拗に原告が不正行為を行
っている旨の主張を繰り返した。

(14)Dを中心とする新団体設立の公表

 6月23日、Dは、E及びFと共謀の上、マスコミ向けの記者会見を開き、被告に代わりプロボクシングの試合管理を行う新団体を設立する意向を表明。他方、被告と歩み寄るには事務局長補佐として留まっている原告の「追放」が絶対条件になると述べた(平成23年6月24日付朝日新聞記事による)。またDは、24日に記者会見で、原告について6月28日理事会で「追放処分」が下されれば新団体を設立しないことを示唆(同年6月25日付朝日新聞記事による)。Eも同席し、レフェリー、リングアナの大半も新団体に移ると明言(同年6月24日付朝日新聞記事による)。

(15) aによる新団体設立を支持する旨の方針決定

 同日、aは、「暫定的な試合管理団体について」と題する書面を公表し、被告内部の混乱の短期収束の見通しが立たないことから、Dを中心とする新団体の設立を支持する旨を決議した(朝日新聞記事等による)。

(16) Eによる試合役員宛の新団体設立に関する書面の作成及び送信

 aの「暫定的な試合管理団体について」の書面公表を受け、Eはこれを利用し、原告を被告から排除する動きを強めるため、試合役員各位宛に下記内容の書面を送信した。

 ①D中心に被告職員を雇用、被告試合役員を受け入れる新組織団体を設立する。
 ②新組織は6月28日被告理事会開催を待たずに設立する予定。
 ③上記①②をaから被告コミッショナーA宛に申し入れること。
 ④ただし、今後、被告コミッショナーAより原告及びBの排除を条件に、被告体制堅持の要請があれば、現行の被告の体制維持について検討すること。
 ⑤新組織の設立に備え、試合役員は被告ライセンスを返上する準備をするようaは要請していること。

 E作成の上記書面には、aの書面にはない「原告及びB専務理事の排除」に関する事項が記載されていることから、Eがaの動きに乗じて試合役員会長の立場を利用し、原告を被告から排除する方針へと各試合役員を煽動していことがわかる。
 なお、上記書面は試合役員のEから各試合役員に宛てたものだが、照会先は試合役員ではない「F」とされていることから、今回のクーデターの首謀者がEとFであることは明らかである。

4 小括

(1) Eは、平成23年5月以降、原告の解任を求めるために執拗に5度に渡り、原告の不正行為という虚偽の事実を記載した書面を提出し、また被告が原告を解任しない場合は、新組織団体を設立し、試合役員全員が移ることを明言。これを盾に、被告に強硬に、原告を被告から「追放」することを迫った。
  被告は、Eによる試合役員の大量離脱を伴う新組織設立を盾にした申し入れに屈する形で、原告に対する降格処分等を強行した。
  なお、被告は処分後も、さらに原告の被告内での影響力を削ぐために、同年7月14日、被告が原告と親しいと見なした関西のJ(平成23年5月入所)に突如解雇処分を言い渡した。Jが理由がないとして無効を主張するや、被告は解雇の不当を認め、解雇を撤回した。

(2) 被告が原告に降格処分等を行ったのは、過度に組織防衛を優先し、新団体設立を盾とした理不尽な要求を受け入れたためであり、そもそも原告を降格させるべき正当な理由は存在しなかった。したがって降格処分は実質的な処分理由を欠くものであるから、当然に無効である。
  そして配転命令及び業務命令は無効である。
  降格処分に伴い発せられ、かつ、原告の名誉権及び人格権を侵害し、職場内外で孤立させ、労働意欲を失わせ、やがては自主的に退職に追い込む、不当な動機・目的のためになされたものであるから、使用者に許された裁量権の範囲を逸脱し無効である。
  さらに、原告に対する解雇処分も、上記のとおり、平成23年6月当時から原告を被告から「追放」する固い意志を有していたE、F及びDが、原告を懲戒解雇するために、「JAC」なる団体の設立準備などという虚偽の事実を作り上げて、強行したものであるから、当然に無効である。

◆◆◆◆

※ 添付資料「〔被告調査委員会作成の〕調査報告書により不正行為はないとされた事項の一覧表」

(例)関西事務局の女性職員について
(ⅰ)
(通告書〔試合役員及び職員有志作成の調査報告書。以下同。〕)
…原告の足取りが不明。××の自宅に宿泊した可能性が否定できない。
→(ご報告〔被告調査委員会作成の調査報告書。以下同。〕)
…その日のうちに帰宅。日帰り運賃請求。証拠に基づかない憶測。

(ⅱ)
(通告書)…某職員の採用は不適切。
→(ご報告)…O〔関西事務局長〕主導の採用であり、原告に不正は認められない。

(ⅲ)
(通告書)…4月5日~8日のSの勤務実態は新規採用職員として常軌を逸している。
→(ご報告)…Oの許可を得ている。

(ⅳ)
(通告書)…4月14日にSにいかなる業務があったのか事情聴取する必要がある。
→(ご報告)…自動車運転免許更新をしている。

■■■■

以上

by いやまじで

ある裁判記録 その6 ―被告 準備書面2 ―

この裁判は、原告が被告を訴えた民事裁判である。 
訴状は原告により平成24年5月24日某地裁に提出され受理された。
以下は被告準備書面2(平成24年10月2日提出)の要約である。

※〔 〕は要約者による注。
※ 準備書面とは、民事訴訟において原告・被告双方が、自らの主張と証拠となる事実を示すための書類である。実質的に裁判の進行状況を示す書類である。
※ 書証(証拠となる書類・写真・録音テープ等)は要約の対象外とした。

■■■■

被告 準備書面2(平成24年10月2日提出)

原告準備書面(1)に対して

第1 「第1 求釈明」について
1. 第1項について
 被告は準備書面(1)第10頁以下で降格の経緯を説明。原告も異議なく受け入れたので、それ以上の釈明の必要を認めない。

2. 第2項について
 基本給は就業規則の賃金規定第3条に基づき決めた。役職手当は規定にはない。降格後は会長の裁量で従業員給与の最高額に当たる額にした。

第2 「原告の求釈明に対する被告の回答に対する反論」に対して
1. 第1項について
 否認する。
 被告提出の書証乙9-24は原告が職員・試合役員会、aから信頼を失ったこと、降格処分の相当性を証明するものである。
 被告は調査報告書を提出する。

2. 2項について
 争う。
 被告は理事会議事録を提出する。

■■■■

以上

Byいやまじで