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HARD BLOW !

秋のボクシング紀行 ユーリ阿久井政悟VSジェイセバー・アブシードin総社

  『地方興行レポート』というと上から目線に感じられる向きもあるかも知れませんが、他意はございませんので誤解なきように。むしろ首都圏や関西も集客の苦戦が続く日本のプロボクシング興行は地域密着こそ肝だと私考えております。

 今回は日帰りで岡山県の総社市まで倉敷守安ジムのホープ阿久井政悟選手(戦績はこちらから)がWBAアジア王者にして世界ランカーのジェイセバー・アブシードに挑むチャレンジマッチを観戦してきました。2015年度全日本ライトフライ級新人王の阿久井は序盤KOの多いハードパンチャー。練習環境や興行事情など、なにかとハンデの多い地方ジム所属のホープが世界ランクを掴もうと挑んだ意欲的なマッチメイクであります。

 9時頃高速バスで大阪を出て正午には岡山駅に。試合のある総社まではローカル線に乗って30分ほどです。
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 総社といえば昭和40年代生まれの私にとっては、角川映画の「悪魔の手毬唄」でお馴染みの町でございます。ディーゼル車の車窓から里の秋の風景を楽しむことが出来ました。
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 総社駅からはタクシーに乗車しましたが、運転手さんは世界ランカーとの試合と言うことをご存知でした。結構周知されているようであります。

 試合の舞台となるサントピアは元々社会保険庁がやっていた厚生年金休暇センターという施設が前身で、広大な敷地内にホテルやテニスやフットサルが出来るコートも備えています。迷路のような館内を案内のままに進むと、本格的なホールが出現。昭和遺産と言う感じであります。

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 施設の巨大さに比べると集客は少し寂しく感じます。とはいえ会場では馴染みの観戦仲間や現役選手・元選手と何人も出会いました。メインカードに対する関心はなかなか高いといえそうです。

 アンダーカードで一つ気になったのは4回戦で2-1と判定が割れた試合。勝者につけた二人はフルマークと言う採点で、私にとっても「なんでこれでスプリットになるの?」と言う印象。敗者につけたジャッジには大変疑問を感じました。4回戦でここまで採点が割れると、採点基準への信頼がなくなると思います。

 その後物凄く淡々とした進行で休憩も無くメインを迎えたのですが、集客は正直少し寂しい感じ。地方都市で車がないと来れない会場と言うことを考えれば仕方ないのかも知れませんが、選手はリスクをとっているし、陣営とて経費を使って世界ランカーを呼んでいるのに勿体無いなと感じました。

 WBA11位にランクされているアブシードは昨年ミニマム級で小浦翼選手(WBC2位)にKO負けしていますが、フライ級に上げて世界ランカーを撃破する殊勲を上げて再浮上。阿久井と同じ23歳でKO率も高く侮れない相手です(ジェイセバー・アブシード選手の戦績)。

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リングインした阿久井選手と守安会長
 一方の阿久井は、今年四月に中日本のホープ矢吹正道とのサバイバルマッチを制すると、世界ランカーとの試合に備えて積極的に関東や関西に出稽古を重ねて来ました。地方ジムの選手は、スパーリングパートナーを探すのも都市部に比べれば大変です。まして今回の相手は阿久井が唯一敗れている中谷潤人選手(WBC4位)と同じサウスポー。千里馬神戸ジムでのスパーリングの際に少しお話を聞いたときは「出稽古にはなれているし、自分の環境の中で出来ることをやるだけ」と淡々と答えてくれましたが、果たして成果はいかに?

 序盤からアブシードは積極的に手数を出し、パワーパンチを振るってきます。阿久井は圧力もかけれているし左ボディが有効ですがやや手数が少なく、打ち終わりを狙われた被弾も多い。アブシードはボディが効いているそぶりは見せるのですが、被弾すれば必ずそれ以上のパンチを返してポイントも拮抗。手数を見ればアブシード勝ちにつけているジャッジがいてもおかしくない互角の展開が続きます。
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 試合が動いたのは7回、アブシードの左ストレートがヒットして阿久井がダウン。

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 このダウンはそこまで効いている感じは無かったですが、再開後に左フックがジャストミートしてまたも阿久井ダウン。これはかなり効いたダウンでした。このまま試合を決めようとアブシードは猛ラッシュ。阿久井は防戦一方でラウンドを流すのがやっと。

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 レフェリーが何度も顔を覗き込んでダメージを確認しますが、なりふり構わずクリンチでしのいでなんとかゴングまで耐えた阿久井。とはいえダメージは明白で、さすがに回復は無理なのでは?と思わせる疲労振り。次のラウンドで終わってしまうのか?

 ところがなんと、7R開始直後にロープ際での阿久井の乾坤一擲の右アッパーでアブシードの頭が大きく跳ね上がって、一気に形勢逆転。今度は阿久井が猛ラッシュでアブシードは防戦一方。残り時間は2分以上。阿久井は逆転KOのチャンス!会場の地元ファンも大声援を送って阿久井の背中を押す。

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 アブシードはコーナーに詰まって反撃出来ず、何度か体も流れてダウン寸前。ここで一発良いのが入れば試合が決まる!という場面が続くが阿久井も打ち疲れたか?一方的展開ながら決め手を欠いて惜しくもラウンド終了。深刻なダメージをものともしない阿久井の超人的な大攻勢で会場は大盛り上がり。一方青コーナーではフィリピン人セコンドが意識が遠のいたアブシードに張り手打ちをして気合を入れるという異様な雰囲気に。

 両者ともダメージはあるが、残り3ラウンドどうなるか?と思わせましたが、8Rすでに阿久井には余力は無く、今度は急激に回復したアブシードが阿久井を攻め立てて、阿久井の体が流れたところでレフェリーが試合をストップ。判断に迷う場面が多い難しい試合でしたが、試合全体で公平なレフェリングが光りました。

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 7Rに阿久井選手が逆転KOで試合を決めていれば伝説的な一戦になったと思いますが、これが勝負の厳しさ。とはいえKO負け寸前からあわやの場面を作った驚異的な回復力と強靭なメンタルは大変印象的でした。一方敵地で気持ちを切らさず勝ちきったアブシードもお見事。若武者同士の気持ちがぶつかった素晴らしい一戦でした。

 試合後、阿久井選手は自身のツイッターで1Rに右腕を痛めていたことを告白していましたが、万全な状態で再起して欲しいと思います。7Rの右アッパーは本当に勝負をかけたパンチだったんだなあ。

 とはいえ、折角の熱戦だったのにテレビ中継も無く、試合写真つきの報道も無く、私には『本当に勿体無い』としか言えません。ネットを活用して試合の映像を流したりする工夫がなければ、選手は文字情報だけで判断されてしまうだけです。好試合が見られないのはファンにとっても不幸なことです。ほんとボクシング界もうちょっとなんとかならんのでしょうか?当事者の自助努力だけではなんともならんと思います。

 12月の興行集中はなんとかならんのか?と感じる(旧徳山と長谷川が好きです)

 

全ては山口賢一から始まった 映画「破天荒ボクサー」初日レポート

久々の更新であります。コメントの反映も遅くなり申し訳ありません。

破天荒 1_R
破天荒2_R


本日は当ブログでもすっかりお馴染み、日本ボクシング界の革命児にして改革者である山口賢一氏(以下ヤマケンさん)のドキュメンタリー映画「破天荒ボクサー」の公開初日でありました。

ヤマケンさんと当ブログのお付き合いもなんだかんだで4年弱。バイタリティに溢れいつでも新しいことにチャレンジをしている彼は、常に話題を提供してくれます。

山口賢一についての過去記事はこちらから
          ↓
インタビューでは独特の感性でボクシング界を渡ってきた波乱のキャリアと様々な爆笑のエピソードを伺い
イズム全開 山口賢一インタビュー&スパーリングレポートPart1                         
イズム全開 山口賢一インタビュー&スパーリングレポートPart2 
イズム全開 山口賢一インタビュー&スパーリングレポートpart3
イズム全開 山口賢一インタビュー&スパーリングレポートpart4
イズム全開 山口賢一インタビュー&スパーリングレポートpart5 完結編

レジェンドボクサー、ギジェルモ・リゴンドーともまさかの邂逅
レジェンドが来た!ギレルモ・リゴンドー接近遭遇レポートin大阪天神ジム

日本未公認のWBFタイトルマッチの波乱に満ちた顛末
日本ボクシング界の風雲児 山口賢一選手が来週大阪でWBFタイトルマッチ!
『先駆者 山口賢一』 WBFタイトルマッチの意義
本邦初!WBFタイトルマッチリポート 山口賢一VS小林健太郎
WBFタイトルマッチの余波色々 西日本協会は緊急理事会を召集し引き締め&組織防衛!

そして日本ではタブーとされていたプロボクシング自主興行
JBCだけがプロボクシングにあらず 5.3観戦記
JBCだけがボクシングにあらず 11/5 WBFアジアタイトルマッチ

まさに『ヤマケンの動くところ事件あり』であります。

現在はジムオーナー兼マネージャーとして多くの日本人ボクサーを育成しアジアに送り出しながら、プロモーターとして自前の興行もこなし、愛知県の高校でボクシング部のコーチもしつつ映画まで作ってしまったヤマケンさん。

本日公開された武田倫和監督「破天荒ボクサー」( →公式サイト)はそんなヤマケンさんの目まぐるしい日常に密着したドキュメンタリー作品であり、クライマックスは2016年のWBFタイトルマッチになっています。そこにたどり着くまでの紆余曲折や、日本のプロボクシングが抱える問題点、ファンにはなかなか窺い知れないプロボクサーの行動原理などが良く分かる作品となっています。

映画『破天荒ボクサー』予告編動画
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公開初日の劇場は補助イスと立ち見も出る盛況で、入場できなかった人も出たそうです。

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上映後は舞台挨拶とトークもあり、東京五輪を目指す高山勝成選手も登場。客席から中出博啓トレーナーもマイクを握ってコメントしました。

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映画タイトルには「破天荒」とありますが、自分にとってヤマケンさんは海外に飛び出してメジャー4団体加盟を促進し、閉鎖的なクラブ制度の非合理性を行動で指摘し、プロ選手の五輪参加への道筋をつけた理論と行動のバランスのとれた実践家でもあります。そして義理堅く、細やかで人間味がある人でもあります。山口賢一の魅力が映画を通して伝わることを祈っております。

来週末は岡山に遠征する(旧徳山と長谷川が好きです)

風雲!山根体制落城でどうなる日本ボクシング連盟

 あっという間の出来事でした。

 昨年来当ブログでもしつこくお伝えしてきた、日本ボクシング連盟(以下日連)の内部抗争ですが(過去記事はこちらから→お中元企画 日本ボクシング連盟記事詰め合わせ)、毎日新聞がオリンピック選手への助成金をめぐる疑惑を報じる記事が発火点となり一気に炎上。その後10日ほどニュースやワイドショーを席巻することになりました。
               ↓
 リオ五輪 ボクシング助し成金流用 連盟、対象外選手に分配

 ビートたけしさんがフライデー事件を振り返って「鉄砲でシラサギを撃ったと思ったら特別記念物のトキに当たっちゃったようなもの」と評したことがありましたが、当方としても「ここまでおおごとになるとは...」と呆気にとられるばかりでした。

 テレビをつければ何度もインタビューした澤谷廣典氏がいつもの調子で「オンドレコラ」と山根会長のドスの利いたトークを迫真のモノマネで再現していたかと思えば、インターハイの会場は報道のカメラで一杯で「控え室にカンロ飴があるのかないのか?」なんてやってて大騒ぎ。そのうち山根元会長ご本人が報道の前に降臨し、「自分で説明すれば説得できる」という目論見が完全に裏目に出る独演会を生放送で披露して見事自爆。その後またも毎日新聞の報道で山根会長と暴力団組長との長年の交際が明るみに出て(→会長、組長と交友 19年前、連盟理事時代)、磐石に見えた山根体制は僅か2週間で崩壊しました。

 報道洪水のドサクサで捏造ライター片岡亮氏がなぜかワイドショーに出ずっぱりになるという珍現象まで発生。まるで国際経営コンサルタントのショーン・Kさんや元警視庁刑事の北芝健さんのような人気ぶりでした。テレビの身体検査ってどうなってるんでしょうかね?

 陰気な記事ばっかりでろくに更新もしてない当ブログのアクセスも急激に増え、昨年来の地道な活動が少しだけ報われた気分になりました。当時は周りの人にも「なんのメリットもないから関わらない方がいいよ」って反対されたなあ~。その後ネットメデイアのTABLOさんにも体験談をもとにした記事を掲載して頂きました(総力取材・アマチュアボクシング界激震 日本ボクシング連盟・山根明会長を追い落としたのは誰か――!)。

 昨年来、アマ関係者と連携しながら告発のお手伝いをしてきた当方としては喜ばしいことではあるのですが、新体制つくりはむしろこれからが本番。東京五輪へのタイムリミットも刻々と迫っています。そして当ブログとは6年のお付き合いになる高山勝成選手のアマ資格が認められるのか?という懸案もこれから議論が始まる段階。民主的な体制で組織を刷新し、若者が夢を持って飛び込める世界になって欲しいと切に願っております。

 世の中に人は山根会長に飽きて新しいオモチャに関心を移して行くと思いますが、当方は今後もしつこく顛末を伝えるとともに、折角出来たご縁ですのでアマチュアボクシング関連の情報も発信していこうと思っております。

木村×田中が楽しみな(旧徳山と長谷川が好きです)

お中元企画 日本ボクシング連盟記事詰め合わせ

当ブログの日本ボクシング連盟についての過去記事を時系列順に並べてときます。全部読めば飲み屋で事情通ぽくふるまえます(笑)。内容や画像をパクるときは引用元を明記してください。

2017年8月26日 日本ボクシング連盟激震の内幕 澤谷廣典氏インタビュー

2017年8月29日 日本ボクシング連盟激震の内幕 澤谷廣典氏インタビューPART2

2017年9月3日 なぜ隔年開催?「国体第三期実施競技選定 評価結果」に見るアマチュアボクシングをとりまく危機的状況

2017年9月12日 AIBA世界選手権 日本代表チーム瀬部勉監督の謎

2017年10月1日 AIBA公認グローブの怪 杉スポーツの謎

2018年4月26日 相撲、レスリングだけじゃない!『日本ボクシング連盟問題』再び 澤谷廣典インタビュー

2018年5月17日 トップ主導の不当判定は存在するのか?!『日本ボクシング連盟問題』再び 澤谷廣典インタビュー

2018年6月12日 山根明会長に退任要求!どうなる日本ボクシング連盟

炎上ネタ、ワイドショーネタとして消費せず末永いお付き合いをよろしくお願いします。

村木田一歩先生から『業界の淀み』というありがたい異名を頂いた(旧徳山と長谷川が好きです)

読者投稿  『試合に負けて、勝負に勝つ。 斉藤司選手裁判、千葉地裁判決の真相』

はじめに

 今回は読者からの投稿記事を掲載します。

 本ブログとも関係の深い斉藤司選手。2008年度全日本フェザー級新人王にしてMVPとなり華々しいスタートを切った斉藤選手ですが、2015年末以来二年半以上試合から遠ざかっています。彼が試合が出来なかったのは、所属していた三谷大和ジムとのトラブルが原因でした。斉藤選手は他ジムへの移籍を容認することや、自身があると主張する未払いのファイトマネーを求めて三谷大和ジムを提訴し民事裁判を闘って来ました。

 その裁判の判決が、先週千葉地方裁判所で下され、判決で斉藤選手の請求は全て棄却され敗訴となりました。多大な労力と長い時間をかけた裁判闘争は一見すると苦い結末を迎えたように見えます。ですが『原告の請求を全面棄却する』という主文から続く判決文の本文には、日本のボクシング界の商習慣の根幹を揺るがすような重大な法解釈が記されていました。

 今回の読者投稿は、斉藤司選手の裁判によって露になったボクシング選手の契約に対する重大な問題提起を含んでいます。難解な法律用語が多いですがどうか最後まで読んでみて下さい。


試合に負けて、勝負に勝つ。 斉藤司選手裁判、千葉地裁判決の真相
 Ⅰ.訴訟概要
 主文、原告の請求を全面棄却する。その言葉を法廷で聞けば、誰もが負けを確信するであろう。
 原告、プロボクサー斉藤司選手が前所属ジムである三谷大和氏を訴えた訴訟の地裁判決が7月11日千葉地裁でおこなわれました。
 原告斉藤司氏の請求は 3 点、でした。
 1.ファイトマネーを未払い賃金として278万500円の請求
 2.優越的地位を濫用して、チケットを売りつけ売れ残りの赤字を請求した事に関する精神的苦痛として、100万円の請求
 3.被告は原告に対し、一般財団法人日本ボクシングコミッションが指定する移籍届に署名捺印せよ

 これに対し千葉地裁、小濱浩庸裁判長は判決主文で原告斉藤司選手側の請求を全面棄却しまし
た。しかし判決文の内容を紐解けば、敗訴とはとうてい言えないくらい被告側に、そして業界に厳し
い内容であることが浮かび上がります。その中でも今回は特に、3の移籍に関する判決文を中心に
判決内容を解析してみます。
 Ⅱ.プロボクサーとマネージャ―の契約の法的性質
 原告斉藤司選手側(寺島英輔弁護士)は、ファイトマネーの未払いを、プロボクサーは労働基準法上の労働者と規定し、本件契約は労働契約に当たると主張します。そして仮にこれに当たらない場合は、本件契約は有償準委任契約であると主張します。一方被告三谷大和氏側(石田拡時弁護士)は、プロボクサーは試合に出場する対価としてプロモーターからファイトマネーを得るので
あって、労働基本法上の労働者にはあたらないし、賃金請求権を有していないと主張します。また有償準委任契約にも当たらず、無名契約であると主張します。その理由として「他のプロスポーツに比べて移籍する例が少ないこと、本件契約では期間の定めがあり、契約期間中の解除が予定されていない」ので「無理由解除を認める有償準委任契約とは性格が異なる」と主張します。石田拡時弁護士は早稲田大学出身の元プロボクサーであり、業界の事情は熟知しています。
 
 これに対し判決文ではまず斉藤選手が1年のブランクを空けた等の事実を指摘し、「原告は試合に出ることやトレーニングを
おこなうことについて諾否の自由を有していたということができる」と認め、「原告が労働法上の労働者に当たるということはできず、本件契約が労働契約であるということはできない」と原告の主張を退けます。
 
 そして判決文では

「被告は JBC ルール 33 条 2 項の義務を負い、同義務の履行は被告との間の信頼関係を基礎とするものであるから、本件契約は有償準委任契約の性質を有するものと評価することができる」

とし、本件契約を有償準委任契約であると定義し、さらに踏み込んで、

 「本件契約が、原告と被告との間の信頼関係を基礎として成立しているとの本件契約の有償準委任契約としての性質を左右するものではないから、被告の主張する非典型契約(被告側は無名契約と記載)を採用することはできない」(P.14)と被告三谷大和氏側の主張も退けています。ここで鍵となるのが、2度文面に掲載されている、「原告と被告との間の信頼関係を基礎として成立しているとの本件契約の有償準委任契約」という文言です。

 つまり、プロボクサーとマネージャ―の契約は信頼関係を基礎としている、というのが千葉地裁の判断です。
 
Ⅲ.被告三谷大和氏の、 JBC 移籍届への署名捺印棄却の真相

 さて肝心の原告斉藤司選手の被告三谷大和氏への JBC 移籍届の署名捺印に対する請求棄却に関してですが、原告斉藤選手側は本訴訟において、

「移籍届を JBC に対して提出しなければ原告が被告以外のマネージャーとマネージメント契約を締結することができないという優越的な地位を濫用して」(P.17)

とジムが選手に対して保持する優越的な地位を濫用することが公序良俗に反していることを盛んに主張します。ジムの権限が選手より圧倒的に強いことは、これまでのボクシング業界では当然のことであるのは読者の皆様も当然の常識としてご存知かと思います。判決文ではこの優越的地位に関して判断を下しています。少し長いですが以下判決文を引用します。

「優越的な地位を有しているかを検討する。確かに、前提事実のとおり、本件契約書には、原告が本件契約満了などを除き、他のマネージャーと第二契約に署名しないことに同意するとの記載があり、JBC ルールは、ボクサーが、契約した 1 人のマネージャー以外の他のマネージャーといかなる契約もしてはならないと規定していることからすると、原告がプロボクサーとして活動を続けるために被告と本件契約を継続する必要性が一定程度認められる。しかし後記 4 説示のとおり、原告は民法 651 条に基づき本件契約を解除することができ、前提事実のとおり、JBC ルールは、ボクサーが契約した 1 人のマネージャー以外の他の
マネージャーといかなる契約をしてもならないと規定しているものの、旧ジムのマネージャーとのマネージメント契約が解消された後にも同規定が適用されるとの規定は存在せず、本件契約書 2 項では、他のマネージャーと契約をしないことの例外として、本件契約満了を挙げており、本件契約書及び JBC ルールには、旧ジムのとの間でマネージメント契約を解除した後に新しいボクシングジムとの間でマネージメント契約の締結をすることを制限する規定があるとは認められない。そうすると、プロボクシング界に、プロボクサーが他のボクシングジムに移籍する際、JBC に対し、旧ジムのマネージャーが新しいボクシングジムへ移籍を承諾するという内容の移籍届を提出し、移籍するプロボクサー又は移籍先のジムが旧マネージャーに対し移籍金を支払うという慣習があったとしても、原告と被告との間において、被告が移籍届に署名捺印し移籍金を受領しない限り原告が他のボクシングジムへ移籍することができないとの合意をしたと認めることができなければ、原告が新しいボクシングジムのマネージャーとマネジメント契約を締結することは可能というべきである。しかるに、原告と被告が、上記合意をしたとの事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、被告が原告に対し被告の署名捺印を得た移籍届を JBC に対し提出しなければ原告が被告以外のマネージャーとマネージャ―とマネジメント契約を締結することができないという優越的地位を有しているとはいえない」(P.17)

ポイントを整理します。

 (1)契約の有効性、契約解除の可否に関して。

  現在のボクシング界では、選手とマネージャ―の契約は3年契約自動更新とされています。移籍には JBC への前所属ジムの署名押印が入った移籍届の提出が必要ですが、 「原告は民法 651 条に基づき本件契約を解除することができ、」 原告斉藤選手は三谷大和氏との契約を解除することができる、と明記しています。また別の部分で、「原告と被告の信頼関係を基礎として成立する有償準委任契約に当たる。民法 651 条は、委任における信頼関係の重要性を基礎として、委任は当事者がいつでもその解除をすることができると定めているから、本件解除は同上に基づく解除として有効というべきである」と記してあります。
 民法第651条には

1.委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
2.当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
 
とあります。要するに斉藤選手と三谷大和氏のマネジメント契約は、解除されており現在は存在しない。ということです。

 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。とは双方の合意は必要なく、片側の意思で解除できるのであれば、それが何を意味するのかは明確だと考えられます。もちろん合理的な理由が必要となるでしょうが。

 (2)移籍届署名捺印の請求棄却に関して

 肝心の移籍届署名捺印に関しては、 「そうすると、プロボクシング界に、プロボクサーが他のボクシングジムに移籍する際、JBC に対し、旧ジムのマネージャーが新しいボクシングジムへ移籍を承諾するという内容
の移籍届を提出し、移籍するプロボクサー又は移籍先のジムが旧マネージャーに対し移籍金を支払うという慣習があったとしても、原告と被告との間において、被告が移籍届に署名捺印し移籍金を受領しない限り原告が他のボクシングジムへ移籍することができないとの合意をしたと認めることができなければ、原告が新しいボクシングジムのマネージャーとマネジメント契約を締結することは可能というべきである。しかるに、原告と被告が、上記合意をしたとの事実を認めるに足りる証拠はない。」(P,17) 要約すれば、斉藤選手と三谷大和氏の間で、「移籍届に署名捺印し移籍金を払わないと移籍してはならない」という合意がないのだから、斉藤選手は新しいマネージャーと契約できる、ということです。

 ゆえに、「原告が本件解除後に他のボクシングジムのマネージャーとマネージメント契約を締結することは可能である。」
「原告が主張する移籍届に署名捺印する義務を負うものではないというべきである」「したがって、原告の被告に対する移籍届への署名捺印は理由がない」
 と、原告斉藤選手側の請求は棄却されます。要するに、移籍届への署名捺印は必要がない、ということです。

 (3)判決の業界への判断
 ここをもう一歩踏み込んで解釈すると、判決文の業界に対する姿勢が見えます。

 「被告が原告に対し被告の署名捺印を得た移籍届を JBC に対し提出しなければ原告が被告以外のマネージャーとマネージャ―とマネジメント契約を締結することができないという優越的地位を有しているとはいえない」
 JBC への移籍届の提出ですが、マネジメント契約が存在しないのであるから提出の必要がない。ということです。現在 JBC は原則移籍届の提出を移籍の条件にライセンスを発行していますが、この移籍届への署名押印自体がナンセンスだということです。また契約がすでに存在しない選手に関しては、当然移籍金の発生もするはずがありません。JBC が移籍届がないことを理由に移籍を拒否することになれば、今度は JBC が法的責任を問われる可能性があるのではないでしょうか。
 
 また「 移籍するプロボクサー又は移籍先のジムが旧マネージャーに対し移籍金を支払うという慣習があったとしても」と移籍金等の旧来の慣習も否定しています。JBC と協会はこの斉藤選手の地裁判決を受け止め、判決に基づいたシステムの改定を早急に検討すべきだと考えます。

 (4)優越的な地位に関する判断
 原告が主張するジムの選手に対する優越的地位の濫用ですが、引用部分は重なりますが、
 「被告が原告に対し被告の署名捺印を得た移籍届を JBC に対し提出しなければ原告が被告以外のマネージャーとマネジメント契約を締結することができないという優越的地位を有しているとはいえない」とあります。判決文の判断は、 「優越的な地位を有していない」つまり選手とジム、マネージャ―は対等の関係である、ということです。

 判決文では、立場が弱い選手が立場の強いジム、マネージャーに搾取されているとの原告の主張を退けています。ボクサーが弱い立場である、ということも否定されています。業界の常識が司法の場で強く否定されたのではないでしょうか。

Ⅳ.斉藤司選手は、何故敗訴したのか

 斉藤司選手は何故敗訴したのか、に関して検証すべきでしょう。判決文の内容は選手の権利を強く保障しているにもかかわらず、斉藤司選手はなぜ敗訴したのでしょうか。

 そこには訴訟の論理があります。

 原告斉藤司選手の請求内容は、「被告は JBC の移籍届に署名捺印せよ」というものでした。判決は契約の存続を認めない内容でしたから、「原告が主張する移籍届に署名捺印する義務を負うものではないというべきである。」「したがって、原告の被告に対する移籍届への署名捺印は理由がない」と請求が棄却されました。

 仮に、請求内容が[三谷大和ジムとの契約無効を確認する]としていればどのようになっていたでしょうか。判決文を読めばどうなるかは明らかでしょう。斉藤司選手は敗訴したことによって訴訟費用の全額を負担しなければなりません。いくら内容が良いとは言え、訴訟に敗訴したというのは明確な事実です。個人的には原告側の訴訟戦術に疑念を抱かざるをえません。

 Ⅴ.判決の意義

 訴訟の判決は、斉藤司選手の敗訴に終わりましたが、判決内容を精査すると、三谷大和ジムならず、ジム関係者、協会、JBC ら業界にとって非常に厳しい結果だということに気づかされます。ここも裁判の論理なのですが、三谷大和氏全面勝訴ですので、被告三谷大和側は高裁に控訴することができない、と聞いております。つまり斉藤選手側が控訴しない限りは判決が確定します。判決の内容は相当踏み込んで画期的ではないでしょうか。斉藤選手と三谷大和氏のマネージャー契約が JBC フォーマットの契約書を使用していることも興味深いです。本判決の影響が、移籍問題で悩む多くの選手の一助になれば幸いです。

 また日本特有のジム制度の今後にも影響を与える判決であったと理解します。
 
                                                           (文責:U)
 ※読者の皆様へ、本文中の内容、解釈はあくまで個人的見解ですので、これを引用して発生したいかなる事態にも執筆者は責任は負いません。