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HARD BLOW !

澤谷廣典インタビュー 「問題は未だに収束していない」  

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 日本ボクシング連盟(以下日連)から山根明氏が排除されて間もなく一年が経とうとしています。マイナースポーツの統括団体の内紛に過ぎないと思われた問題は、山根明氏のキャラクターが世間の注目を集めたことで民放のワイドショーや週刊誌まで巻き込んだ大騒動となりました。『奈良判定』が流行語になるなどボクシングにとってはかなり不名誉なスキャンダルでしたが、オリンピックに向けてギリギリで自浄作用が働いたと考えれば、結果的に良かったとも言えます。それまでは山根会長体制で東京五輪を迎えることはほぼ既定路線と思われていました。今考えれば恐ろしい話であります。

 ほんの一年前まで日連のウェブサイトは、歯の浮くような美辞麗句で山根氏の功績を称える文書や、かしこまって居並ぶ選手や関係者の『山根詣で』の写真であふれかえっていました。判定への介入や独断的な組織運営、不透明なグローブの独占販売も野放しで、新聞やスポーツ紙もボクシング専門誌も提灯記事ばかりでした。

 現在山根支配の悪弊が正常化され、佐藤幸治選手や高山勝成選手といった元プロに競技参加が解放されたことを見ても、組織の刷新による成果は着実に上がっていると思います。

 この組織改革の嚆矢となったのは、一昨年の週刊文春誌上での元近大ボクシング部総監督だった澤谷廣典氏による内部告発でした。澤谷氏の開けたいわば『蟻の一穴』をあしがかりとして、僭越ながら当HARD BLOW!もいち早く澤谷氏の声を取り上げるとともに、判定操作やグローブ販売の問題をお伝えし、改革の一助となったと自負しております。ですが、あの頃はまさかあんな大騒動になるとは夢にも思っていませんでした。

 当ブログの過去の澤谷氏インタビューはこちらから 
             ↓
日本ボクシング連盟激震の内幕 澤谷廣典氏インタビュー
日本ボクシング連盟激震の内幕 澤谷廣典氏インタビューPART2
相撲、レスリングだけじゃない!『日本ボクシング連盟問題』再び 澤谷廣典インタビュー

 思い返せば昨年来、レスリングや器械体操といったスポーツ団体でも内紛が噴出してきました。自国開催五輪が近いということで、選手選考や組織内の主導権争いを巡って様々な思惑が渦巻いた結果、暗闘が起きていたことは想像に難くありません。ですが、それを踏まえた上で私は、山根氏の排除はボクシングにとって良いことであったと思います。

 あの嵐のような報道の洪水から一年が経ち、ボクシング界を追われた山根氏は『なんかわからんけど面白いおじさん』としてテレビに出演したり、自伝を出版したりユーチューバーになったりと逞しく世渡りしています。一方山根氏の側近という立場から内部告発者に転じて、山根体制崩壊に尽力した澤谷氏は今現在の日連と山根氏をどう見ているのでしょうか?久しぶりに会ってお話を聞いてきました。

 澤谷氏の発言はすべて赤文字です

澤谷「最近(日連の)中におるもんと話す機会もあるんですけど内田会長になって風通しも多少良うなったし、名城のアマ資格の件もおかしな処分受けとったもんの件も片付いたし、まあある一定の結果は出てると思います」

 長らくアマ資格申請が棚上げになっていた元WBAスーパーフライ級チャンピオンの名城信男氏のアマ資格が認められ、4月1日から近大ボクシング部の監督に正式就任しました。高山選手や佐藤選手の競技参加と並んでプロアマの関係改善の象徴と言えるでしょう。

澤谷「ただ『山根を支えとった人間がそのまま残っとるやないか』という不満の声も未だに上がっとるのが事実なんですわ。それは海外遠征のノウハウなんかもっとる人間もおるから、切ってしまうと組織が上手くいかんから仕方ないという事情はあるみたいです。ただ私が言いたいのは、山根氏はね何も過去の暴力団との交際が原因で追放されたわけやないやろ、ということなんです」

 山根氏は著作や報道のインタビューなどで日連を追われたのは過去の暴力団との交友が原因だという風に語っていますが、「それは違うだろ」というのが澤谷氏の言い分です。
 
澤谷「本当の理由は『奈良判定』『芦屋判定』とか、JOCの助成金の問題であり、グローブの独占販売の問題でありそういうことで辞任させられたのに、『たまたま降ってわいたようにはるか昔にヤクザとちょろっとかかわったことを暴かれて、悪いことしてないけど詰め腹を切らされた』ちゅう風に事実を置き換えとるわけです。それは違うやろと言いたいんです」

 『奈良判定』については明確な音声証拠があり、助成金についても当事者が不正を証言していたことは読者の皆さまも良くご記憶だと思います。



助成金不正を報じる記事へのリンク
         ↓
リオ出場の成松、連盟会長から助成金分配指示され「おかしいと思ったが…」(サンケイスポーツ)

澤谷「今まで『奈良判定』『芦屋判定』で負けにされて、泣かされて来た子らが一杯います。そのことに対して未だに何の謝罪もないわけですわ。ほんでもっと言えばね、なんぼ山根氏が強権的や言うてもレフェリーやジャッジが協力せんかったら『奈良判定』なんか起きてないわけです。確かにその時は山根が怖い、処分が怖いいうのはあったでしょ。みんな仕方なしとはいえ片棒かついどるわけなんですわ。これらはみんなどこどこの学校のセンセイなわけです。それやったら山根がおらんようなったから新しいスタートや言うのもええけど、まず『山根が怖かったとはいえ、教育者として不正の片棒を担いでしまったことは申し訳なかった』という謝罪の言葉があってしかるべきと違いますか?」

 山根氏という分かりやすい悪の象徴を退治したことで、外部からは問題が収束したように見えるかもしれませんが、日連内部にはまだ様々なしこりが残っているようです。

澤谷「山根の号令のもと暗躍したレフェリー、ジャッジがおるのに、『あの時は仕方なしでイカサマジャッジをしました。一人の教育者・大人として子供を裏切るようなことしてすみませんでした』という言葉が誰からもないわけです。そやけど新しい組織として出発するに当たって、やっぱり文面なりで今まで裏切ってきた子供たちと親にまず謝罪するべきと違いますか?」

 カルト宗教や独裁国家と同様、トップ支えていた人間にも責任があるのではないか?という当然の疑問ですが、これはボクシング記者とておなじであります。プロ興行の会場で澤谷氏とお会いすると、かつては山根氏を賛美する提灯記事を書いていた記者が平気な顔で澤谷氏と談笑していたりして、この人の信念はどうなってるのかな?と感じることがあります。

澤谷「山根氏もね、そら本出したりテレビ出たりそれはしたらよろしい。本人の自由ですわ。ただ自分のやったことを認めんと、『たまたま過去を暴かれたから辞めた』いうのは違うでしょ。そこは男らしくやったことはやったこととして非を認めて、謝罪してそっから好きなことやったらええやないですか。そして周りの人間もね、強要されて騙し騙しで良心の呵責に苦しみながらかも知らんけど、イカサマしたやつが未だにおるのは事実なんやから、そこは一回ちゃんとして欲しいということですわ」

 昨年山根氏とぶつかり合ったことで、澤谷氏もまた前歴を暴かれたりする向こう傷を負いました。そのことについてはここでは詳細には触れませんが、私も澤谷氏の告発を取り上げたことで友人・知人から「山根氏は確かに間違ってるか知らんけど、あの澤谷って人もなんか思惑があってやってるんじゃないの?」「あの人もすべてが正しいわけじゃないでしょ?」と言われたことが何度もありました。

 ただ一つ言えるのは澤谷氏の告発と行動がなければ間違いなく山根体制が今も存続していたということです。一昨年初めて澤谷氏にインタビューしたときに「爆弾巻いて山根会長に抱きついてあの世に一緒に行ったるぞ!というくらいの気持ちじゃないととても戦えない」と物騒な表現で覚悟を口にされていましたが、その言葉に偽りはありませんでした。結局行動をしないと、陰でグチャグチャ不平を言ってるだけでは何も変わらないということです。

 澤谷氏が指摘した判定で不正をしたジャッジやレフェリーだけでなく、山根氏と癒着して美味しい思いをしていた大手のプロジムも、山根氏の言い分を垂れ流していた御用記者も掌返しをして平気な顔をしています。彼らの筋目は一体どこにあるのでしょうか?

 澤谷氏はアマの世界からは身を引きましたが、近大出身のプロ選手が試合をする日にはリングサイドのチケットを買って東京や大阪の会場に足しげく通っています。時には「○○に頼まれてトランクスやシューズやて新調させられましたわ。エライ出費ですわ」と苦笑いしていることもありますが、その顔はどこか嬉しそうでもあります。「こっちからアレしたるコレしたる言うのはないけど、自分が大学に勧誘した子らから『お願いします』と来られたら無碍にできませんやろ」という澤谷氏を見ていると、若い人と関わって人生を変えてしまうことの重みを感じます。『奈良判定』という単語は流行として消費されてしまいましたが、その影響はまだ色濃く残っており、沢山の若者の人生に影を落としています。

 澤谷氏が言うように、きっちりとした総括が必要とされていると思います。

  酔っぱらって道で転んだ(旧徳山と長谷川が好きです)

高山勝成がアマのリングで歴史的勝利 

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 山が動いたと言いましょうか、2019年7月6日と7日、ついに高山勝成選手がアマのリングに上がりました。

 「東京五輪に出場して金メダルを目指したい」

 高山選手が2017年にぶちあげたその目標は、当初完全な絵空事と捉えられていました。ファンも関係者もその実現可能性を真剣に受け止めた人は多くなかったでしょう。当時オリンピックボクシングを統括していたAIBA(国際ボクシング協会)はプロ選手の出場に資格制限を設けており、日本ボクシング連盟(以下日連)もプロの参加に否定的でした。山根明氏の一般的な知名度も、ほぼ皆無に近かったと思います。ファンやメデイアの中には、「高山選手の行動はワガママで自分勝手だ」というような論調すらありました。

 その当時の中出博啓トレーナーのインタビューはこちらから
          ↓
 『高校卒業→大学入学』からの『世界王者のままプロボクシング引退!』からの『東京オリンピック挑戦宣言!』 中出博啓マネージャー兼トレーナーに聞いた、展開がダイナミックすぎる高山勝成選手の今までとこれから PART1

『高校卒業→大学入学』からの『世界王者のままプロボクシング引退!』からの『東京オリンピック挑戦宣言!』 中出博啓マネージャー兼トレーナーに聞いた、展開がダイナミックすぎる高山勝成選手の今までとこれから PART2


 オリンピックの主催者であるIOCはあらゆる競技でプロ選手の参加を奨励しており、本来なら高山選手の参加意思表明は歓迎すべきものです。高山陣営は署名活動やIOCやJOCやAIBAへの陳情、スポーツ調停の申し立てなどあらゆる手段を通じて競技参加への道を探り、プロアマの間に横たわる時代遅れな厚い壁を破ろうともがいて来ましたが、日連やAIBAの反応は極めて鈍いものでした。

 このまま時間だけが過ぎていくのか?と思われたおよそ一年前、皆様の記憶にも新しい山根明氏のスキャンダルが起こります。一連の内紛は『奈良判定』などの不正が発覚したことで社会問題となるほど大きな騒動を呼び、結果的に山根氏は失脚しました。一方国際組織のAIBAも、ガフール・ラヒモフ会長の麻薬犯罪との関わり(どんな組織やねん...)や競技における判定や審判の問題などから今年5月にIOCによって五輪競技からの排除を勧告されます。高山選手の競技参加を阻害していた勢力は自滅に近い形でボクシング界から去り、あれよあれよという間に視界が開けました。

 そして7月にはもう、高山選手は予選のリングに立ちました。プロで四団体のベルトを奪取して頂点を極めた男が、30代の半ばを過ぎてもう一度違う目標の為に、地方予選から戦いを始めたのです。わりと当たり前に受け止められていますが、これはかなり奇跡的なことです。

 高山選手が出場した試合の会場は、名古屋の住宅街の中にある専門学校の体育館でした。会場の入り口には来場者の靴が溢れんばかりに乱雑に脱いであり、観客も大半は同日行われた少年の部の試合の関係者や父兄です。華やかとは言えませんが、これまでも南アフリカやフィリピン、メキシコと未知のリングに裸一貫で上がって道を切り開いてきた高山選手にはかえってふさわしい舞台にも思えます。

 個人的には 「プロアマの壁を壊して世界チャンピオンがリングに上がる歴史的な試合が無料で観覧できるのに、あんまりファンは関心ないんだなあ」と少し寂しく思いましたが、報道の関心はかなり高く、記者席は満杯でその後ろにはテレビカメラの三脚が並んでいました。

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 少年の部の試合が15試合続いた後、そのまま成年一試合目の高山選手がリングに入場。リング下には中出博啓トレーナーやケビン山崎氏、山口賢一氏も集まってプロ時代さながらの臨戦態勢。緊張が高まります。

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 自分が一番注目していたのは、実戦は三年ぶりという高山選手の試合勘でした。まして彼の年齢はもう36歳。ハードワークでスピード命のスタイルが身上の高山選手にとって、加齢という残酷な事実を突きつけられる可能性もあります。

 当然プロのようなコールもなく、淡々と試合は始まりました。高山選手はプロの時代と変わらない上から吊られているような体軸のぶれないフットワークに、旺盛な手数で攻め立てて相手のパンチへの反応も良く上々の立ち上がり。捨てパンチを生かしたコンビネーションやフェイントからのビッグパンチなどテクニックも以前のままでした。対戦相手は中央大学の藤原幹也選手。序盤はサークリングしてパンチを当ててくる高山選手を攻めあぐねていましたが、徐々に圧力を強めて接近し打ち合いに持ち込んで捕まえにかかります。藤原選手は高山選手のストレートの軌道にも徐々に対応してパンチを返していきます。2Rでは高山選手が前進を受け損なって背中を向けて注意を受ける場面もあり、パンチを貰っても苦にせず前進してくる藤原選手が攻勢をアピール。ヒットは高山選手が多いものの、藤原選手は下がらずに手を出し続けて前進し、最後は打ち合いになって会場は両者の応援が入り乱れてやんやの歓声となりました。

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 終わった時点では高山選手がとったかな?と感じましたが判定結果は割れて2-1で高山選手の勝利。負けた藤原選手は大きくのけぞって悔しさを滲ませました。3Rの中に展開があり面白い試合でした
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 一者がフルマークで藤原選手という採点結果を見た瞬間、リング下にいた中出トレーナーは「えーっ一人フルマーク?」と驚きの声を上げていました。3Rでここまで採点結果が真逆になるというのは私も疑問でした。藤原選手が勝っていたという感想を持っておられる方も結構いたので、勝ち残るためには3Rという短いラウンドで圧倒的な差を見せる必要を感じました。

 試合後に中出氏に少しお話を伺うと、4月に視察したアジア選手権の採点傾向も分析したうえで、採点基準への対応の必要性を力説されていました。高山選手の仕上がりについては「アジャスト出来とったでしょ?サークリングしてパンチを当てていくのはエディジムに居たころの昔のスタイルに近いと思う」とのこと。

 試合が終わってみれば高山選手の力量はプロ時代から維持されており、さらにトーナメントの連戦に併せた調整法、採点基準に順応することで上がり目はあると感じました。ただフィジカルの強いトップ選手と当たった時に、今のサークリングして交わすスタイルでは難しいとも思います。実際試合後藤原選手は「手数は凄いけどプロ選手特有の一撃のパンチ力は感じなかった」旨のコメントをされていました。プロアマのトップ同士の対戦はまさに未知の世界であり、何とかそこまで勝ち上がって試合を見せて欲しいなと一ファンとして思います。
 
 東海予選も観戦に行きたい(旧徳山と長谷川が好きです)

こんなところに日本人?!

 ご無沙汰しております。久々の更新です。

 昨年書いたとおり、試合の感想やボクシングについての日々の雑感はツイッターでやっております。あっちのほうが格段に議論しやすくアクセスも多いのでそちらをご覧下さい。HARD BLOW!のツイッター→https://twitter.com/hardblowblog

 ブログの方は長文でないとなかなか伝わらないインタビューや批評などに限定させて頂きます。

 というわけで本題です。まずは以下の画像とリンクをご覧下さい。BOXRECに掲載されている4月21日にタイのバンコクで行われた日本人選手が出場した試合の情報です。BOXRECへのリンク→ Sunday 21, April 2019

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 プロモーターの欄にはTaishi Aoshimaとあります。日本人が関与しているようです。

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 もう一つは4月28日に行われた折尾ジム所属の栄拓海選手が出場した試合。BOXRECへのリンク→ Sunday 28, April 2019

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試合会場はラジャダムナンスタジアムになっていますが、当地ではムエタイの試合の合間に国際式の試合が挟まれることがあり、そういう形での試合出場でしょうか?

 先月行われたという上記二つの興行で4人の日本人選手は全勝となっています。「敵地で全勝とは逞しいじゃないか」となりそうな話ですが、対戦相手のレコードを見てみると日本人と戦った4選手はなんと全員未勝利!特に吉野ムサシ選手と戦ったKamon Singram選手は0勝27敗という凄い戦績です。日本ランカーの栄選手の相手は一敗一引き分けという戦績で、日本ランカーの対戦相手としては全く相応しくない選手です。 弱い選手を選んで戦うための遠征など、当の選手にしたところで気勢も上がらない『お仕事』で意欲を持って望めるとは思えません。


 なんでわざわざ海外まで言って弱い選手を選んで試合しているのか理解に苦しみますが、どうもJBCによるルール変更に理由があるようなのです。

 JBCのWEBに掲示されている以下の文書をお読みください。
                       ↓
 告示 タイ国所属ボクサーの招聘について

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 これはJBCが2018年4月から、タイ人ボクサー招請時の戦績証明について制度変更をした旨の告示であります。内容を要約すると「来日タイ人選手の戦績は、従来のタイ国コミッションが発行した戦績証明でなく、世界中のボクサーのレコードを記載する国際WEBサイトBOXREC(http://boxrec.com/)のレコードを根拠とする」ということです。BOXRECはファンにとっても、選手の戦績を調べるには欠かせない便利なサイトですが、コミッション公式の戦績証明を超える信用度を獲得したことになります。

 この告示に先んじて2017年にJBCからはすでに外国人ボクサーの招聘の規制についてという来日ボクサー招請に対する守るべき規制基準が告示されていました。

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 これらの規制は言うまでも無く、いわゆる『かませボクサー』相手の無気力試合をなくすことを目的にしています。前掲のタイ人選手に関する規制は、この戦績基準の設定を更に厳格に管理するための追加措置ということでしょう。逆に言うと、こういう規制が必要になる背景には『タイコミッションと組んで本来来日できないレベルの選手の戦績を粉飾して来日させているブローカー的な存在がいた』ということでしょう。

 実際この一連の規制以後、今までのように対戦表を見ただけで結果が分かってしまうような試合や、素人同然の無気力選手の来日は目に見えて減少し、アンダーカードでも意欲のある選手による内容の良い試合や日本人選手が倒される番狂わせがかなり増えました。再起戦や調整試合で力が下の選手と戦いたいと言う需要は確かに存在しますし、毎試合潰し合いの試合をする必要はありませんが、モノには限度ちゅうもんがあります。観光気分でやってくる半分素人のような選手の試合は無くなるに超したことはありません。

 こうした流れはファンサイド、競技面から見れば歓迎するべきことでも、逆にプロモーターや個々の選手の後援者からすれば困ったことでもあるようです。「こんな規制したら安価で弱い選手が呼べなくなる」という旨の『本音』をブログにアップした大手ジムの会長もいらっしゃいました(現在は削除済み)。勿論興行は綺麗ごとだけでは出来ません。少子化の影響でますます志望者が減るなか、好適な対戦相手を探すのも簡単ではないでしょう。タイから都合の良い選手が来てくれるのは結構な話なのでしょう。

 ですが、こうした自分が契約・後援している選手を弱い選手に当てたいという願望が、時として恐ろしい結果を生むことがあります。

 以下の記事をご覧下さい。

  渡部あきのりOPBF戦延期 横浜の興行でリング事故

 去る3月31日に横浜で行われた溜田剛×レネリオ・アリザラの6回戦で、KO負けしたアリザラ選手が右急性硬膜下血種で開頭手術となったのです。アリザラ選手はなんとか一命をとりとめたものの、大変深刻な事故であることに変わりはありません。この試合は溜田選手がA級ボクサーであるにも関わらず6回戦で挙行されました。アリザラ選手の戦績が前掲の来日選手の基準に抵触しA級の試合と認められなかったためです。プロモーターも選手の所属ジムも有名な大手の興行でもこのような危険なマッチメイクがまかり通っているのが現実です。

 そもそも競技人口の減少という根本的問題を解決しない限り、その場しのぎで外国籍選手に頼っても付け焼刃に過ぎません。新人王のトーナメント表はスカスカ、興行のラウンド数は減る一方という現状を見るに、いかにボクシング界の魅力をアピールして若い選手を呼び込んでいくか?という対策が急務だと思います。

 今年もこういう地味な記事を上げていこうと思っている(旧徳山と長谷川が好きです)
 

世界ランカー返り咲き 再び世界を目指す大沢宏晋スパーリングレポート

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 当ブログではすっかりおなじみの、大沢宏晋選手の試合が近づいてきました。

→ 大沢宏晋選手についての過去記事

 4月7日堺市産業振興振興センターで行われる試合の相手は、インドネシアのアーマド・ラヒザブ選手(昨年中澤奨選手に3RTKO負け)で、階級はスーパーフェザーで行われます。試合間隔を空けないための調整試合的なマッチメイクと言えるでしょう。

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 昨年末世界ランカーをKOで下して再び世界ランク(現在WBA5位)に返り咲いた大沢選手は次戦で44戦目。ここ数年タイトルマッチで破れたベテランボクサーが試合枯れの末にキャリアを閉じていくケースが多いですが、大沢選手は何度も挫折を乗り越えて逞しく再起し、現在も若いボクサーと同じペースで積極的に試合をこなしています。

 去る3月28日に大沢選手のロングスパーリングを見学してきたので、その様子をお伝えします。

 この日のスパーはインターバル30秒でパートナーを変えながら3人×3Rの9R。

 最初の相手はライト級の石川耕平選手。

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 二人目はスーパーフライ級の岩崎圭祐選手

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 最後はスーパーライト級の高橋良季選手

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 インターバル30秒で切れ目なく9ラウンドでしたが、最終ラウンドまで足が良く動き鍵となるジャブも上下に良く出て、昨年末の試合時の好調をキープしている象でした。以前は見られた疲れで足が止まった時に強引に右で打開しようとするような場面もなく、ボクシングがもう一度若返った印象で、ジャブがテンポよく当たることで長いオーバーハンドストレートや密着時のアッパーもより効果的になったと思います。

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 練習後少しお話を伺いました(大沢選手のお話は赤文字
HARD BLOW!(以下HB) 「昨年末のプレシアド戦ですが、かなりパンチがあったという話ですが」
大沢「パンチは強かったですね。効いたときに距離とるのも巧くて捕まえにくい相手でしたが、そういう選手を倒しきれたのは良かったと思います」
HB「KOの場面、世界ランカーのプレシアドを誘い出して動かしておいてから狙って倒せたところが価値があったと思います」
大沢「相手を動かして、出口を塞いでいって倒すことが出来ました」
HB「構えるときに手の位置を下げたことの影響がかなり大きかったようですね」
大沢「手の位置が高いとジャブが出にくいだけじゃなく、背筋にも力が入ってて結果的に足も出なくなってたんですよ。それが解消されてスタミナの持ちも良くなりました」

 大沢選手は久保隼選手に判定負けした後、再起するに当たって過去の自分の試合のビデオ映像を何度も見返して手の位置を修正し、スランプを脱して世界ランキングに返り咲きました。プレシアド戦の直前には、相当に手ごたえを感じていたのか「『久保戦で大沢は終わった』と言った人達に、もう一度世界で戦える力があることを見せる」と宣言し、有言実行してくれました。現在WBA五位で再びの世界戦が視野に入って来ました。恐らく年齢的にも最後のチャンスとなるであろう試合は実現するのか?今年も彼のことを追いかけていこうと思っています。

 四月五月の興行集中の意味が分からない(旧徳山と長谷川が好きです)

読者投稿 「日刊、報知の井岡一翔選手 JBC 復帰報道から見えるプロボクサー契約の裏側」

 久々の更新であります。昨年も記事を掲載した某業界内部の方による井岡一翔選手の国内ジム復帰に関する分析記事です(同じ筆者による過去記事→読者投稿  『試合に負けて、勝負に勝つ。 斉藤司選手裁判、千葉地裁判決の真相』)。斉藤司選手が三谷大和ジムを訴えた裁判の判決と、公正取引委員会による聞き取り調査がボクシング界の選手契約にいかに影響を与えたのか?国内では最高の認知度を誇る現役のスター選手井岡一翔による大型移籍(正確には移籍ではないですが)によって露になった国内ボクシング界の地殻変動を分かりやすく伝える内容となっています。未だに昭和のまま頭のOSが更新されていない化石のようなクラブオーナーやファンも多々いるようでございますが、法的には既に決定的な楔が打ち込まれており、変化は待ったなしだということが良く分かります。以下の記事本文が選手、業界関係者、ファン、メディアの皆様の意識を変える一助となれば幸いです。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 2019 年 3 月 23 日、日刊スポーツ及びスポーツ報知が井岡一翔選手の国内復帰を報じた。

記事へのリンク→井岡一翔が大貴ジムで日本復帰、世界戦4階級制覇へ【日刊スポーツ】』
 
 記事上で日刊スポーツは

 ”同日までに、日本ボクシングコミッション(JBC)に Reason 大貴ジム所属として選手ライセンス申請書を提出した。承認されれば、国内での試合が可能になる。 ”

と報じている。

 スポーツ報知は

 ”今春「Reason 大貴ジム」入り”

と紙面上に見出しを打ち、

”JBC 管轄下の「Reason 大貴ジム」入りし、再び国内ジム所属選手として日本のリングに上がることが 22 日、分かった。”

と報じている。紙面を丹念に拾えば、一つの事実に気づく。これは「移籍」ではない。提出されたのは「移籍届」ではなく、「選手ライセンス申請書」である。以前の所属先である井岡ジム(一翔選手の実父井岡一法氏が会長)側が了承しているか否かに係わらず、申請書は
井岡一翔選手側が JBC に対して提出したものである。当然、「移籍金」なるものが発生する余地はないであろう。
 井岡一翔選手は 2009 年 4 月 12 日に大阪でデビューしている。同選手と井岡ジムとのマネジメント契約は、JBC に引退届を提出したと本人が公表した 2017 年度末か、現在 JBC の三年契約自動更新の原則から類推すれば、9 年後の 2018 年 4 月には終了していると解釈するのが妥当である。

 ところで 2019 年 2 月 16 日の東京新聞によると、公正取引委員会は 2019 年 1 月 24 日に日本プロボクシング協会(JPBA)を、同年 2 月 6 日には財団法人日本ボクシングコミッション(JBC)を独禁法違反の恐れがないかを理由に聞き取り調査に入った。

記事へのリンク→ ジム移籍 トラブル絶えず ボクサー契約最長3年ルール 公取委、実態聞き取り調査(東京新聞)』


 記事上では公取委は JBC にルールに即した運用を求めている。契約終了した所属選手に対する旧所属ジムの介入は独禁法上の観点から見ても許されるものではない。一説には井岡一法会長は一翔選手の Reason 大貴ジムジム入りを了承しているとの噂もあるが、重要なのは両者が既に契約関係にないのであれば、”旧所属ジム会長の了承”そのものが全く不要でということである。
 井岡一翔選手の Reason 大貴ジム入りを阻むものは何もないであろう。同ジムは名前こそ聞き慣れないが、国内最多の興行を手掛ける Dangan のジムである。所属ジムとの契約関係はすでにないとした斉藤司選手の裁判から約 9 か月、プロボクサーとマネージャ―、ジムの契約関係は新たな局面を迎えようとしている。

(文責:U)